インド農民 自殺防げと議会に行進 価格・所得保証なく、企業の農地収奪も合法化 これは日本のことか

農業情報研究所農業・農村・食料アジア・太平洋地域ニュース 2016年11月4日

 近頃のテレビ、新聞、クリントンとトランプの米大統領選、山本有二の放言、他馬が全く追おうともしない競馬場でただ一騎、コウタローよろしくTPP杯目指して突っ走る安倍・自民公明党の話など、大真面目で取り上げるに値しないくだらない話題でにぎわっている。こんな無益なはなしを延々聞かされ、退屈し、飽き飽きしている人に向けて、普段はずっと縁遠いインドの農政の話でも一席、ご機嫌をうかがうことにしする。安倍農政とのあまりの酷似に感嘆する人もいるだろう。

 インドにはオール・インド・キサン・サブハ(AIKS)と呼ばれる農民運動がある。これに参加する農民が10月2日、インド議会に向けて行進を開始した。ネランドラ・モディ首相率いる政府に対して、持続可能な農業活動のために農民の自殺を防ぎ、水と森と土地を守れと要求するためだ。

 AIKSのクリシュナン共同書記によるとこういう話だ。

 「(モディ率いる)インド人民党は公正で割に合う農産物価格を約束して権力の座についた。しかし、この約束を果たさず、国中の農民の自殺に拍車をかけている」。

 ネオ・リべらリズムの経済政策が導入されて以来、過去25年の自殺農民数は35万に達している。モディは、生産コストを50%以上上回る農産物最低支持価格(MSP)の導入で農民の自殺をなくすと約束した。だが、昨年、こんな約束は実行できないと最高裁判所で宣誓した。

 人民党が権力を握るマハーラーシュトラ州の自殺農民数は、昨年だけで322に達した。その上、2万1000の5歳以下の子供が栄養不良で死んだ。そして中央政府は、MSPを超えるボーナスを与えるマディヤプラデシュ州のような州の農産物政府調達は停止すると脅かしている。

 さらに、「土地取得には農民の同意を要せず、社会的影響評価も要らないという修正土地法案を提出している。国道ハイウェイ沿いのいかなる土地も農業目的以外の目的で取り上げることができるという政府提案で、企業が一層容易に貧しい農民の農地を取り上げることができるようになる」。

 政府はビジェイマリヤのような富豪が15億ドルを持ち逃げするのを許し、小・零細農民の債務免除は拒否している。AIKSは、小農民と農業労働者に対する無利子融資も要求している。クリシュナンは、作物保険は農民の収量・所得損失を補償しなかったとも言っている。

 11月24日、全国から数十万の農民が議会に押しかけるだろういう。 

 March towards Parliament against farmers’ suicides,The Hindu,16.11.3

 米価暴落を座視、農家への所得補償も廃止し、TPPをテコに専ら買いたたきを助長するだけの生産コスト削減(小・零細農家の土地取り上げと生産資材価格引き下げ強要)を目指す安倍農政、価格・所得保証もなく、民主主義の基盤たる私権を脅かす土地政策においても、役立たずの収入保険構想でもインドそっくりだ。しかし、今の国会の勢力図では改めようがない。ただ、TPPで農民自殺者が増えないことを願うのみである(2013年、自殺農林漁業者の数は529人だった→職業別自殺者数)。