農業情報研究所農業・農村・食料水産>ニュース:2019128

瀬戸内海がきれいになりすぎた?不漁の真因を突き止めることが先決

瀬戸内海の水がきれいになりすぎ、「貧栄養化」したために魚が食べる植物プランクトンが減り、特産のイカナゴなどの漁獲量が減ったと、兵庫県が「きれいな海」を目指して規制してきた海水中の窒素濃度の下限値を設け、下水処理場の水質基準も見直すそうである。

瀬戸内海「きれい過ぎ」ダメ? 「豊かな海」目指し水質管理に新基準 神戸新聞 19.12.8

漁獲量(魚資源)を回復させるために海を汚せ、何か変である。海の貧栄養化に伴うプラントンの減少が魚資源の減少につながっているというのが本当なら、そういう選択も考えられよう。だが、貧栄養化→植物プランクトンの減少→魚資源の減少は確認された事実ではないようだ。

上掲記事によれば、「県は瀬戸内海の栄養塩の回復策を専門家でつくる県環境審議会に諮問(相談)。改正瀬戸内法は栄養塩の減少と水産資源への影響に関する調査の必要性を指摘しましたが、具体策は示しておらず、審議会は海の窒素やリンの濃度、COD、漁獲量の変化などを検証しました。

 00年以降、工場地帯を除く県沿岸の瀬戸内海の栄養塩濃度はピーク時の3分の1とスキューバダイビングに適するほどに薄まっていたのです。漁獲量の減少との関係も示唆されました」。

「漁獲量の減少との関係」は「示唆」されただけで確証されたわけではない。

朝日新聞も、「海水温の上昇に弱いイカナゴは、7月ごろから海底の砂に潜り約5カ月間の「夏眠(かみん)」に入る。12月に目覚め、成長して産卵する。夏眠中は餌を食べないので、その前に十分プランクトンをとる必要があるが、・・・過去10年の調査で夏眠前の肥満度が徐々に低下している(兵庫県立水産技術センター)」と言うが、プランクトンの減少が資源量の減少を引き越していると確認しているわけではない。

この確証がないままに再び富栄養の海に戻せというのは無責任ではないか。温暖化時代、行き過ぎれば赤潮、酸欠の海の再来を招くことにもならないか。

今必要なのは、恐らくは複雑な資源減少、あるいは漁獲量減少の原因を突きとめることである。第一に思い浮かぶのは、気候変動に伴う海水温の急上昇だ。それを示唆する研究は既にある。

実験結果により「夏眠期に28℃以上の高水温に曝された場合、まず温度耐性の低い個体がへい死し、生存した個体は基礎代謝(個体維持)により多くのエネルギーが消費されるため、一部は成熟不能になり、成熟可能な個体においても、雌ではよう卵数が減少、雄では精巣重量が減少すると考えられた。備讃瀬戸海域においては異常高水温年には28℃以上の日が1ヵ月以上続くことがある。天然海域においても、このような年は夏眠中のイカナゴの生残および肥満度が減少し、さらには、その後の再生産にも悪影響が及ぶ可能性がある」(赤井紀子、内海範子「瀬戸内海産イカナゴの死亡と再生産に及ぼす夏眠期における高水温飼育の影響」 日本水産学会誌 78-3 2012年)

まずは、「天然海域」における研究を一層深めることだ。