農業情報研究所

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EU共通農業政策改革案に関する欧州委員会メモランダム

農業情報研究所(WAPIC)

03.2.6-7

 以下に翻訳紹介するのは、欧州委員会が122日に採択した共通農業政策(CAP)改革のための規則案(COM(2003)23 final,Brussels,21.1.2003)について説明する「持続可能農業のための長期的政策展望」と題するメモランダムである。規則案は、「共通農業政策の下での直接助成計画並びに一定作物の支持計画のための共通ルールを定める理事会規則」案、「欧州農業指導保証基金(EAGGF)からの農村開発助成に関する規則(EC)No1257/1999を修正し、規則(EC)No2826/2000を廃止する理事会規則」案、「穀物市場共通組織に関する理事会規則」案、「コメ市場共通組織に関する理事会規則」案、「2004/05年から2007/08年までの市場年度の乾し草市場共通組織に関する理事会規則」案、「牛乳と牛乳製品の市場の共通組織に関する規則(EC)No1255/1999を修正する理事会規則」案、「牛乳・牛乳製品部門における賦課金を定める理事会規則」案からなる膨大なものである。

 このメモランダムは提案の背景・目的・影響・内容を簡潔に説明している。以下はこれを翻訳・紹介するものである。

  1.持続可能な農業に向けて

 1999年、ベルリン欧州理事会は、農業改革過程の新しく、重要な一歩であるアジェンダ2000CAP改革に合意した。アジェンダ2000は、特別な問題を抱える地域を含むヨーロッパ全体に広がる農業システムの多様性を保全することを目的とし、その後数年間のヨーロッパ農業モデルに具体的形態を与えるものであった。その目標は、一層の市場指向と競争力の改善、食品の安全と質、農業所得の安定、環境への関心の農業政策への統合、農村地域の活性の開発、簡素化と分権の強化にかかわる。

 これらの目標は、2001年のヨーテボリ欧州理事会で合意された「持続可能な発展戦略」に沿うものであり、それはすべての政策の経済的・社会的・環境的影響が調和的方法で吟味され、政策決定において考慮されるように要請していた。

 欧州委員会は、20017月、「持続可能な農業に向けて」という中間見直しに関する通信[1]を採択した。この通信は、1992年以来のCAPの変化を評価し、多くのことが達成されたと結論した。市場バランスは改善され、農業所得も改善されてきた。EUの拡大と現在のWTO交渉のための健全な基盤が作られてきた。しかし、CAPのために設定された目標と、社会が期待する成果を引き出すその能力との間には、なお多くの分野でギャップが残っている。従って、欧州委員会はCAPに対する多数の調整を提案した。

 立法の提案に当り、欧州委員会は200210月のブリュッセル欧州理事会の結論と、20027月の通信の公表に続いて起きた市民社会、閣僚理事会、欧州議会、欧州経済社会委員会(EESC)、地域委員会、その他の諮問委員会の内部での濃密な論議を考慮した。論議は、農業者代表、産業、消費者、環境グループ、NGOとのEU構成国内での接触により豊かなものになった。これらの論議は一層のCAP改革の方向について広範なコンセンサスがあることを明らかにした。しかし、懸念と疑念があることも明らかになった。提案に当り、欧州委員会は、これらの懸念と疑念を考慮するとともに、影響の分析とブリュッセル合意から生じる新たな予算上の制約を考慮した。

 新たな加盟国への直接援助の導入に関する委員会提案を支持するブリュッセルでの国家元首・政府間の合意は、拡大過程における大きな前進を画するものであった。これは、200212月のコペンハーゲンにおける10の加盟候補国との交渉の成功裏の終結に道を開いた。この合意は拡大EUにおける市場・直接援助支出の上限(シーリング)を設定したが、それはインフレ率を下回る速度で上昇することになる。それは、第二の柱[訳注:アジェンダ2000CAPの重要な一要素として認められた農村開発政策を指す]の重要性を確認、条件不利地域と農業の多面的機能の重要性を再確認もした。

 CAPの中間見直しを実行するためのベルリン欧州理事会による要請に加え、ヨーテボリとブリュッセルで設けられた新たな課題と挑戦に応じるために、さらなる手段が必要になる。シーリングの形での農業支出の新たな長期的フレームワークにより、将来のCAPの発展に関する明確な展望が要求される。そのような確実性なくしては、部門は将来を計画できない。従って、中間見直しに関する通信で示唆したように、一層の改革手段が必要である。すなわち、

