大阪府 地産地消・加工直販・エコ農業取り組み農家を”担い手”に認定 面積要件なし 

農業情報研究所(WAPIC)

07.10.18

  大阪府議会9月定例会会議で、知事提出の「大阪府都市農業の推進及び農空間の保全と活用に関する条例」が原案*通りに採択された。

 *http://www.pref.osaka.jp/fumin/doc/houdou_siryou2_17076.pdf

 この条例は、

 ・「新鮮で安全安心な農産物を府民に提供するとともに、洪水の抑制等都市の安全性の維持向上やヒートアイランド現象の緩和といった良好な都市環境の創造、心安らぐ景観の形成、都市農業及び農空間を学び、親しむことを通じた子どもたちの健全な育成、さらには、農業体験を通じた健康づくり等、多様な公益的機能」を果たしているけれども、

 ・「農地面積や農家戸数、農業産出額の減少に見られるように、非常に厳しい環境にある」大阪の「都市農業及び農空間」を、

 ・「農業者が、継続して農業を営み、農空間を守ることに夢と希望と誇りを持つことができる取組を進めるとともに、農業者、農業に関する団体をはじめ、広く府民が都市農業及び農空間の重要性を深く認識し、一体となった府民運動として取り組むこと」を通じて、「積極的に守り育て」るために制定された、

 ということである。

  このような目的の達成のために実施されるべき様々な施策が掲げられているが、何よりも注目されるのは、国の認定対象とならない小規模農家も”担い手”として認定、支援措置を講じるとしている点だ。

 「府の区域において農業経営を営むもの又は委託を受けて農作業を行うものは、規則で定めるところにより、府民に新鮮で安全安心な農産物又はそれを主たる原材料とする加工品を安定的に供給することを目的とする農業経営又は農作業の受託に関する計画(以下「農業経営計画」という。)を作成し、これを知事に提出して、当該農業経営計画が適当である旨の認定を受けることができる」という。

 この認定を受けるために経営計画が満たさねばならない条件に”面積”要件は含まれない。

 @「知事が別に定める主たる従事者一人当たりの年間の農業所得の額及び労働時間の目標を達成する見込みが確実であること」、

 A「地産地消の取組を行い、自ら生産した農産物及びそれを主たる原材料とする加工品の出荷又は販売に係る収入の額が、知事が別に定める額を下回らない見込みが確実であること」、

 B「知事が別に定める環境に配慮した方法により農産物(畜産物を除く。以下同じ。)を生産して出荷し、又は販売するものであること」、

 C「知事が別に定める面積を下回らない農地について、委託を受けて主要な農作業を行うことが当該農地について農業経営を営むものを支援することとなる見込みが確実であること」、

 という要件さえ満たせば、「認定を受けた農業経営計画」とみなされ、その「確実な実施を支援するため、別に定める措置」が講じられるという。

 このような援助制度が基づく思想は、社会党政権下の1999年農業基本法で制定され、シラク政権下でコストが高すぎると葬り去られたフランスにおける農業の多面的機能維持・増進のための援助の思想に近い。それは、経済的機能(生産・食料供給)-社会的機能(雇用維持・創出)-環境的機能(環境保全・改善)の二つ以上の機能を実現する経営計画を立て、その実施を約束する農業者(のみ)を支援するとする制度である(『農業構造問題研究』2000年No.2参照)。

 それは、「欧州農業は最も競争力が強い世界の競争者と同じ価格で原料を世界市場に売りさばくこと[農業情報研究所・WAPIC注:つまり、限りない規模拡大による、限りないコスト削減で、世界市場における競争に勝ち抜くこと]を唯一の目標として定めるならば、破滅への道を走ることになる」、「農業のための大きな公的支出は、それが雇用の維持・自然資源の保全・食料の品質の改善に貢献するかぎりでのみ、納税者により持続的に受け入れられる」(99年フランス農業基本法提案理由説明)という思想の産物である。

 世界市場を土地・自然条件に恵まれた「最も競争力が強い世界の競争者」が支配する状況のなかで、このような条件を持たない国や地域の農業や農空間は、それが持つ多面的機能の発揮によってのみ生き残ることができる。このような国や地域の政策は、規模と無関係に多面的機能をこそ援助せねばならない。このような思想は、農家1戸あたりの経営耕地面積が全国最小の大阪府だけではなく、日本全体が共有すべきものだろう。

 大阪府条例が目指す農業政策の方向は、国が目指す方向でもなくてはならない。今日の日本農業新聞(1面)は、「担い手元年 暗雲」と題し、「担い手がつぶれる―。2007年産米価の大幅な下落見込みが、地域農業の担い手として立ち上がった集落営農組織と、規模拡大に将来展望を賭けた認定農業者の経営を直撃する」と報じている。秋田県能代市の農家は、「小さい農家の方がいい」とまで言っているという。