キューバ農民 農業生態系重視 伝統農法の回復で食料生産に大変革
08.5.15
インター・プレス・サービス(IPS)が、世界中で食料品価格が高騰するなか、農業生産性引き上げの緊急課題に挑戦するキューバ・ハバナ南郊の農民たちの近況を伝えている。といっても、機械化、化学肥料・農薬の増投、遺伝子組み換え技術の応用による品種改良など、米国流の大規模モノカルチャーの導入で収量や生産性の急上昇を勝ち取ろうという のではない。逆に、彼らは、研究機関と協同、自然(農業生態系)を重視した技術を利用するとともに、伝統的農法を取り戻すことで、食料生産に大変革をもたらしつつあるという。
彼らの挑戦は、食料価格高騰による何時終わるともしれない食料危機に見舞われている多くの途上国の農業開発が目指すべき方向を指し示す。食料自給率向上のために、企業の参入を容易にすることで農業生産の大規模化と効率化を加速せよという声が高まりつつある日本にも重要な示唆を与える。
CUBA:
‘Green’ Farming Techniques to Boost,IPS,5.13
http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=42347
この報告によると、この大変革は、食料生産への農民の参加と農業革新の分権化を促すことを主な目的として2000年に始動した”地方農業革新プログラム(PLAI)”によってもたらされた。その成功のカギは、地域の自然条件の活用と、特に作物多角化に関する革新的アイデアの開放性にあるという。
例えば、この地域では飼料の確保が大きな問題になってきたが、今では草を購入する必要がなく、肉も卵も自給できると言う39歳のホルヘ・バルセナ。彼は4年前、PIALの一部門をなす国立農業科学研究所(INCA)が開発した小農民にかかわる種子改良プロジェクトに参加した。以来、大豆、小麦、豆類、ソルガム、ミレット、大麦、米で実験してきたが、今ではこの地域の将来の飼料となる大豆に集中している。
彼の高蛋白大豆品種での実験の成功が、ハバナから50km南方のこの地域の家畜飼育を助長することになった。彼は、土壌の化学的・生物学的特性を改善する一方、雑草防除も助ける”緑肥”の利用にも頭を突っ込んできた。
INCAは、大学、研究機関、キューバと国際的なNGO、援助機関、地方農業・環境当局が支える。
病害、干ばつ、豪雨に弱いトマト品種の改良のために2004年にPIALに参加したオヴィディオ・ヤネスは、抵抗力が非常に強く、生産性の高い品種を手にしたと言う。彼は、トマト36品種、豆類46品種、ライ麦と小麦の何種かの雑種の研究から始めた。トマトからは16回の収穫で、以前にはなかったような高い利益を得た。
こうした成果をみんなのものにするために、ヤネスは、4回の種子フェアを組織した。4月18日の最近のフェアでは、作物多角化についての彼の研究結果を展示した。PIALハバナセンターのコーディネーターを努めるマヌエル・ポンセは、「こうしたフェアは、彼らの伝統文化の失われた要素を取り戻す助けになる農民間の非公式な情報交換の場である」と言う。
彼によると、農民が参加するこのような新たな広場で、科学研究機関が創り出し、一般には近づけなくなっている多様な作物の入手が可能になる。PIALは、その地方センターを通じて新たな作物種や品種を農民に届ける一方で、地方農民の参加に基づく農業の革新を促すことを目的とした資金や訓練を提供する。
高価な肥料や除草剤を使わなくても高い収量が得られる。ポンセは、ここには、「化学製品の戻らない多くのエコロジカルな農民がいる。収量は多少落ちるとはいえ、費用は大きく減るからだ」。「もし土地の分配が始まれば、食料を輸入する必要はなくなると信じる。米、トウモロコシ、大豆、いま輸入されているなにもかも、もっと多くの土地と僅かな[肥料・農薬の]投入で、ここで生産できる」と言う。
キューバは昨年、食料輸入に16億ドルを使った。今年は、世界的な食料値上がりで、19億ドルに増えると予想される。他方、現在、国の耕地の半分は遊んでいる。全国小農協会(ANAP)会長が3月のキューバ国家テレビで語ったところによると、政府は遊休地の民間農民への配分の可能性を研究している。
バルセナは、「多くの農民が農場の拡張を必要としている。大量の資金投入が必要とは思わない。その代わりに必要なのは、自然条件、気候、栽培シーズンに基づく農業生態学的管理―失われた伝統的要素―だ。自然は軽視できない、我々は彼女と共に働かねばならない。彼女は我々のガイドだからだ」と言う。
開発のための農業科学・技術国際アセスメント(IAASTD) 総合報告からの抜粋
「農業に関する知識・科学・技術は、食料安全保障に寄与する農業生産の大きな増加に貢献してきた。これは生殖質の改良・投入(水、化学肥料・農薬)の増加・機械化による増収に焦点を当てることを通して達成された。このような生産性の増加は、世界の一人当たり食料利用可能性の純増に貢献した。世界人口が大きく増加した1960年代から1990年代の間に、一人一日当たりカロリー摂取量は、1,844kcalから2,360kicalに増加した。
この収量増加で人々が享受した利益は、一部は相異なる組織能力・社会文化的要因・制度及び政策環境のために、地域により異なった。南アジアでは貧困層(一日2ドル未満で生活する)の比率は45%から30%に減ったが、例えばサブサハラ・アフリカ(SSA)では、この比率は、過去20年にわたり変わっていない(約50%)。OECD諸国の2003年における農業従事者一人当たり付加価値(2000年米ドルで評価)は、1992年から4.4%増えて23,081となったが、SSAでは、この数字は1.4%と327にすぎない。
収量と生産性の増加の強調は、ある場合には環境的持続可能性に否定的結果をもたらした。これらの結果は、長い時間をかけて起き、あるものは伝統的農業の境界外で起きたから、しばしば予見されなかった。例えば、現在、19億f(と26億人)が重大な土地劣化の影響を受けている。50年前、河川からの取水は現在の3分の1であった。現在、世界全体の淡水取水量(2,700㎦-降水の2.45%)の70%が灌漑農業に当てられ、ある場合には塩化を引き起こしてきた。およそ16億人が水不足地に住む。農業は、人間活動によるメタン排出の60%ほど、酸化窒素(N2O)排出の50%ほどに寄与している。不適切は施肥が富栄養化と、メキシコ湾岸など多くの沿岸地域、一部の湖に大規模なデッドゾーンを生み出している。また、不適切な農薬使用が、地下水汚染や、例えば生物多様性喪失などのその他の影響をもたらしている。
・・・・・・
農業は複雑なシステムの中で機能し、本来的に多機能的である。農業に関する知識・科学・技術の実施への多機能的アプローチが飢餓と貧困の削減に貢献し、公平で、環境的・社会的・経済的に持続可能な方法で、人間の栄養(食物)と生計を改善する。
農業に関する知識・科学・技術の農業生態科学に向けての増強が、環境問題に取り組む一方で、生産性を維持し、増加させることにも貢献する。フォーマル・伝統的・コミュニティーベースの農業に関する知識・科学・技術が、水の利用可能性の減少や水質の悪化、土壌や景観の劣化、生物多様性や農業生態系の機能喪失、森林被覆の喪失、海洋・陸水面漁業の退化など、自然資源への圧力の増加に対応する必要がある。農業戦略には、温室効果ガス排出の削減や人間活動がもたらす気候変動への適応も含める必要がある」