 −EUの生産者が市場のシグナルに応じることを可能にする一方で、彼らを極度の価格変動から保護する実際的な安全ネットとしての介入を設けることで、EU農業の競争力を強化すること

 −歴史的基準[過去の実績]に基づき、環境、食品安全、動物福祉の要件を満たすデカップルされた単一農場支払の導入を伴う生産物助成から生産者助成へのシフトを完成することにより、一層市場指向的で、持続可能な農業を促進すること

 −EU規模のモジュレーション[市場措置としての生産者直接援助の減額調整]の導入と、農村開発のために現在利用できる手段の範囲を食品品質の改善、一層高度の基準への合致と動物福祉の助長に拡張することを通じ、CAPの第一の柱[市場支持措置]から第二の柱に資金を移転することにより、助成のバランスの改善と強化された農村開発を提供すること

CAPの明確な政策展望の提供

 農業者の所得を適切な方法で安定させる必要があるから、さらなる改革の必要性は、ほぼ確実に追加支出につながるであろう。ブリュッセル・サミット[欧州理事会]の予算決定に従えば、これは第一の柱の支出を節約することを通じて利用可能な財源を増すことによってのみ達成できる。従って、追加的改革努力は既存の直接支払と市場支出の節約を要請することになる。

 予算節約が公正で、透明で、予測可能な方法でなされなければ、EUは農業に関するさらなる決定に関して手詰まり状態に直面する危険性が現実にある。その場合、支出の削減と再配分をケース・バイ・ケースで同時に交渉する必要があるだろう。個々の農業者がこのの節約にどれほど寄与するのかということになると、農業者間のバランスと公正性を確保することはほとんど不可能である。これでは農業者が計画を立てることが非常に難しくなる。さらなる改革の努力に加え、そのような努力がどれほど財政的に手当てされるか予想できないからである。

 しかし、確実性の欠如は農業者の利益を損なうだけであるし、CAPを社会の期待に一層添わせるための決定を傷つけもする。実際、CAP改革過程における断片的アプローチは多くの既存の問題を増幅させ、持続可能な農業へのリスクを現実のものにする。従って、欧州委員会は節約を生み出すメカニズムを提案した。これは新たな財政需要が農業部門間でバランスの取れた方法で満たされるように保証する。

EU農業の競争力の強化

 影響分析は20027月の欧州委員会により提案された調整を行なうことの必要性を支持する。牛乳割当システムのための選択肢に関する広範な論議を経た後の欧州委員会の見解は、アジェンダ2000の改革は価格の現実を一層よく反映するように拡張されるべきであり、バターと脱脂粉乳の支持のレベルに更に差を付ける必要があるというものである(訳注)。デュラム小麦の品質プレミアムは、簡素化された方法で一層高品質な生産を奨励するために修正することも提案されている。
 (訳注)アジェンダ2000では、牛乳部門の改革は2005/2006市場年度から、a)バター、脱脂粉乳の介入価格を3段階等分で15%引き下げ、b)生産割当枠を全体で2.39%の増枠、c)農家所得確保のために3年間かけて援助制度を導入などの改革をスタートさせるとされていた。

一層市場指向的で、持続可能な農業の促進

 生産と切り離された[デカップルされた]単一農場支払の導入に関する論争は、欧州委員会がその提案で取り組むことになった多くの関心を際立たせた。

 −デカップリングの結果としての土地放棄を回避するために、欧州委員会は、農業者が新たなクロスコンプライアンスの要件[この援助を受給することと引き換えに農業者が遵守を義務づけられる条件]の一部として厳格な土地管理の義務を果たさねばならないことを明確にした。

 −借地農と土地所有者の利害の均衡が確保されるように、提案は支払受給権の移転のシステムを確立する。支払は、土地との結びつきを維持し、良好な農学的条件で生産または土地の維持を行なう農業者に対してのみなされる。対応する土地基盤がない家畜生産のためには特別の取極めが設定される。

