農業情報研究所農業・農村・食料水産>2017年11月7日

漁村崩壊につながる 失敗例に学ばない漁業制度改革

 水産改革関連法案が閣議決定された6日、東北の水産県は約70年ぶりとなる漁業制度の改変を厳しく受け止めた。特に漁業者の減少から養殖業への企業参入を促す漁業権見直しは、長年培った「浜の自治」を揺るがすとして強く反発。法案の全容が浜に十分周知されているとは言えず、漁業者は「性急すぎる」といら立ちを募らせる。
 「漁村の崩壊につながりかねないのではないか」
 綾里漁協(大船渡市)の佐々木靖男組合長は、漁協の優先権廃止をうたう漁業権見直しの行方を危惧する。同漁協はホタテ養殖の数量制限などに取り組むが、指導管理が及ばない企業が参入すれば利益優先で数を増やし、質の低下や単価下落につながりかねない。
 宮城県漁協の松本洋一理事長も「漁業者は地域コミュニティーを基盤として共同で漁場を管理してきた。企業が参入した場合、規律を守った使い方ができるだろうか」と不安視した。
 養殖ホタテの水揚げが全国有数の青森県。平内町漁協の柴田操参事は「組合員は減っているが、若手の後継者は育っている」と説明。「企業は生産性を考える。うまくいかなければ放り投げ、漁業が廃れる可能性がある」と否定的だ。
 石巻市で特産のカキの養殖を営む高橋文生さん(68)は「どれだけ現場の事情を理解した上で議論を進めてきたのか。影響は未知数だ」と指摘した。一方、宮城県漁協かき部会長の須田政吉さん(65)は漁業の先細りを懸念し「国産の水産物を消費者に届け続けるには仕方のないこと」と一定の理解を示した。
 法案に先行し宮城県は2013年、漁業権の優先順位を廃止する水産業復興特区を導入した。提唱した村井嘉浩知事は取材に「達成感がある。(宮城のケースを)政府が成功事例として捉えた。全国的に漁協が面倒を見られない地域には民間が入っていくだろう」との見通しを示した(<漁業権見直し>東北の漁業者「漁村廃れる」強く反発 「仕方ない」理解の声も 河北新報 18.11.7

 <浜再生の道 検証・水産業復興特区>2氏インタビュー/LLC、その成否と展望 河北新報 18.8.24
 -国は漁業権の優先順位廃止を盛り込んだ水産業改革を推し進めている。
 「ハマチやタイなどの投餌養殖と異なり、カキなどの養殖は海のプランクトンなどを利用する。野生生物を捕っているのと同じで、自然に規定された量以上は見込めない。企業参入の道を開き投資を呼び込んでも、それに見合った利益を確保するのは困難だろう」
 -漁協は「浜のルール」を主張する。
 「漁場の調整は非常に難しい作業。海中に多数の小規模漁業が混在し、海流の良しあしなどの問題もある。漁業者同士の亀裂を生まないよう漁協が細やかな調整を担ってきた。行政が一手に担うのは難しい」
 -宮城の水産特区から何を学ぶか。
 「漁業権の優先順位廃止は水産業改革の大看板の一つであり、発想や仕組みは(宮城の)特区と同じ。今回の特区制度で水産業の問題は解決できなかった。持続可能なのは、やはりコミュニティーを基盤とした身の丈に合った漁業だ」(東北大大学院農学研究科 片山知史教授)

 <浜再生の道 検証・水産業復興特区>(上)誤算/雇用の大義経営を圧迫 河北新報 18.8.23

 <浜再生の道 検証・水産業復興特区>(中)対立/漁業者 自治の崩壊懸念 河北新報 18.8.23 

 <浜再生の道 検証・水産業復興特区>(下)針路/衰退歯止めへ模索続く 河北新報 18.8.23

 民間企業への「漁業権」開放に思う 宮城県漁業協同組合十三浜支所 運営委員長 佐藤清吾さん 生活と自治 201827

水産特区構想は震災直後の2011510日に急浮上したものです。津波で疲労困憊している漁民に、上から石を投げているようなものではないかと強い憤りを覚えましたね。当時はちょうど漁業権の更新時期の直前で、大災害に乗じて許認可権を持つ知事が、漁業者の権利の割譲を迫った制度改変を許してはならないと思いました。というのも、あえて特区にしなくても、民間企業が漁協の組合員になり、漁業に参入している事例があるからです。特区導入を急いだのは、別の狙いがあるとしか考えられません。

問題は特区推進論者が求めてきた漁業権の更新時期に隠されていると私は捉えています。宮城県の特区構想の前身となったのが2007年に経団連が発表した「高木提言」です。元農林水産省事務次官と水産庁の資源課長、財界、金融、流通、大手水産会社の代表者らがまとめたものです。そこには漁業権の更新時期を20年に1回とし、その権利を譲渡可能なものとする方向性が示されています。事実、宮城県の水産特区で漁業権を取得した場合、当該企業が返上の意思を持たない限り、更新時期が来ても漁業権を喪失することはないと聞いています。

漁業権は本来、資源管理をして漁業を営み、漁村で暮らしていく人びとのためにあるものです。漁業をしなくなれば、割り当てられた権利はいったん手放す形になりますし、権利自体に金銭価値はありません。今後、水産特区構想が一般化するようなことがあれば、宮城の事例のように更新時期が来ても、参入企業は漁業権を失うことなく、他の企業に渡すときには金銭交換できるようになる可能性も否定できません。さらに最終的には漁業権は証券化され、投機対象として自由に売買できるようになる恐れまで出てきます。私たちの共有財産であり、いのちの源でもある海の「切り売り」が許されていいはずがないのです。

 水産業改革の是非を問う漁業権開放は何をもたらすか(特報) 東京新聞 18.11.3 朝刊 28-29

 

 「西欧では国境の山間地で・・・安全保障政策として補助金を出している」・・

 フランス農業近代化政策の立役者であるE・ピザー二を山地政策の模索に駈りたてたのは、欧州が統合に向かうその時に、ヨ-ロッパの中心、すなわちアルプス等フランス東部山地に広大な無人の地が存在することへの危機感、「我々の同国人でない者がこれらの土地に住むことへの恐れ」であった(北林寿信 フランス山地政策の胎動 レファレンス 19985月号 91頁)。