農業情報研究所農業・農村・食料アジア・太平洋地域ニュース:2013年6月20日

タイ政府 保証米価引き下げ 財政破綻を回避し、輸出競争力を取り戻す

 インラック首相率いるタイ政府が18日、2011年10月から導入した「米担保融資制度」における保証価格の引き下げに踏み切った。政府発行証券と引き換えに農民が生産した米を政府が引き取り、保管し・販売(処理)するこの制度の下で、農民は、米の水分含有量が15%を超えないかぎり、トン当たり15000バーツの生産者米価を保証されてきた。この価格を7月からトン当たり12000バーツに、20%引き下げる一方、一家族あたり50万バーツを支払うという。

 Rice pledging price cut to B12,000,Bangkok Post,6.19
 
Thailand to cut rice subsidy price,FT.com,6.19

 この制度は、市場価格を大幅(4割以上とも言われる)に上回る価格で生産された米全量を買い上げることで、国に巨額の損害をもたらしてきた。政府保有米は買い入れ価格よりはるかに安い価格で放出せねばならない。精米費、保管費、制度運用のための資金を供給する農業・農業協同組合銀行のローンの利子の支払もある。

  PM: No cut in rice pledging price,Bangkok Post,6.18
 
Rice panel inconclusive on losses,Bangkok Post,6.14
 
Rice losses 'could top B300bn',Bangkok Post,6.10
 
Source: Rice scheme losses look set to soar to B200bn,Bangkok Post,5.23

 米輸出業界も強制された高米価で競争力を失い、米輸出は以来35%も減少、米輸出世界一の座をインドやベトナムに奪い取られた。

  Rice exporters wary of pledge,Bangkok Post,4.6

 ムーディーズは17日、この制度がもたらす累積損失は2017年までに財政均衡という政府目標の達成を危うくし、タイの信用格付けのマイナス要因になると警告した。

 Moody's rice report to be rebutted,Bangkok Post,6.4

  それは国の食料安全保障も脅かすというアカデミーからの批判も聞こえる。

 高米価のために、農民は高品質の米より成長が早い米を重視するようになった。これが米の品種のバランスを崩し、消費者の選択の幅を狭める。政府保有米は2000万トンにまで膨れ上がり、政府は否応なく国内最大の米取引業者になった。好い米と悪い米が同じ場所に保管され、国際市場におけるタイ米への信用を傷つけた。2011年以来、4000万トンを買い入れ、6000億バーツを支払って、2210億バーツの損失が生じている。果物生産が劇的に減った。食品価格が高騰、貧しい人々に恐ろしい影響を及ぼしているという。

 Food security 'hit severely by pledging',Bangkok Post,6.15

 首相府の説明によれば、決定は世界市場における米価の低下、バーツ高、世界における米供給の増加を考慮したものという。つまり、かねて制度への批判を強めていた輸出業界に配慮したということだろう。同時に、2017年財政均衡目標も考慮したという。

 これで国家財政は救われ、輸出業界も救われる。輸出協会会長はこの決定を歓迎、今の世界市場価格はトン11000−12000バーツだから競争力は回復するだろうと言う。

 しかし、農民の方はどうなる。タイ農民協会会長によると、普通の米ではトン12000バーツは低すぎる。生産コストはトン8000バーツで、水分が15%を超えれば、12000バーツは9000-9500バーツにまで引き下げられる。まだ多少の利益は出るだろうが、家族の生活費を賄うには不十分だという。 農民の反発は避けられない。

 Farmers fear rice price cut ,Bangkok Post,6.14
 Rice farmers blast pledge price slash,Bangkok Post,6.20

 

 ただ、農民の決定的な現政府離れを止めるためには、ともあれ制度そのものは維持せねばならない。そのためには保証価格を下げねばならない。制度廃止の政治的リスクは、保証価格引き下げ のリスクとは比べものにならないほど大きい。農民に対しては別の方策を講じることにしよう。このあたりが首相の本音なのだろう。

 ともあれ、世界米市場は一つの転機を迎えた。価格競争は一層激しくなるだろう。