 WTOとの関連では、新たな単一農場支払はグリーンボックスの条件にかなうであろう。デカップリングは、非貿易関心事項のようなWTOの目標を達成するためのEUの交渉力を最大限にすることを可能にする。かくして、デカップリングのための提案は、「ヨーロッパ農業モデル」のための最善の協定を獲得するために決定的に重要なものである。

 便益、特に行政にかかわる便益を最大にするために、単一農場支払は可能な限り広範な部門を包含する。それは穀物・油料種子・蛋白源作物と穀粒豆類、牛肉と羊肉、コメ・デュラム小麦・乾草のための修正された支払、牛乳支払の実施に関しての牛乳部門に含まれるすべての生産物をカバーする。改革が予定されているその他の部門(砂糖、オリーブ油、タバコ、棉、可能ならば果実と野菜、ワイン)についての提案も、2003年中にはこれらに続くことになろう。

農村開発の強化

 農村開発のために現在利用可能な手段の範囲を食品の品質の改善の促進、一層高度な基準への適合化、動物福祉の促進に拡張する提案は広く歓迎されてきた。

 欧州委員会は、第二の柱の下での欧州共同体[EC]農村開発政策の簡素化を求める構成国の繰り返される要請に慎重に留意してきた。欧州委員会は第二の柱の効率的管理の重要性について構成国と合意している。既に、構成国とともにそのような簡素化の実施に能動的、建設的に着手しており、具体的成果を達成することを全面的に約束している。200212月末、欧州委員会は、欧州委員会の実施ルールのレベルでの農村開発計画作成の管理を容易にする重要な提案を行った。農村開発の対象と範囲を拡大する現在の提案の文脈において、簡素化は一層重要になる。

助成のバランスの改善

 ブリュッセルにおける農業市場支出のシーリングの設定は、予算項目間のシフトのためのメカニズムが次期の財政見通しがスタートするまでは実施できないことを意味する。従って、欧州委員会は、市場支出・農村開発の助成のバランスを改善するために、次期財政見通しのスタート時点からのモジュレーションの導入を提案する。

 欧州委員会は、特にブリュッセル欧州理事会の結論に照らし、第二の柱のさらなる強化の必要性を強調する。これに関しては、将来の議論を禁じるものではないが、第一の柱から第二の柱への移転は、必要な農村開発再強化における第一歩とみなされるべきである。

 この第二の柱へのシフトと新たな市場改革から生じる新たな財政需要は、新たな漸減システムを通して実現される。このシステムは、直接支払のバランスの取れた削減とその簡素な方法での実施を確保するために、農場が受け取る直接支払の総額に応じて削減を漸増するという原則を導入する。

2.提案された改革のインパクト

 提案されたCAPの政策措置の調整は、生産に関する決定における柔軟性を最大限にし、生産者の所得の安定性を保証しつつ、助成が提供される方法を大きく簡素化する。その実施は、現在の助成システム内部における環境への悪影響を刺激する要因を取り除き、立法の実施過程を改善し、一層持続可能な農業方法を奨励することになる。また、CAPにおける実質的簡素化を促進し、EU拡大過程を容易にし、WTOにおけるCAPの防衛を助ける。

 提案された調整は、途上国が、食糧安全保障を維持しつつ、世界貿易からの利益を十全に享受することを保証するというEUの国際的目標を補完するであろう。影響分析が示すように、提案は、助成を一層粗放的な農業方法と一層貿易歪曲的でない国内助成に向けて方向づけることで、輸出の利用可能性を減らし、それにより途上国の農業部門の利益となる世界市場価格の堅調化に寄与するであろう。

 これらの調整のためには、EUは、「ヨーロッパ農業モデル」のための持続可能で予見可能な政策フレームワークを将来にわたって提供できなければならない。このような変化は、新たな予算フレームワークにより、一層緊急を要するものとなった。これは、EUが、安定した農業政策を将来のために保全し、農業者のための所得支持の透明で、一層公平な配分を保証し、消費者と納税者の希望に一層良く応えることを可能にする。

2.1 経済的影響

 欧州委員会は、「中間見直し(MTR)」において提案された調整の詳細な影響分析を公刊した[2]。この分析の広範な結論は、助成のトータルなレベルの変化にもかかわらず、MTRの提案は資源の商品間配分と所得移転の効率の改善をもたらするというものである。

