2020年のフランス農業 生産性維持と自然資源・生物多様性の保全

農業情報研究所(WAPIC)

09.3.2

  フランスのバルニエ農水相が2月19日、2050年には90億に達する世界人口の必要を満たす生産を確保すると同時に、希少化する自然資源と生物多様性も保全も可能にするフランス農業を2020年までに 作り上げるという壮大なプランを発表した。

 Communiqué:Objectif Terres 2020, pour un nouveau modèle agricole,09.2.19
 http://agriculture.gouv.fr/sections/presse/communiques/objectif-terres-2020
 Dossier de presse:Objectif Terres 2020, pour un nouveau modèle agricole,09.2.19
 http://agriculture.gouv.fr/sections/presse/dossiers-presse/objectif-terres-2020/downloadFile/FichierAttache_1_f0/AGIRBis.pdf?nocache=1235051960.54

 緊急を要するこのような二重の要請に応えるために、持続可能な農業を築き上げる必要がある。そのためには、フランス農林業は、@希少化する水の利用方法の改善、A良好な水域生態系の再建への貢献、B豊かな生物多様性と景観への貢献、C農地土壌の保護、Dエネルギー制御の改善と気候変動防止という五つの主要課題に挑戦せねばならない。

 こうした課題に応えるための主要な行動計画として次の五つが挙げられている。

 @農薬使用半減計画:可能ならば2018年までに半減させる。農薬使用量を減らするとともに、作物保護に不可欠な農薬の影響を減らす。

 A農業経営のエネルギーパフォーマンス計画 :農業による直接的エネルギー消費はエネルギー総消費の2%で、これに窒素肥料の利用に関連した間接的エネルギー消費が加わる。原油価格・肥料価格の高騰、あるいは高止まりは農業経営に重い負担を課している。また、温室効果ガス排出削減への農業の貢献という観点からも、化石エネルギー消費を削減し・バイオガス、太陽エネルギーなどの再生可能エネルギーを促進する持続可能な農業に取り組む。そのためのエネルギーパフォーマンス計画に、09年から13年までの5年間で3000万€の予算を組む。

 B有機農業計画:関連部門組織化、開発研究と教育訓練、団体食堂、転換を容易にする規則の適合化、有機農業経営の永続の5本柱で、2012年までに有機農地面積比率を現在の2%から6%へと3倍に増やす。

 C農業経営の環境認証:目標は2012年までにフランス農業経営の50%の認証。

 D持続可能な養蜂のための蜜蜂計画:蜜蜂は農業には不可欠だが消滅の危機にある。その原因については、今までの研究が示す証拠では、この消滅への動きには病気、農薬、環境条件などの様々な要因がかかわっている。策定途上のこの計画には養蜂技術研究所と養蜂職能間組織の設立が含まれる。 


 早くから強い批判に曝されながら決して支配的地位を譲らなかったフランスの”生産性至上主義農業”(l'agriculture productiviste)に、遂に転機が訪れようとしているのだろうか。しかし、生産性を維持しながら自然資源と生物多様性を保全する農業とは、具体的にはいかなるものなのだろうか。

 ル・モンド紙によると、2月24日、パリの国際農業サロンで開かれた国立農学研究所(INRA)のシンポで、新たな”緑の革命”の方向が示された。

 第一は、一つの畑で二種の作物を作ること、あるいは輪作だ。例えば、小麦と空中窒素を固定するマメ科作物の組み合わせ。これによって窒素肥料使用減らすことができる。これは温室効果ガス排出削減と化石エネルギー消費削減につながる。病気に対する抵抗力も増すから、農薬使用も減らせる。「米国では、バイオエタノール生産の拡大でトウモロコシ−大豆の輪作→トウモロコシモノカルチャーという正反対の動きがある]

  果樹園周辺の垣根にも同様の効果がある。害虫を攻撃する捕食昆虫が増えるからだ。穀物等大規模耕種作物では、研究者は、除草剤使用を減らすために播種を遅らせる方法も研究している。ブドウ栽培では、同じ目的で既に土壌を草で覆っている。これらすべての実験で、生産性が大きく減ることはなかった。

 温室効果ガス(メタン)排出を減らすために牛の飼料を変える研究も進んでいる。

 経営の自立(外部依存を減らすこと)も重要な柱だ。機械化と化学物質使用が始まる前、農場はほとんど閉鎖系のなかで循環していた。牛は鋤を引っ張り、農民の生産物で養われていた。 今では、自立のための方法も増えている。不耕起は畑でのトラクタ運転を減らすから、燃料消費削減を可能にする。羊は農閑期の除草に役立つ。家畜を最大限放牧することで、飼料購入を減らすこともできる。オーストリアでは、経営廃棄物―屎尿やその他の動物排泄物―から得られるガスで動くトラクタも販売されている。

 要するに、明日の農業とは過去の農業のことなのか?INRAのジャンマルク・メイナール科学部主任は、真にそうとはいえないが、それから着想されるものだ、問題は再発見と革新の混合だと語ったそうである。

 Comment l'agriculture entend devenir plus verte,Le Monde,2.25
 http://www.lemonde.fr/planete/article/2009/02/25/comment-l-agriculture-entend-devenir-plus-verte_1160140_3244.html#ens_id=1157664