EU 穀物需給逼迫で強制減反を廃止

農業情報研究所(WAPIC)

07.7.19

 EUが今年秋と来年春(2008/2009穀物販売年度)の作付で、直接支払の見返りに農業者に強制される”セット・アサイド”(減反)を停止する。2006年度の収穫が予想外に少なかった上に、とりわけバイオエタノール生産のための需要増大で相場が歴史的高レベルに達している穀物市場の逼迫を和らげるためだ。7月16日に開かれた農相理事会で、ドイツ、フランス、オーストリア、デンマーク、ルクセンブルグ、マルタ、ベルギー、スペインに支持されたスウェーデンの要請が承認された 。

 2815th Agriculture and Fisheries Council meeting - Brussels, 16.07.2007 (provisional version)(p.14)

  現行のEU共通農業政策(CAP)は、過去の耕作実績を基準とし、現在の生産とは無関係な”単一支払”を受け取るための一つの条件として、10%の面積の休耕(減反)を義務づけている。穀物の過剰生産を防ぐためだ。しかし、これは、保証価格引下げの見返りとして直接支払援助が導入された1992年のCAP改革以来の制度である。フィッシャー・ボエル農業担当委員は、最近の世界穀物市場の変貌を考慮、既に2008年CAP見直しでの廃止の意向を表明している。

 しかし、何十年来の世界在庫減少によるトウモロコシや小麦の価格高騰で、原料コストをスーパー・消費者に転嫁するのが難しい食品産業の困難は既に頂点に達している*。フランスをはじめ、多くの国が2008年を待ってはいられないと、今回の決定を支持したわけだ。

 *例えばフランスでは⇒La hausse des prix alimentaires évoquée par les professionnels de l'alimentation,AP via Yahoo! Actualités,7.18

 欧州委員会によると、現在、EUには380万fの強制減反地が存在する。しかし、強制減反が廃止されたとしても、農業者は作付の義務を負うわけではない。休耕地の多くの部分が、既にバイオ燃料用作物の栽培に利用することを許されている。また、その一部は、環境保全にも当てられており、この場合には河川沿いや動物保護区では草地としての維持が義務づけられている。その上、多くの休耕地はもともと生産力が低く、しかし生産しようがしまいが支払われる”単一支払”の額の計算の基準には含まれるから、相変わらず休耕が続くかもしれない。

 ただ、それでも、欧州委員会は、この減反停止で、2008年の穀物生産は1000万トンから1700万トン増え、需給逼迫の緩和に貢献するだろうと見る。確かに、これだけの追加生産があれば、世界市場への影響は微小としても、少なくともEU市場の緊張は大きく和らぐ可能性がある。

 European Commission,Cereals: Proposal to set at zero the set-aside rate for autumn 2007 and spring 2008 sowings,07.7.16

  ”美国”(中国語で米国を指す)のトウモロコシ・エタノール生産拡大で食料品価格がどんなに高騰しようと、市場開放で食料・飼料自給率がどんなに落ち込もうと、”美しい国”(安倍語と言われ、日本を指す)の指導者は、食料や飼料はそれでも割り安な外国産に任せておけ、遊休農地や耕作放棄地にはバイオ燃料作物を大々的に栽培せよと言う。補助なしでは持続不能なバイオ燃料の助成に注ぐ大金を、遊休農地や耕作放棄地の食料生産復帰のために使おうとは決して言わない。それは”改革”に逆らう国の予算の”バラマキ”だと言う。

 大量の穀物過剰に苦しんできたEUがこの変身だ。食料自給率40%の日本は逆方向に向かって変身中だ。