ヨーロッパを襲う旱魃、模索される救済策

農業情報研究所WAPIC)

03.7.25

 異常気象の頻発は近年の傾向として定着してしまったようである。今月に入ってからだけでも、 中国、インド・バングラデシュ、フランス南部、日本で豪雨による激甚な災害が報告されている。日本の東・北日本では梅雨明けが遅れ、イネの減数分裂期における低温・日照不足による冷害の発生の恐れが強まっている。他方、一部地方が大洪水に見舞われた中国では、深刻な旱魃に襲われている地域もある。 江西省は厳しい熱波に襲われ、7月始めから20日にかけての降水は昨年の3分の2、19.5mmにとどまり、20万以上の住民は飲み水を欠いている。20万haの農地、12万の家畜が影響を受けているという。

 現在、ヨーロッパも厳しい旱魃に見舞われている。その影響はイタリア、ドイツ、オーストリア、スペイン、フランス、ポルトガルなどのEU諸国、スイス、ルーマニアなどで特に深刻だ。

 フランスでは、牛の飼料の確保ができず、共通農業政策(CAP)により義務付けられた休耕の対象地を飼料用地として利用することを許す救済策が取られた。それでも農家の窮状は救えないと、殖母牛・雄牛奨励金の20%加算、通常は10月半ばから11月半ばに支払われるEUの一定の援助の支払の前倒しなどを欧州委員会に要求している。

 ドイツ農民協会は、ドイツで最悪の影響を受けている東・南部では全収穫の80%が失われ、穀物の被害だけでも11億ドル、旱魃の被害は、昨年夏にドイツ南部を荒廃させ、350万haの作物に被害を与えた破滅的大洪水の被害を上回ると言う。地域農業政策と緊急事態対応の責任をもつ州政府では手に負えず、連邦農業大臣・キュナーストは、連邦とEUレベルでの緊急援助の可能性を探っている。

 ただ、EUのフィシュラー農業担当委員は、過去の洪水儀性者に対して行なわれたような援助を前倒しして払うような余地はほほんどなく、事態の緊急性を確認しながら慎重に検討しなければならないと主張している。農業にこのような災害はつきもの、今回の旱魃が例外的対応の対象をなすのかどうか見極めねばならないということであり、事態の深刻さに対する農業者との認識のズレがあるようだ。

 一方、スイスの作物被害額は灌漑や飼料作の費用を除いても3億フランに達したという。スイス農民同盟は、家畜飼料の確保のために乾草輸入関税の引き下げや水料金の引き下げも要求している。しかし、他の近隣諸国も飼料不足の状態では、関税引き下げも効果はない。農民組合・ユニテールは、山地での乳牛頭数の維持は困難になったとして、乳価引き上げと家畜の食肉処理販売を提案している。この秋に起こり得る過剰出荷が価格押し下げの強い圧力になることを恐れるからである。他方、飼料不足に直面する有機生産者は、非有機生産飼料使用の許容限度(現在は10%)を引き上げるように要求している。

 気象災害は、確かに農業にはつきものである。また被害を完全に免れることも難しい。ただ、現代の農業が異常気象に弱くなっていることも確かである。かつての氾濫常習地には、例えば桑を植えるなどの土地利用方法があった。桑の経済的価値が下がった現在、このような土地利用は選択されない。日本は多収と耐冷性の矛盾を克服する優れた冷害対策稲作技術を完成したしが、現在ではこれを十分に適用できる経営的・経済的・社会的バックグランドがなくなってしまった。これは、日本のみならず、ヨーロッパを含めた世界全体の農業について言えることだ。とりわけ、強制される効率性の追求は、大規模単作化のためにリスク分散の可能性を減らす。異常気象が常態となるとき、改めてこのような農業の見直しが必要になるかもしれない。それとも、遺伝子組み換え技術も応用したストレスに強い作物の育成が切り札になるのだろうか。しかし、それによって多様な形質をもつ作物が失われるならば、予期せざる要因による全滅の恐れも否定できない。