世界食料情勢 穀物大増産も食料危機は深化の恐れ FAO最新食料見通し

農業情報研究所(WAPIC)

08.11.7

  11月6日、国連食糧農業機関(FAO)「食料見通し」(Food Outlook、年2回)の最新版が発表された。

 今年の世界穀物生産は、価格上昇による作付の増加と好天が重なって新記録を達成、短期的には需要に応えるに十分で、底をついた世界在庫の回復も見込まれる。しかし、現在の金融危機が途上国を含む多くの国の農業に悪影響を及ぼし、食料危機は、今後ますます深まる恐れがあるという。

 http://www.fao.org/docrep/011/ai474e/ai474e00.htm

 前回見通し(08年6月)では、主要農産商品の世界価格は、生産・供給増加が見込まれるなか、今達したばかりの記録的レベルから下がるだろうと予想した。予想通りに価格は下がった。しかし、この下落は生産増加だけでは説明できないほどに大きく、急速だった。最近のピーク時に比べて50%を上回るような下落の背後には、金融危機、原油価格の半減、米ドル高などの別の要因がある。

 特に金融危機は多くの国の経済を失速させ、農業にも悪影響を及ぼすだろう。途上国もこれは逃れられない。購買力低下が需要を押し下げ、特に貧しい人々の食料摂取低下のリスクが増し、消費への価格のプラス影響を帳消しにする恐れがある。その結果、07年に7500万人も増えた栄養不足人口がさらに増加、08年には9億2300万人に達すると推定される。

 供給面から見ると、価格高騰への世界各国の反応は不均等なものだった。今年の穀物生産増加のほとんどすべては、迅速な対応(強制減反停止や環境保全休耕区域の耕作復帰など―農業情報研究所注)が可能な先進国によるもので、途上国は、一般的にはそんな対応ができなかった。農産物価格低迷、資材価格の高止まり、信用へのアクセスの困難の増加が見通されるなか、農家の作付け意欲が減退、世界食料供給を再びタイトにする恐れがある。もしそうなれば、来年の生産は急減、暴動や食料をめぐる騒動のニュースが再び世界をかけめぐることにもなろう。

 報告は、世界農業が抱える長期的問題にも言及する。食料価格低下は消費者にはいいニュースだ。しかし、それが費用効率の向上を反映したものではなく、供給過剰の結果にすぎないとすれば、ますます必要になる農業部門への投資を遅らせるだけだ。2050年には90億に達するだろう世界人口を養うためには、食料生産を倍増させる必要がある。しかし、世界の農業は、土地と水の拘束、農村インフラや農業研究への投資不足、生産者価格に比べて高価な農業資材、気候変動対応の欠如などの深刻な長期的問題をかかえたままだという。

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