欧州裁判所 EUの綿花政策改革は違法 農業自由化・デカップリング政策に痛撃

農業情報研究所(WAPIC)

06.9.8

  欧州裁判所が7日、EUの共通農業政策(CAP)改革と一環として行われた綿花政策の改革ーデカップリングーは違法だという判決を下した。欧州委員会も閣僚理事会も、それがもたらす棉作農民への影響を適切に評価しなかったことを理由としている。ただし、この判決を受けてEU25ヵ国が新たな政策に合意するまで、法的安定性の確保のために現行政策の継続は認めるという。

 European Commission:The Court of Justice annuls the new support scheme for cotton,9.7

 EU域内でなお棉作を続けるのは、スペインとギリシャの一部地域の農民だけである。従来の棉作農民援助制度は、スペインとポルトガルの欧州共同体(EC)加盟に際して制定されたもので、後に加盟したギリシャにも適用されてきた。基本的には生産面積に応じて支払われる生産関連援助である。

 しかし、このような援助は、WTOウルグアイ・ラウンド以来、大幅な削減を要求されてきた。EUはこの要求に応え、さらにドーハ・ラウンドでのEUの立場を強化するために、2004年4月にこれら援助の35%だけを残し、あとは生産と無関係な直接支払(単一農場支払)に切り替えるという政策変更に合意した。それにより、WTOの要請に応える一方で、棉作農民の所得を保証しようとしたのである。

 ところが、スペインは、この援助額と援助対象選別基準は、綿花部門の活動を継続し、他の生産者による駆逐を防ぐことを可能にする経済的条件を確保するためには明らかに不適切だとして、欧州裁判所に対してこの新たな援助制度の取り消しを求めた。この制度は”均衡性原理”に違反しているという。

 欧州裁判所は、新たな援助措置の合法性は、それが目指した所得確保と棉作の継続という目的を達成するために適切であるかどうかにかかっているとして、第一に援助額決定の基準の問題を取り上げた。具体的には、以前の援助の35%を残すだけで、この目的を達成できるのかどうかということだ。

 この点に関して、裁判所は、政策決定に際して農民労働力とその家族のコストなど、固定的性質の労働コストが考慮されなかったこと、したがって援助額決定の基準として利用された新たな援助計画の下での棉栽培の収益予想においてこれが考慮されなかったことを発見した。つまり、綿花生産コストと収益性が適切に計算されていないということだ。これでは農民は棉作を継続できなくなる恐れがある。

 さらに、裁判所は、綿繰り企業の経済状況に対する改革の影響が検討されなかったことも問題とする。綿花そのものは加工前には商業的価値はほとんどなく、遠くに輸送もできないから、生産地域の近くに経済的に存続できる条件で操業するこのような企業が存在しなければ、綿花生産も経済的に不可能になる。したがって、改革のこれら企業の経済的存続可能性への影響も、綿花栽培の収益性を評価するために考慮すべき基本的要因をなすという。

 こうして冒頭に述べたような判決となった。この判決で、EU25ヵ国農相は、2004年4月に行ったようなマラソン協議を再び始めねばならないことになる。

 それだけではない。欧州委員会は、近々、域内バナナ生産の問題にも取り組まねばならない。WTOルールを侵犯しているキプロス、ギリシャ、カナリヤ諸島、フランスのカリブ領のバナナ生産者の受け取る価格支持の問題だ。

 欧州委員会はここでも生産援助を農村開発に振り向け、効率改善による競争力強化、あるいは作物多角化を目指している。しかし、バナナ以外に有力な生き残りの手段を持たないこれら地域の農民の激しい反対に直面するだろう。

 棉もバナナも全体的にはマイナーとはいえ、これら地域の経済を支える主柱であり、それに代わる主柱を見出すことは非常に難しい。それを無視した改革のツケが今回ってきた。ドーハ・ラウンド再開のために熱心に動き回っているマンデルソン通商担当委員 も足元をすくわれた。