CAP改革実施へ 雁字搦めの規制にうんざりのフランス農民

農業情報研究所(WAPIC)

05.1.12

 EU共通農業政策(CAP)改革が実施の年を迎えた。マリアン・フィッシャー・ボエル新農業・農村開発担当委員(デンマーク出身)は、「2005年初頭のCAPには、その通俗的カリカチュアらしいところは何もない。この改革でヨーロッパ農民は真の企業家になれる。わが農村地域は持続可能な将来、多角化し・ヨーロッパを一層競争的にするのに貢献する機会を与えられる。改革は我々の強みを発揮、世界に冠たる最高級の食品を生産することを可能にする。それは世界に強力な信号を送り、世界貿易交渉成功のチャンスを高める」と勇ましい(New Common Agricultural Policy in place on 1 January 2005)。

 だが、フランス農民はそれどころではない。改革の目玉は、生産量と無関係な歴史的基準に基づくEU農民への「単一農場支払い」の導入だが、フランスが獲得した一部生産関連援助も含むあらゆる直接支払いを受け取る今年からの条件は、環境尊重、食品安全、動植物保健、動物福祉に関する基準や要件を満たすことだ。これを満たさない農場への直接支払いは減額される。このような制度は従来もなかったわけではないが、今後は規模や実効で比較にならない。

 第一に、硝酸塩指令、動物識別や汚泥利用に関する規則、Natura2000など、EUの既存19指令・規則が定める基準を3年間で漸次満たさねばならない。環境・動物識別に関しては05年、公衆衛生・動植物保健については06年、動物福祉に関しては07年までに基準やルールに完全に従うことが要求される。

 これに「良好な農業・環境条件」の維持という新たな要件が加わる。その具体的条件は各国が定めるが、フランスは昨年12月23日のデクレ(政令)で次のように定めた。

 1)穀物・油料作物・蛋白源作物・亜麻・大麻作付地や休耕地については、3%の面積の環境保全のための植物被覆地を水路沿いに設けること。ここでは肥料(有機・無機問わず)と化学農薬の使用は禁止される。水路がない場合には、地片全体でこの要件を満たす。

 2)永年草地、永年作物地を除く農地では最低3種の作物が存在すること。モノカルチャーの場合は、冬季の土壌全体の被覆か、作物残滓の破砕・埋め込み。

 3)藁や作物残滓の焼却をしないこと。

 4)生産に当てない土地の環境保全管理。

 5)灌漑耕作については取水条件の尊重。

 さらに、今年から、永年草地の維持の義務が加わる。各国は農地の一定割合を永年草地として維持する義務を負い、これを実現するために、永年草地の転用などは事前の許可に服することになる。

 昨年末、フランス農民の手元に2冊の手帳が届いた。これには、1月1日から守らねばならないことのリストが載っている。これに背けば直接支払いを減額されることになる義務のリストだ。

 識別のための耳票がない牛が1頭から4頭までいると2ポイント、5頭から10頭いれば10点、10頭以上いると50点の減点となる。作物残滓を焼くと50点、家畜排泄物の貯蔵タンクからの漏れがあると10点、水を農薬から護るための作物と水路の距離(5m)を尊重しなかったり、家畜排泄物の散布の上限(年間1ha当たり窒素170kg)を守らないと50点が減点される等々。これらの点を合計して、故意でない場合には直接支払いの1%から5%が、故意の場合には20%までが減額される。

 だが、こんな要件を満たせるフランス農民がどれほどいるのだろうか。

 フランスでは、有機農業の繁盛を羨みながらそれに踏み切れない農業者が10年も前から「環境保全型」農業(フランスでは「理性的」農業と言われる)の売り込みにかかった。2年前には政府の公認を勝ち取った。その名を冠することで有機農業に似た有利販売の利益に与ろうというわけだ。だが、この農業は、例えば農薬の空き缶を川で洗ってはいけないといった既存の法的規則を守るだけの当たり前の農業にすぎないと批判されてきた。最近の国立農学研究所(INRA)の研究(*)も、その要件が法規の尊重を超えるものでないと確認した。ところが、その公認から2年、その98の要件を満たす経営はなお500を数えるに過ぎない。多くの農民は、違反が何時バレルかと怯え続けることになろう。とんだ「真の企業家」だ。

 他方、歴史的基準に基づく直接支払いの大部分は、かつての穀物等大規模耕種農家がせしめることになる。有機農業者や農民同盟に結集する最も環境を尊重してきた農民には大した援助は配分されない。彼らが構成する「より自律的な農業開発研究センター」(Cepada)は、より平等な援助システムを要求している(CEPADA Petition)。だが、フランス政府にそのつもりはない。

 ボエル委員の展望は楽観的にすぎるようだ。改革がヨーロッパの農業と農村に何をもたらすのか、新たなCAPの「カリカチュア」が生まれるかもしれない。フランス農民ならば、うんざりするような役人による農民ハラスメントのカリカチュアを描くかもしれない。

 *Entre contrainte et incitation : analyse juridique de la qualification au titre de l'agriculture raisonnée,INRA Sciences Sociales,04-No.3-Octobre 2004.