フランスから家族農民が消える?新農業基本法、農業経営を”真の企業”に変革

農業情報研究所(WAPIC)

05.10.14

  フランス農業の支柱をなし、国土保全や雇用の維持に貢献してきたフランス伝統の家族農業が消滅してしまうかもしれない。貿易自由化の進展と価格支持政策の後退により既に急速に減少してきた家族農業経営に、国民議会(フランスの下院)で審議が始まっている新たな”農業基本法”が追い討ちをかけようとしているからだ。

 その要となる二つの条項が既に承認された。一つは、土地・資材・器具・家畜・商品などの有体要素と商号・特許や商標・賃借権・顧客などの無体要素から構成される営業活動のための法的統一資産である営業財産(fonds de commerce)に倣った”農業財産”の創設、もう一つは賃借権を譲渡可能にすることだ。

 ”農業財産”の創設は、農業経営に対し、それに結びついたすべての有体・無体財産の営業資産を与えることを意味する。公的援助を受ける権利、経営の顧客、教育や農民的技能さえも、機械や家畜とまったく同様に商品になる。経営創設を目指す青年農業者も、土地耕作権を持とうとすれば、これらすべての資産を購入せねばならない。他方、土地所有者が与える経営の賃借権は家族以外の者の譲渡できるようになる(賃借料は通常の50%増しまでの上限が課される)。

 一部議員は、こんなことになれば農場価格は急騰、新たな経営者の大部分を占める青年農業者にはこんな資産を購入する財力はない、ほとんどすべての個人農は外部資本による支援なしには”農業資産”を購入できないだろう、これは家族農業に対する死刑宣告だと批判する。

 しかし、政府は、これらは借地農の地位を高め、家族農業の保護と強化への突破口を開くことで、「世界とヨーロッパの変化にへの農業部門の適応を促す」ものと主張する。政府の目的は農業経営の「真の企業への変革」を助けることにあり、新基本法は、農業経営を、WTOが迫る世界的規制緩和・撤廃や、来年1月から実施に入る改革共通農業政策(CAP)による激化する競争に耐える”企業”に変える手段を提供すると言う。 

 しかし、今や少数派の左翼陣営が言うように、これが多くの家族農業を犠牲に、会社経営に一層の道を開くであろうことははっきりしている。法案は経営集中を制限するフランス伝統の”構造規制”の緩和も定めている。

 米国や欧州委員会の”リベラリズム”に強く抵抗してきたフランス政府も、もはや小規模家族農民の信頼できる味方とは言えなくなったようだ。日本政府も”やる気”のある企業的農業の支援に狂奔している。国民は、心身を癒すために不可欠な小農が形づくる農村風景を失おうとしている。忙しさを増すだけの”改革”の御旗にのもとで。