 EUの穀物生産は、主として直接援助のデカップリングの実施、炭素クレジットの提案、価格支持レベルの切り下げのために、すべての分析が若干の減少を予想している。これは、大部分の分析が平均収量の増加を予想しているから、主として穀物作付面積の減少の結果である。小麦は、大部分の粗粒穀物よりも世界市場価格の改善の見通しの利益を受けるだろうから、粗粒穀物よりも影響は少ないであろう。
 油料作物に関するMTR提案の影響は、大部分の分析が「食料」油料種子生産の若干の減少を予測しているとはいえ、もっと複雑である。欧州委員会の分析によれば、炭素クレジットの支払が、主として穀物聖餐を犠牲にしてエネルギー作物、特に油料作物の生産の増加につながるであろう。

 家畜部門における直接支払のデカップリングの実施は、生産システムの粗放化に味方することで牛肉と羊肉の生産の減少をもたらし、関係家畜農場の所得へのプラスの影響を伴う市場価格の上昇を生み出すであろう。
 MTR提案の農業所得への影響は、一般的にはEU農業部門全体にとって限定されたものであるが、様々な商品部門と地域によって影響は異なる可能性がある。

 直接支払のデカップリングの実施は家畜部門における所得増加(市場価格上昇を通しての)をもたらすが、この増加はライ麦への介入の廃止による粗粒穀物市場価格の低下のマイナスの所得影響によって、部門レベルで広範に覆される。

2.2 予算への影響

 EU15ヶ国については、提案された措置は2006財政年度については33700万ユーロ、2010年からはおよそ18600万ユーロと推定される節約を引き起こす。この影響は、市場措置のための提案の下での節約が2006年にプラス7億2千900万ユーロ、2010年からはプラス161千万ユーロと推定される直接援助に関する提案の影響よりも大きいという事実から生じる。
 しかしながら、新規加盟国については、2010年の財政インパクトは、全支出における直接援助のシェアの増大の結果として、年々増加するおよそ8800万ユーロの追加支出が2013年には24100万ユーロに達する。

 25ヶ国の拡大ヨーロッパのための市場措置と直接援助の資金融通のブリュッセルで決定された新たなシーリングの範囲内にすべての支出を収めるために、2007財政年度から、現EU15ヶ国のための直接援助の削減が提案される。

農業支出見通し−改革提案(単位:100万ユーロ)

 

004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

25ヵ国シーリング

42,979

44,474

44,395

45,759

46,217

46,679

47,146

47,617

48,093

48,574

25ヵ国支出
 
内15ヵ国
 内新規加盟国

41,681
41,320
361

43,642
41,339
2,303

44,395
41,746
2,649

45,156
42,183
2,973

46,123
42,802
3,321

47,568
43,369
3,999

48,159
43,513
4,646

48,805
43,513
5,293

49,151
43,513
5,938

50,099
43,513
6,586

シーリングと支出の差

1,298

832

911

603

94

-889

-1013

-1,188

-1,358

-1,525

直接援助漸減
 内農村開発利用可能分
     

228
228

751
475

2,030
741

2,420
988

2,810
1,234

3,200
1,481

3,343
1,481

3.中間見直しと新規加盟国

 加盟に先立つ期間に取られる一定の決定と他の措置の採択に関する情報及び協議の手続の実施のための国際取極めに従い、欧州委員会は、閣僚理事会に伝達したのち、中間見直しに関する付属提案を新規加盟候補国に伝達する。各新規加盟候補国は、上記の取極め[3]の条件に従って、これらの提案に関する討議を要求することができる。

 4.1 市場の安定化と共同農業組織の改善

耕作部門

穀物

 介入価格を(アジェンダ2000で提案された20%のうちの)5%切り下げ(訳注)、2004/05年から95.35/トンとし、介入を現実の安全ネットとして確保する。介入在庫のさらなる蓄積を回避するために、ライ麦は介入システムから除外される。

 (訳注)欧州委員会は、アジェンダ2000のCAP改革案で、穀物介入価格(価格下落の際に買入れ介入措置発動の基準となる価格で、EU域内における穀物の最低保証価格となる)を20%切り下げることを提案したが、最終的には15%切り下げに値切られた。

