農業情報研究所>農業・農村・食料>食糧問題>ニュース:2012年10月26日
ウクライナ農相 11月15日からの小麦禁輸を表明 国際社会は輸出国の禁輸を制止できるのか
先週19日、干ばつによる穀物減収に見舞われたウクライナの今年の小麦輸出量が11月15‐20日には輸出可能な剰余分の500万トンを超える恐れがあるから、ウクライナは11月15日をもって今年の小麦輸出を打ち止めにする(禁止する)だろうという市場筋の情報が流された。このときウクライナ農相は、いまのところ「輸出を禁止するという公式の政府決定はない・・・しかし、輸出が無暗に増加して国の食料安全保障を脅かせば、禁輸措置も取らねばならない」と言っていた。
Ukraine
Considers Limiting Wheat Exports on Demand Pace,Bloomberg,10.19
Ukraine
bans wheat exports
,FT.com,10.19
いまや、正式決定の日も迫ってきたようだ。24日、水曜日、ウクライナ農相は、国は11月15日から、小麦輸出を禁止するだろうと発表した。ただし、ウクライナは世界穀物市場への信頼を傷つけるリスクを犯しているという最大輸入国・エジプトの警告を受け、既存の輸出契約は履行できると言いなおしたそうである。農相によると、2012/13年に許される小麦輸出量は前期の400万トンより増やすことで貿易業者と合意した。今までに380万トンが輸出された。契約量全体は540万トンになり、これら契約は履行できるという。
Ukraine confirms wheat export ban,Kyiv Post,10.25
それでも、食料穀物をほとんどすべて輸入小麦に頼り、その大半がヨーロッパ産・アメリカ産より割安なウクライナ・ロシア・カザフスタン産のいわゆる黒海小麦である北アフリカ・中東諸国にとって、これは新たな動乱を引き起しかねない重大事態である。今年はロシア、カザフスタンの干ばつ被害も大きく、エジプトの輸入入札に対するロシアからの応札はすでに皆無という状態だ。エジプトの輸入企業は、フランスばかりか、遠くアメリカ、オーストラリア、さらにはアルゼンチンの小麦の輸入まで模索している。海上運賃が底をついているから可能な選択だが、これは世界小麦市場の伝統的な流れを攪乱、ヨーロッパをはじめ、世界中で小麦価格をつり上げる恐れがある。
FAOや多くの国が、アメリカの干ばつを契機に始まった最近の穀物価格高騰の世界食料安全保障への影響を恐れている。世界食料デーの今月16日、およそ20ヵ国のFAO加盟国閣僚による「最近の価格乱高下」に関するFAO主催の会合が開かれた(アメリカはバイオ燃料政策、ロシアは穀物禁輸が俎上に乗ることを恐れてか不参加)。その席で、シルバFAO事務局長は、「農産物市場情報システム」(AMIS)は完全に機能しており、「これによって2012年7月の価格上昇への迅速な対応が可能になり、パニックを防ぎ、一方的行動と当初の緊張した日々における一層の高騰を回避することができた」と胸を張った。
AMISとは、基本的には国際主要商品四品目―麦、トウモロコシ、米、大豆―の供給、需要、在庫に関する正確で、タイムリーな情報を提供するシステムであり、それによって各国と世界の農産物市場の見通し、予測を改善しようとするものだ。フランス政府の熱心な提唱で実現した「食料価格乱高下」の問題に正面から取り組む昨年6月のG20農相会合(パリ、日本は不参加)が立ち上げを決めたものだ。
事務局長は、最近の穀物価格高騰にもかかわらず、こうしたシステムのおかげで07-08年に起きたような危機的事態を免れているというわけである。確かにそれまでのところ、07-08年に起きたような輸入国のパニック買いや輸出国の輸出禁止・制限は見られなかった。しかし、それはこうしたシステムが整備されたためなのであろうか。大いに疑問だ。実際、07-08年においては、フィリピン等の輸入国は米のパニック買いに走り、インド、ベトナムなどは米輸出制限に走った。今回はそんな行動は見られない。しかし、それは、基本的には、07-08年には世界米在庫が底をついており、今は在庫も回復、国際米価も落ち着いているという世界米市場の”ファンダメンタル”の反映でしかないと思われる。
こうしたシステム、それに基づく国際社会の有言・無言の圧力で、自国内の食料不足・価格高騰を回避するための「一方的行動」を制止できると思うこと自体、間違っていないだろうか。ウクライナ政府の正式決定はまだない。しかし、ウクライナの小麦(3級)の全国平均卸売り価格は、今年9月時点でトン当たり1895クリブナ、2010年の激烈な干ばつを受けて輸出制限に踏み切ったあとに記録した史上最高の1960クリブナに迫っている。
日本政府もWTOの場で、あるいは先のFAO閣僚会合でも、輸出国の禁輸や輸出制限の禁止あるいは自制を訴え続けているが、ウクライナの禁止決定、あるいは事実上の禁止は、回避できないだろう。