農業情報研究所農業・農村・食料水産>ニュース:2014年2月19日

ピーク・サーモン

 2月18日付のフィナンシャル・タイムズ紙がピーク・オイルならぬピーク・サーモンの話題を大きく取り上げている。蛋白食品と健康的脂肪酸(Omega-3)の重要な給源として、鮭に対する需要は欧米のみならず途上国でも急増している。しかし、養殖魚の消費が野生の魚の消費を上まわるに至ろうとしている今、さまざまな制約から養殖鮭生産が伸び悩んでいる。鮭の産出が突然の減少の前のピークに達しつつあるのではないかという”ピーク・サーモン”の脅威が広がっているというのである。

 何よりもマグロ好きの日本では、少なくとも一般紙誌では取り上げられることが少ない話題だ。しかし、これは地球のすべてを食べつくし、やがて自滅する飽食人類の将来に対する警告でもある。ちょっと紹介しておこう。

 Slow supply growth raises ‘peak salmon’ fears,Financial Times,14.2.18,p.22

 Slow supply growth raises ‘peak salmon’ fears,FT.com,14.2.17


  鮭養殖産業の成長を脅かしているのは、飼料として使われる野生魚の利用可能性の減少、鮭養殖の地理的拘束、魚病、環境破壊などの問題である。

 生産の伸びを抑える第一の要因はフィッシュ・オイルの利用(入手)可能性である。養殖鮭は、主にフィッシュミールやフィッシュオイルから作られれるペレットを餌として与えられている。飼料会社はペレットのフィッシュミール成分比を15%にまで減らしてきたが、これは、主にラテンアメリカの野生魚から生産されるフィッシュオイル―Omega-3の給源―に置き換えねばならない。つまり、野生海洋魚のピークはピーク・サーモンを意味するというのである。

 鮭養殖の成長は、収益性のある生産が可能な国が限られていることによっても制約される。鮭は、例えばノルウェーのヒヨルドやスコットランドの海の入り江のような潮流が安定し・保護された海岸線の清浄で冷たい水で育つ。それぞれの生産地域は、あり得る病気や環境破壊の脅威ために生産能力を制限してきた。新たなサイトの立ち上げは、地域の反対、ツーリズムのような他の産業との競合、汚染や寄生虫感染など養殖の生態影響に対する恐れから、ますます難しくなっている。大部分の国は養殖場の数を規制、養殖にはライセンスが必要だ。例えば、世界の養殖鮭の半分を生産するノルウェーでは、2009年以来ライセンスが増えていない。

 こういう制約を打ち破ろうとする動きはある。いくつかの会社はOmega-3を藻から抽出しようとしている。モンサントは脂肪酸を産出する大豆を開発しようとしている。鮭が海で過ごす時間を減らすために陸地の施設で過ごす時間を延ばそうと試みている会社もある。米国のバイテク企業・AquaBountyは、成長が早いGM鮭を商品化しようしている。さらに沖合での養殖の研究も進行中である。これは石油産業や一般漁業など他の産業との競合を生み出す恐れがあるが、需要が増え続け、価格が上がり続けるならば、これらのオプションも現実的になるだろう。

 ただ、一部専門家は、こういうブレークスルーがあったとしても、供給が年率5〜10%で伸びる需要に追い付くかどうか疑わしいと言う。「ボトルネックが取り払われても、供給はして増えないだろう」。ノルウェー・スタヴァンゲル大学の海洋経済学者であるFrank Asche教授は、鮭生産の最悪のシナリオでは、生産は高原状態になると言う。