 介入の役割を減らすために、介入価格の季節調整はもはや正当化されない。従って、[収穫期後、月ごとに介入価格に一定額を上乗せする]月次加算制度は廃止が提案される(訳注1)。スターチとその一定の派生製品のための生産払戻し金はもはや適用されない(訳注2

 (訳注1)これもアジェンダ2000で提案されたが実現できなかった。

 (訳注2)この生産払戻し金は、EUスターチ生産者に域内産原料の使用を促がすため、域内産原料と外国産原料との価格差を生産者に補填するものである。

 穀物介入価格切り下げの結果として、穀物及びその関連作物についての面積支払はトンあたり63ユーロから66ユーロに増額される。これは単一農場支払[後述]に含まれることになる。

蛋白源作物

 現在の蛋白源作物についての追加金(トン当り9.5ユーロ、生産奨励のために介入価格に上乗せされる)は維持され、ha当り55.57ユーロの作物特定面積支払に転換される。これは140万haと定められる新たな最大限保証面積の限界内で支払われる。

デュラム小麦

 伝統生産区域でのデュラム小麦追加金はha当り344.5ユーロから250ユーロに切り下げ、単一農場支払に含まれる。デュラム小麦が支持される他の地域についての現在ha当り139.5ユーロと設定されている特別援助は、2004年から始めて、3年間で段階的に廃止される。

 セモリナとパスタの生産のための使用に関連するデュラム小麦の品質を改善するために新たなプレミアムが導入される。このプレミアムは、認証された選抜品種の種子を一定量使用する農業者に、伝統生産区域で支払われる。品種はセモリナとパスタに関する品質要求に合致するように選抜される。ha当り40ユーロのプレミアムが現在伝統生産区域で適用されている最大限保証面積の限界内で支払われる。

スターチ・ポテト

 規則(EEC)No 1766/92はスターチ・ポテトの生産者への直接支払を提供している。その額は、アジェンダ2000のフレームワークでスターチのトン当り110.34ユーロと設定された。この支払の50%は単一農場支払に含まれることになる。残りはスターチ・ポテトの作物特定支払として維持される。最低価格は廃止される。

乾草

 乾草の助成は生産者[栽培者]と加工産業の間で配分される。生産者への直接助成は、産業への引渡しの過去の実績を基準に、単一農場支払に統合される。国別のシーリングが現在の国別保証数量を考慮して定められる。

 4年間の過渡期には、脱水及び天日干しか飼い葉産業のための簡素化された単一助成計画が、2004/05年のトン当り33ユーロから援助の漸減を伴って適用される。それぞれの国別保証数量は合同される。

種子

 規則(EC)No 2358/71は、選抜種子の生産のための援助を設けた。現在生産された種子のトン当りで支払われる援助は単一農場支払に統合される。それは、援助されるトン数に上記規則の第3条を適用して設定される額を乗じて計算される。

コメ

 特に[後発途上国に適用される武器を除くすべての産品を無税・無割当で許す]EBAイニシアティブの影響による市場バランスの安定化のために、欧州委員会は介入価格を一度に50%切り下げ、世界市場価格に沿ったトン当り150ユーロの有効支持価格とすることを提案する。生産者の所得を安定させるために現在の直接援助はトン当り52ユーロから177ユーロに増額する。これは1992年とアジェンダ2000の改革に関係する総穀物補償と均等な率である。このうち、トン当り102ユーロは単一農場支払の一部をなし、現在の最大限保証面積(MGA)を限界とする実績に基づく権利を基準に支払われる。1995年改革の収量を乗じた残りのトン当り75ユーロは作物特定支払として支払われる。MGAは1999-2000年の平均か、現在のMGAのどちらか低い方のものに設定される。市場価格が有効支持価格以下に下落したときには、民間在庫計画が導入される。これに加え、市場価格がトン当り120ユーロ以下に下落したときには、特別措置が発動される。

ナッツ

 現在のシステムはha当り100ユーロのフラットなレートの年次支払に置き換えられ、国別保証面積に分割される80万haの最大限保証面積について与えられる。これは、国により、年間ha当り109ユーロまで増額できる。

