農業情報研究所>農業・農村・食料(アジア・太平洋地域)>ニュース:2021年11月20日
インド・モディ首相 農民の抗議止まない農業改革法を廃止 単なる選挙対策?
インドのモディ首相が、19日突如、農業改革法の廃止を表明した。
昨年10月に成立した新農業法の核心は、農業生産者が近くの集荷場に生産物を持ち寄り、州が固定価格で買い上げるというシステムを根本的に改め、民間企業が農民から生産物を直接買うことを許すというものだ。これにより、農民を自由市場の中で鍛え上げ、外部から農業投資を呼び込み、農業の近代化を推し進め、農民を貧困から解放しようというのである。
ところが既に大きな借金を抱え、借金が払えず自殺を余儀なくされる者も後を絶たない現状にある農民たちにとって、新法は大企業を利するだけで、農民は生産物を「買いたたかれる」遠隔の市場への出荷を強要され、ますます貧困化するだけだと、昨年来、各所で高速道の封鎖や何日もかけて全国各地からニューデリ目指してデモ行進をするなど、新法廃止を目指す抗議運動を続けてきた。この抗議行動で、過去14ヵ月で600万の死者が出ているという。
新法の突如の廃止表明は、法に対する抵抗が強烈な北部農業州、アッター・プラデシュ州とパンジャブ州の州選挙のための人民党(モディ首相が率いる)の選挙対策だろうという。
COVID19と農民運動が、絶大だった首相権力基盤を揺さぶっているようだ。それにしても、そもそもの農業改革の理念にどれほど信頼できるものだったかも疑われる。あるいは農政改革の大先輩・日本の安倍元首相に倣ったか。2017年9月の安倍首相のインド訪問で二人は親密な関係を築いたようだ。
TPP参加を前提に、農産物価格のとめどのない下落がもたらす農業生産減少・高齢化・農業所得減少・耕作放棄地増大・過疎化等々の問題を、すべて「攻めの農業」、「産業として成り立つ強い農業・農村を創造する」ことで解決しようとした安倍農政改革(注)を周回遅れで始めようとしたのかもしれない(今時、こんな発想をする先進国指導者は安倍以外にいない)。
Repeal of farm laws: ‘Victory of
non-violent struggle’,The Hindu,21.11.19
PM Modi announces
repeal of three contentious farm laws ,The Hindu,21.11.19
Modi abandons unpopular farm reforms after year-long protests,FT.com,21.11.19
India: Modi announces repeal of controversial farm laws,Deutsch Welle,21.11.20
Modi to Repeal India Farm Laws Following Protests,The New York Times,11.11.20
(注)北林寿信 第二次安倍政権の農政改革を問う―米政策見直し・構造改革と農業・農村・農民― 世界(岩波書店) 2014年4月号