農業情報研究所

document


フランス:工業畜産地帯ど真ん中での草地畜産ー自律的経営を目指して

農業情報研究所(WAPIC)

03.9.25

 乳牛飼料の草の割合を増やすことが経済・社会・環境保護の観点から見て有効かどうか、フランス西部・工業的畜産が支配するブルターニュ地方・コート・ダムール県の農業者が実験を行なった。この実験は「自律的農業開発研究センター(CEDAPA)」と県議会の協力の下、国立農学研究所(INRA)が実施した。実験結果は、どの面から見ても、この試みが有効であることを実証したという。

 CEDAPAは、経営の外部依存を減らそうと9人の畜産農民が1982年に組織した。1994年には、慣行システムから草を取り込んだシステムへの転換や青年農業者(後継者)自律の枠組を定める基準書を仕上げるまでに成長、EUの農業環境政策援助を受けるに至った。実験は、この基準書の有効性を確かめるべく、1993年から98年までの5年間、CEDAPAに加入する27の牛乳・牛肉・羊経営と穀物・トウモロコシを飼料基盤とする慣行経営を比較する形で進められた。INRAの分析によれば、家畜や土地の生産性は低下するが、費用の削減で収益性は向上、環境汚染リスクは大きく減少するという。

 農家のCEDAPA加盟の動機は極めて多様なものであった。生産費削減、硝酸塩や農薬による水質汚染を止めること、アグリビジネスに対する経営の自律性を高めること、社会的活動や個人生活のための自由時間を増やすこと、地域の景観(生垣や溝など)の再建による生活環境改善等々である。93年の基準書は、

 ・化学肥料は使わず、飼料作地の最低4分の3を草地に当てること、

 ・冬季の乳牛飼料のトウモロコシの比率を3分の1以下に減らすこと、

 ・穀物に対する化学肥料と農薬の使用を大きく減らすこと、

などを柱とした。

 15の酪農経営の生産は、実験中の5年間で大きく変化した。初めは作物地と草地は半々であったが、5年後には草地が作物地の2倍にになった。ライグラスとクローバーの草地面積が80%を構成、乳牛飼料としての均衡の取れた混合が実現し、大豆ベースの補完飼料の使用を半減させた。草が飼料システムの中心要素となり、家畜は3分の2の生活時間を草地で過ごし、年間の給餌の半分が草によるものとなった。ただし、これは平均的な数字で、実際には、すべて草のシステムから、テンサイの比重が高い中間的な混合システムを経て、草-トウモロコシのシステムまでがある。

 経営の経済的成果は満足できるものである。粗収益と経営費の差額である租所得は、費用減少により20%改善された。家畜一頭当たり・面積当たりの生産性は低下したが、これは節約のために収益的であるシステムの粗放化を表現するものである。

 環境面では、

 ・草により土壌被覆が永久的になるために、土壌侵食と汚染物質吸引のリスクが減り、

 ・農薬使用量は3分の1から4分の1(最も危険な物質は10分の1)にまで減り、

 ・硝酸塩汚染のリスクが減少した。

 草地と作物地の窒素収支が分析された。硝酸塩は主として家畜の排泄物から出るのだから、草システムは硝酸塩汚染を必ずしも減らすものではないが、分析によると、CEDAPAの経営は慣行システムと有機農業システムの中間に位置する。この研究は、さらに、草地に戻った後の土壌中の窒素の過剰の解消にはテンサイ耕作が非常に有効なことから、草-テンサイ-小麦の作りまわしが有効であることを立証した。

 すべて草、草-トウモロコシ、混合の三つの主要タイプのシステムの経済的・環境的成果について、研究者は、混合システム、とくに窒素利用と乳牛飼料の均衡の最適化を可能にする草-テンサイ-小麦のシステムが経済的・環境的目的を最もよく両立させることを示した。これらのシステムが持続可能で、農業者に一層の自律性・経済性・永続性を保証することになるという。ただし、農業の持続可能性は、これらの農業にかかわる基準だけで決まるものではない。これらのシステムは、農村や都市の近隣、消費者、自然保護運動家、ツーリストなど、農外社会の水・大気・景観の質に対する要請に応える点でも一層持続可能で、また化石エネルギー消費が減少することにより、地球温暖化の問題に関連しても一層持続可能なシステムであるという。

 なお、CEDAPAの方法は、2000年、農業の多面的機能の強化のために99年農業基本法が導入した国土経営契約(CTE)の環境面契約に組み込まれたが、2002年には新政権がCTEを廃止してしまった。