牛乳

 酪農民に安定した展望を提供するために、改革された牛乳割当システムを2014/15年まで延長する。

 1999年3月、ベルリン欧州理事会は、予算の制約を考慮して牛乳部門の改革に発効の延期を決定した。現在の財政展望で予期されなかった財源の利用が可能になったから、欧州委員会は、ベルリンで合意された牛乳部門改革は、改革の目標と利益を可能なかぎり早期に実現するために、1年前倒しすべきと強く考える。さらに、アジェンダ2000の完全実施後の基準量に基づく2007年と2008年の1%ずつの割当量増加のために、牛乳支持価格の切り下げが必要である。

 既定の年に5%の画一的切り下げは、5年間にわたる脱脂粉乳の年3.5%、バターの年7%の介入価格切り下げに置き換えられる。全体としてバター価格35%、脱脂粉乳価格17.5%の切り下げは、5年間でのEU牛乳目標価格28%の切り下げに相応する。バターの介入買入れは年間3万トンで打ち切られる。これを超える量については、買入れは入札手続の下で行なわれる。

 2007年と2008年には、アジェンダ2000と同様な方法を使用し(訳注)、直接援助を通して追加補償がなされる。すべての牛乳支払は単一農場支払に統合される。

 (訳注)アジェンダ2000では、農家所得確保のために、3年間かけて援助制度導入、この援助は3段階等分増額されるとされていた

 4.2 直接援助のデカップリングー単一農場支払の設立

 単一農場支払が様々な共同農業組織の下でのプレミアに置き換わる。農業者は、2000年から2002年を基準期間として、耕種作物、牛肉と子牛肉、牛乳と酪農製品、羊と山羊、スターチ・ポテト、穀粒豆類、コメ、種子、乾草のための支払をカバーする基準額に基づく単一農場支払を受け取ることになる。

  単一農場支払は、その移転を容易にするために、複数の支払受給資格[受給権]に分割される。各受給権は基準年においてこの額を生じさせた(飼料作地も含めて)面積により基準額を割ることで計算される。受給権に基づく支払請求は、保有地(ホールディング)のすべての農地面積と定義される適格な面積を伴うものでなければならない。適格な面積には、2002年12月31日の時点で永年作物、森林、非農業目的に使用された面積を含めることはできない。相当する土地基盤がないか、受給権が1万ユーロを超える家畜生産については、特別な支払受給権が相応する条件で適用される。単一農場支払と特別支払についての国別上限が設けられる。国のレベルでのこの額の1%は困難な状況が生じた場合のために留保される。

 受給権は、土地を伴い、あるいは土地を伴わずに、同一国内部で移転することができる。各国はその内部で移転が制限される地域を定めることができる。さらに、各国は地域の平均に関連して受給権を調整することもできる。

 農業者は、永年作物は除き、この土地をあらゆる農業活動に使用することができる。不可抗力と例外的状況の場合は別として、最大限5年間使用されなかったすべての受給権は国の留保分に配分される。

環境、食品安全、動物の保健と福祉、職業安全基準の強化

 [支払受給と引き換えに農業者に一定の条件の遵守を義務づける]強制クロス・コンプライアンスは、環境、食品安全、動物の保健と福祉、農場レベルでの関連職業安全の分野における法定のEU基準に適用する。また、土地放棄とその結果としての環境問題を回避するために必要なデカップリング補完措置として、直接支払受益者は、すべての農地を良好な農業条件に保つことを義務づけられる。

 これは農場全体にかかわり、受益農場に違反がある場合には制裁措置が適用される。そtればすべての部門、使用農地にも非使用農地にも適用される。

 これらの法定基準の遵守義務に違反する単一農場支払、またはCAPの下での他の直接支払を受け取る農業者は制裁システムに服する。懲罰は援助の部分的または全面的削減の形態をとる(ケースの重大性に拠る)。

農場助言システム

 農場助言システムはクロス・コンプライアンズの一部として強制的なものである。その導入は、第一段階では、直接支払を年間1万5000ユーロ以上受け取るか、年間売上高10万ユーロ以上の生産者に限定される。その他の農業者は任意にこのシステムに参入できる。このサービスは、農業者へのフィードバックを通して、生産過程で基準や良好な慣行が生産過程でどれほど実施されているかに関する助言を提供する。

