フランス 新たな農業者助成策 バイオ燃料開発加速 価格低迷とWTO交渉には打つ手なし 

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.15

 フランス政府が13日、石油価格高騰に直撃されている農業者に対する助成計画を発表した。ランヌで開かれている大規模な畜産業界サロンでド・ヴィルパン首相が明らかにした。メディアの報道によれば、首相は、とりわけ農業者が石油価格高騰に対決することを可能にし、またバイオ燃料生産を奨励するための一連の措置を設けると言う。

 フランス農業者は、燃料価格が高騰する一方、生産物販売価格は低迷、生産費の上昇を価格引き上げで埋め合わせる手立てをもたない。14日には、ベルギーと国境を接するノール県の農業経営者連盟(FDSEA)に所属する農業者がバイオ燃料ー農家製造ナタネ油ートラクタ・車でリールに集結、バイオ燃料の大規模開発への理解を訴えたが、彼らは、「石油(とそのすべての派生品、肥料・・・)価格の上昇は農業経営を直撃している。農業者の超過費用は年平均所得の5-6%を占めるまでに膨らみ、フランス農場全体でおよそ7億€(約950億円)に達している。それに、多くの農産物の価格低迷に伴う農業者の現実の困難が加わる」と訴える。

 ノール県FDSEAは、農業利用や一般的利用のためのバイオ燃料開発に関する国の約束の履行、農業者の競争力と将来に重大な影響を及ぼす農業の諸負担(石油やその派生品の価格の負担を含む)の一般的上昇に関する公権力の行動、2004-05年に農業者に与えられた石油製品消費に対する内国税(TIPP)の払い戻しの措置を要求する(http://www.fnsea.fr/actualites/actu_suite.asp?IdArticle=5448)。

 ド・ヴィルパン首相は、燃料価格上昇が超過費用を下流部門に転嫁できない農業経営に不利益を与えていると言明、昨年秋に導入された家庭用石油1リットル当たり4サンチーム(1サンチーム=1ユーロの1/100)の国による負担を5サンチームに増やし、天然ガス消費内国税の払い戻しも60%から80%に増やす、TIPPの50%までの重油減税措置も導入するなどの燃料費負担軽減措置の導入を告げた。これらの措置は9月1日まで遡及、それは国による3000万€規模の追加支持になるという。

 首相はバイオ燃料開発の加速も確認、EU指令に従って2010年までにその消費を全体の5.75%まで高めるとしていた計画を前倒し、これを2008年までに実現したうえに、2010年には7%、2015年には10%にまで高めると言う。他方、産業省は、300メガワットのバイオマス(木材または農業廃棄物)発電のための競争入札を開始する。この発電量は、原子力発電の3分の1に相当する。

 首相は、特に畜舎と設備にかかわわるその他の”近代化”措置も発表した。このために、年に1億2000万€の予算をもつEUの2007−13年の農村振興計画への登録を予告、また特に農薬・肥料・灌漑利用にかかわる植物生産部門農法合理的を促進するために2000億€の支出も約束した。

 さらに、2004年にシラク大統領が提起した土地税20%の2006年の減免、今年夏の干ばつによる損害を補償するための最初の予算支出も実施されると告げた。

 それにもかかわらず、これらの措置は農業者の将来に対する不安を取り払うものではない。生産費も償えない農産物価格の長期的低迷という構造的問題には何一つ触れるものではない。

 ここ何日も、乳価引き下げに抗議する農業者のデモがフランス全土で展開されてきた。首相の上記措置の発表とときを同じくし、政府の仲介する産業(協同組合及び私的加工業者)と生産者のパリでの会合で、乳価引き下げを抑制する新たな協定が成立した。2005年第3四半期に生産者に支払われる1000リットル当たり価格の引き下げ幅が多少削られた。だが、ボングレーン、ラクタリス、ソディアール、アントルモン、ネスレ、ダノンなどの加工企業は、どれも協定の実施を望まなかった(Industriels et producteurs se mettent d'accord sur une baisse limitée du prix du lait,Le Monde,9.13)。2005年7月の乳価は2004年7月に比べて平均で3%下がった。2005年8月の乳価も前年8月に比べて3%下がっている。これは、これら企業の一方的な決定によるものであった。

 その背景には、WTOにおける貿易自由化の圧力に対応することが主眼の一つであったアジェンダ2000の共通農業政策(CAP)改革とそれをさらに推し進めた2003年の改革がある。それは市場支持(域内助成と輸出補助)を大きく減らし、生産物や企業に向けられた援助を生産者への直接支払いに漸次切り換えてきた。全国酪農協同組合連盟’(FNCL)によれば、加工産品への支持の低下は1000リットル当たり30−40€の損失をもたらした。そのために、加工業者はバターや粉乳に加工する代わりに、より儲かる市場(生乳やエメンタールなどの名産チーズ)に向けて生産を転換した。それが需給不均衡を生み、生産者乳価の低下につながった。

 14日に再開されたWTO貿易交渉に際しての記者会見で、パスカル・ラミー新事務局長は、基本的目標は、2006年に交渉を締めくくる前に12月の香港閣僚会合で交渉の3分の2を完成することだと述べ、とりわけ米国に農業者助成を減らすように要求するEUと、EUに輸出補助金撤廃と一層の農産物市場開放を要求する米国の対立の解消に向けての前進を要請した。ブッシュ米大統領は、14日の国連演説で、自らの足元(議会や農業界)での反対を省みることもなく、「通商関係を混乱させ、開発を遅らせている」先進国の「農業補助金撤廃」を訴えた。英国のブレア首相も、CAP解体につながりかねないCAP支出の大幅削減を頑として主張している。

 しかし、ド・ヴィルパン首相は、WTO交渉については、「超えねばならない一線がある」、「ヨーロッパは、他の国が同様に動かないかぎり、輸出補助金は廃止しない」と語るのみだった。フランスは、ラミー事務局長の期待に応えるに応えられない内情を抱えている。


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