農業情報研究所農業・農村・食料食糧問題ニュース:2012年月3月12日

健全な食品と農業のためにローカルな食料システムを 米科学者と国連報告官 TPPなど論外

  アメリカの”憂慮する科学者同盟”( Union of Concerned Scientists,UCS)が先月29日、今年行われるアメリカ農業法の5年ごとの改訂は、ジャンク・フードを助成し、また有害な農業慣行を奨励する農業政策を健全な食品と農業を優先する政策に置き換える機会とすべきだという政策提言を行った。

 上院農業委員会の開会を前にしてのこの提言によると、 アメリカの農業政策の大部分は、トウモロコシや大豆などを支援し、加工食品の必須成分に大量の補助金を提供し、加えて安価な不健全な食品に不当な競争力を与えるものとなっており、それが大量の有毒化学物質を放出する農業方法を鼓舞することにもなっている。

 2010年に農務省(USDA)が支出した50億ドルの大部分は、加工食品と家畜飼料のために使われるトウモロコシと大豆の補助に充てられた。野菜と果実に充てられたのは、そのたった7%にすぎない。これでは、野菜と果実こそ健全な食事の基礎と言うUSDA自身の栄養ガイドラインを守ることもできない。

 しかし、現在の食料システムは化石燃料、農薬、化学肥料に完全に依存しており、いつまでも続けられない。いまや、ジャンク・フード支援をやめ、環境を保護する農法を利用して健康的な食品を作る農家をこそ助成すべきときだ。

 提言は、栄養に富む多種の食品を作る一方、大衆の健康や環境を害さない農業方法を採用する農家を奨励せねばならない、一番いいやり方は、野菜・果実作りを奨励し、ファーマーズ・マーケット、フードハブ、コミュニティ支援農業プログラムを含むローカルな食料システムへの投資を増やすことだと言う。

 Toward Healthy Food and Farms:How Science-Based Policies can Transform Agriculture,UCS,12.2.29
  http://www.ucsusa.org/food_and_agriculture/solutions/big_picture_solutions/healthy-food-and-farms-policy.html

 オリヴィエ・ドゥ・シュッテル食料への権利に関する国連特別報告官は3月6日、アメリカ農業政策に関するこのUCSの提言とうり二つの世界政策提言を行った。現在の世界食料システムは豊かな国、貧しい国の人びとを不健康な状態に陥れている、富裕国、貧困国問わず、市場に出回る不健全な食品との闘いを強化せねばならないと言う。

 彼は、炭酸飲料など不健全な食品への課税、飽和脂肪酸・塩分・砂糖を多量に含む加工食品の規制の強化、ジャンク・フードの広告や販売の世界的取り締まり、ジャンク・フード の基となる商品作物を安価にする一方、野菜や果実など健康的な食品を高価にする欧米の補助金制度のオーバーホール、そして世界中の農家が人並の稼ぎを得・消費者に栄養豊かな食品を提供することを可能にするローカルな食品生産への助成などを提言する。

 Five ways to tackle disastrous diets – UN food expert
 http://www.srfood.org/index.php/en/component/content/article/1-latest-news/2054-five-ways-to-tackle-disastrous-diets-un-food-expert

 どちらの提言にしても、アグリビジネスとこれを支援する政府、とくにアメリカ政府の巨大な抵抗に遭うだろう。ただし、富裕国、貧困国を問わず肥満人口は増え続ける一方、飢餓と栄養不良に悩む人びとも一向に減らない。この問題は、支配力が一握りのアグリビジネスに集中した現在の食料システムの改変によってしか解決できないだろう。タバコ問題同様、世界中の政府が、いずれこの問題に挑戦せねばならなくなるだろう。人びとの健康と、環境と、食料安全保障のための闘いだ。

 日本は無関係?とんでもない。日本はダントツの世界一のトウモロコシ輸入国だ(2009年、1600万トン。第二位が韓国の730万トン)。大豆も、中国の4500万トンに比べれば10分の1ほどでしかないが、世界第二位の輸入国だ。つまり、日本は、いずれ改変が必要になる世界食料システムに最大の貢献をしている国の一つなのである。食の洋風化(肉食、ジャンク・フードの増加)、穀物(トウモロコシ)飼料による畜産の工業化と貿易自由化が、日本をこのような国に仕立てたのである。

 だから、日本は世界のこの闘いにも大きく貢献できるだろう。日本型食生活を取戻し、工業的畜産を改め、貿易自由化の流れをせき止めることによってである。それは、同時に、日本の食料安全保障の 強化にも貢献するだろう(トウモロコシ、大豆、小麦に高率輸入関税をかければ、日本の食料自給率はたちまち50%、60%にもはねあがるだろう)。

 ところが、日本の政府も、学者を含む多くの専門家も、いまなお農業の効率化(大規模化、工業化)と貿易自由化を志向するばかりだ。TPPなど、現在の世界食料システムの一層の強化に役立つだけだ。世界の健康と環境と食料安全保障を求める闘いのためにも、日本のTPP参加は阻まねばならない。