 農場監査は、標的となる一定の問題(環境、食品安全、動物福祉)に関連する企業レベルでの資材のフローやプロセスの組織的で定期的な現状把握と会計にかかわる。農場監査のための助成は農村開発措置の下で利用できる。

長期的な環境セット・アサイド

 現在セット・アサイド(休耕)の義務に服している生産者は、単一農場支払受給の条件として、引き続き現在の穀物−油料種子−蛋白源作物(COP)面積の10%相当の面積をセット・アサイドを義務づけられる。有機農業は、有機農業関係面積についてこの義務を免除される。セット・アサイドは輪作の一環としてのものではなく、農業目的や商業目的での作物生産のために使用されてはならない。しかし、各国は、環境上の理由でえ必要な場合には輪作の一環としてのセット・アサイドを許すことができる。土地の移転の場合には、セット・アサイドが継続されねばならない。

エネルギー作物の助成ー炭素クレジット

 欧州委員会はエネルギー作物のためのha当り45ユーロの援助を提案する。これは150万haのEUのMGAに適用される。この援助は、加工が保有地上の農業者により行なわれる場合は除き、その生産が農業者と加工産業の契約でカバーされる面積に関して行なわれる。欧州委員会は、エネルギー作物計画の5年間の適用期間のうちに、その実施に関する報告を閣僚理事会に提出し、適切な場合には提案を行なう。

統合された行政及びコントロールシステム(IACS)

 IACSは直接援助に関係する新たな諸規定を基に適合化されねばならない。特に、単一農場支払の導入は現在のIACSの中心的構成要素の簡素化に導くであろう。COPや家畜生産の識別は、コメやデュラム小麦などの作物特定支払の受益が継続する生産物を除けば、もはや単一農場支払を条件づけるものではないからである。現在の支払監視・コントロールシステムは、支払受給権とそれを有効化するために必要な面積の関連のチェックを容易にするために使われる。従って、圃場を識別するシステムは、依然として新たなIACSの基本的なものである。

 援助の申請は面積の適格性や対応する支払受給権の存在に関係する行政コントロールに服さねばならない。これらの行政コントロールは、コントロール対象面積に電波探査の方法を適用することができ、サンプルベースで行なわれる現場チェックにより補完されねばならない。指定された権限ある当局により調整されねばならないこれらのコントロールとチェックは、適格性条件を満たさないことが発見される場合に援助の削減、あるいは排除を生じさせよう。

 クロス・コンプライアンスに関連したコントロールも新たなIACSがカバーせねばならず、従って、それは適格性条件に限定されない。このために、提案は完全に統合された行政・コントロールシステムを提示する。この点に関しては、法定の管理要件や良好な農業条件の尊重を検証するために既に各国に存在するコントロール・システムが、IACSと両立させるようにして、そのフレームワークとして利用できると予想される。これは、とりわけ指令92/102/EECと規則(EC)No1760/2000の家畜識別・登録システムに関係する。全体に適用される規則のための提案の付属書Cに述べられたこれら援助計画を管理し、コントロールするシステムもIACSと両立しなければならない。

 4.3 漸減

 助成のバランスの改善を確保し、将来の財政需要に適う予測可能で、透明なフレームワークを提供するために、2006-12年における漸減のシステムが提案される。与えられた年に農業者に与えられる支払は次の方法で漸減される。

漸減とモジュレーション

直接支払削減の比率(%)

A:一般的漸減

BからD:1農場の受取額階層別の減額比

E:モジュレーションー農村開発予算充当のもの(受取額階層別)

F:将来必要となる市場措置に充当のもの(受取額階層別)

    2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
A 直接支払の一般的削減

1

4

12

14

16

18

19

B
C-(A+E)/2
D=A

1-5,000ユーロ階層
5,001-50,000ユーロ階層
50,000ユーロ以上階層

0
1
1

0
3
4

0
7.5
12

0
9
14

0
10.5
16

0
12
18

0
12.5
19

E

5,001-50,000ユーロ階層
50,000ユーロ以上階層

1
1

2
2

3
3

4
4

5
5

6
6

6
6

F

5,001-50,000ユーロ階層
50,000ユーロ以上階層

0
0

1
2

4.5
9

5
10

5.5
11

6
12

6.5
13

 前記のように概括されるシステムの枠内で、2006年の1%からスタート、2011年には6%となる漸減から生じるモジュレーション(直接支払の減額調整)の部分は、各国がその農村開発プログラムに含まれる措置のための追加共同体支援として利用できる。これらの額は、農地面積、農業雇用、購買力平価による1人当りGDPの基準に従って各国間に配分される。残りの額は、新たな市場改革のための追加財政需要のために利用できる。漸減とモジュレーションは、段階的に導入される直接援助が正常なEUのレベルに達するまで、新規加盟国には適用されない。

