ロシア政府と食品産業 基礎食品の価格凍結で合意 高率穀物輸出税は当面棚上げ

農業情報研究所(WAPIC)

07.10.26

 24日、ロシア政府と主要小売チェーンや乳業企業が、牛乳、植物油、卵などの基礎食料の小売価格を10月15日に遡って来年1月31日まで凍結することに合意した。政府と産業の代表者は、これは食品産業が提唱したと強調するが、ニュース解説者等は12月選挙を前にした政治的圧力を受けた動きと示唆しているという。

 Kremlin Secures Price Controls on Food Items Before Elections,The New York Times,10.25
 Food Industry Agrees on Price Freeze,Moscow Times,10.25

  ロシア政府は、今までにも乳製品の輸入関税を削減し、植物油輸入関税削減やヒマワリ油輸出税の課税を計画するなど、食料品価格高騰抑制策を講じてきた。石油輸出によるぼろ儲けと国際食料価格の高騰が生み出した国内食料品の価格高騰は2桁インフレにつながり、連邦議会選挙を12月に控えたプーチン大統領の政権基盤を脅かすからだというのが専らの噂だ。

 この食品価格抑制策は穀物輸出規制にも及び、世界穀物市場にも影響を与えてきた。政府は輸出関税の導入で穀物輸出を抑制、国内価格調整のために利用する政府備蓄の増強を目指してきた。一時は、小麦については30%(ただし、トン当たり70€が上限)の輸出税を検討しているという市場筋の情報が流れた。しかし、24日、政府はこのような高率輸出税は棚上げ、11月12日からより低率の輸出税を導入し、市場 の反応を見る方針に転じたという有力情報が流れた。ロシアは、11月12日から、10%(上限:22€/トン)の小麦輸出税、30%(同:70€)の大麦輸出税を導入することになろうという。

 Higher Wheat Duty Shelved,Moscow Times,10.25

 EUの主要市場やシカゴ商品取引所がこの情報に敏感に反応、小麦先物相場がそろって下落した(ヨーロッパ小麦先物相場最近260日:ロンドン飼料用パリ製粉用シカゴ商品取引所穀物等先物相場:07.8.21-10.25)。だが、それで安心というわけにはいかない。世界小麦価格が今年4月頃までと比べれば倍近くまで高騰したままであることに変わりはない。ロシアの政策動向を敏感に反映する市場の動きは、世界穀物需給がそれほどまで逼迫していることの表れにすぎない。耕地面積と単収が頭打ちする中で需要が伸び続けるのだから、小麦価格高騰→小麦作付増加=トウモロコシ・大豆作付停滞・減少→トウモロコシ・大豆価格高騰→トウモロコシ・大豆作付増加=小麦作付減少→小麦価格高騰の循環が止まらない。世界各国、食料安定確保のための政策介入をますます強めていくであろう。

 そのなかで、ロシアのように”政治的圧力”で食品価格を押さえつけることなどできない国の消費者はどうすべきなのだろうか。可能な限り安価な食品を追い求め、それに殺到するならば、食品供給者が安全を軽視し、偽装に走る傾向はますます強まるだろうと恐れる。 原材料価格が高騰するなかで従来通りの価格を維持するとすれば、安全コストを削り、偽装で原材料コストを削るしかない。食品安全や偽装の問題は”倫理”問題を超えた経済問題になる。