 4.4 農村開発の強化

 欧州委員会は、農村開発政策の再編に関して将来起こりえる論議を侵害することなく、新たな措置の導入によって共同体農村開発支援の対象範囲を拡大することを提案する。これらの追加は、農村開発支援が実施される基本的フレームワークを変えることなくー2000-2006年の現プログラミング期間の中間段階でこれを変えることについては、欧州委員会は逆効果を生むと考えているー、第二の柱の下で利用できる措置の「メニュー」とされる。

 提案された新たな措置は、すべて改革に随伴する措置で、EU領土全体で、農業指導保証基金(EAGGF)指導部門により資金を供給される。これらは、すべて、基本的には農業者を受益者とする。各国及び地域は、その農村開発プログラム内にこれら措置を採り上げることを望むかどうか決定することになる。新たな措置には次にものが含まれる。

 第一に、規則(EC)No.1257/1999に、次の二つの措置を含む「食品の品質」と題する新たな章が導入される。すなわち、

 −農産物の品質と使用される生産プロセスを改善し、またこれらの問題で消費者に保証を与えるための共同体計画または承認された国家計画に任意のベースで参加する農業者に対する奨励支払が許される。このような助成は、最大限5年間、年々、1ホールディング当り1,500ユーロまで支払うことができる。

 −上記措置の下で支援された品質計画に拠り生産された製品について消費者に知らせ、またこの製品の販売を促進するための活動について、生産者集団を支援する。

 第二に、「基準適合」と題する次の二つの措置を含む新たな章を導入する。

 −各国が、環境、公衆・動物・植物保健、動物福祉、職業安全に関する共同体立法に基づく基準の導入に適合するように農業者を助ける一時的で漸減的な支援を提供する可能性。援助のレベルは、追加義務のレベルや特殊な基準の導入に関連した農業者の運転コストを考慮して加減されねばならない。援助はフラットなレートで払うことができ、最大5年間の間に漸減させる。援助は年間1ホールディング当り1万ユーロのシーリングに従う。基準の不実施が既に国内法に含まれる基準の個別農業者による非遵守による場合には、いかなる場合にもを援助を払うことはできない。

 −第三に、規則(EC)No.1257/1999の現在の農業環境の章に、動物福祉を改善し、また通常の良好な動物飼育慣行を超えることを最低限5年間について約束する農業者に助成を支払う可能性を導入する。このような助成は、家畜単位当り年に最大500ユーロまで、この約束から生じる追加コストと失われる所得を基礎に年々支払うことができる。

 新たな措置の導入から生じる一連の技術的修正に加え、欧州委員会は、理事会規則のレベルでの一定の諸条項の簡素化と明確化を行なう現在の提案の文脈において、規則(CE)No.1257/1999の修正の機会を利用することを提案する。これらの修正は、林業及び訓練の章の適用対象の明確化や農村地域の適応と開発に関する章への地方パートナーシップ集団に関連した管理コストをカバーする新たなインデントの追加に関係する。

 2004年には、欧州委員会は、農村開発が、特に生物多様性及び指令92/43/EC(すなわちハビタート指令)の実施に関連して、持続可能な発展の目標に寄与している程度をレビューする。さらに、同じレビューは、新たに発効した共同体食品安全基準に適合する農業者に提供される助成を小規模な、伝統的食品製造者にも拡張する可能性を考慮する。必要ならば、欧州委員会は、CAPのこれらの目標への寄与を強化するための提案を行なうであろう。

(以上)


[1] COM(2002)394final

[2] 詳細は次のアドレスで利用できる。http://europe.eu.net/comm/agriculture/publi/reports/mtrimpact/index_en.htm.

[3] これは、未だ欧州委員会が採択していない。