米国:2002年農業安全保障・農村投資法(2002年農業法)の主内容

農業情報研究所

02.5.31

5月13日、ブッシュ大統領が新農業法案に署名、「2002年農業安全保障・農村投資法」(以下、02年農業法と呼ぶ)が「1996年フェア・アクト」(以下、96年農業法と呼ぶ)にとって代わり、今後6年間に渡り実施されることになった。この法律は10のタイトルの下に、商品プログラム(農業補助)、保全、貿易などに関する様々な農業プログラムを述べている。ここに、その主な内容を紹介する。

1.コスト

 商品に関する支出は年間150−200億ドルになると予想され、96年農業法が適用される最後の時期に予想された額に対して70%増える(80%という計算もある)。新農業法全体の予算は、今後10年間で1,800億ドルになると計算されてきた。新農業法は世界市場における価格低下圧力となるであろうから、需要の劇的な増加がないかぎり、コストは推定を上回ることになる可能性が高い。

2.商品(作物)補助

 この分野では、三つのタイプの補助金が支払われる。

(1)固定支払い

 この補助金は、基準期間に作付された各指定作物について設定され、農業者は毎年一定の支払いを受ける。これは96年農業法による固定支払い(AMTA支払い)を継続するものであるが、AMTA支払いは年々減額され・最終的には廃止されるものであったのに対し、新たな固定支払いは定額に維持されるし、レート(商品単位量当たりの支払額)はAMTAのレートより高い。また、AMTA支払い額は、80年代初・中期の歴史的期間の間に作付された面積とその期間に得られた収量を基礎に計算されたが、新農業法は面積基準の更新(98‐01年に実際に作付された面積)を認めている。さらにAMTA支払いの対象外であった大豆とマイナーな油料作物にも支払われることになった。

(2)ローン支払い

 これはローン・レート・プログラムの下で支払われるもので、大部分は「ローン不足払い」(LDPs)として支払われる。様々なメカニズムがあるが、基本的には、農業者は固定価格(地域により異なる「ローン・レート」)と地方「市場」価格(実際には、作物が生産される郡ごとに行政により推定される価格)との差額を支払われる。農業者がLDPを請求する(作物販売後に請求できる)ときに市場価格がローン・レートを下回っていれば、差額が直接補助で埋め合わされる。LDPsは本質的に「景況対抗的」(counter-cyclical)なものであり、価格が下がれば支払いが増える。このプログアムは、初めて豆類にも適用されることになった(ヒヨコマメ、ドライピー、ヒラマメ)。新農業法は、96年農業法の下でのこの種の支払いを平均で5%増やすことになると推定されている(大豆で5%減、小麦で16%増)。

(3)景況対抗支払い(counter-cyclical payments)

 これは新たに導入されたもので、様々な作物についての農業の全体的所得(販売収益+固定支払い+LDP)が一定の目標価格を下回った場合に支払われる。この支払いは、農業者が当該年に何を作付けしようと、基準年に作付けた作物を基準に支払われる。この規定にもかかわらず、農業者は基準年に作付けたのと同じ作物を作ると予想される。96年農業法ではこのような支払いに関する規定はなかったが、米国政府は、98年から価格低下に対応して年ごとの「緊急パッケージ」を導入していた。景況対抗支払いは、この緊急支払いを毎年保証するものといえる。この支払いのための基準となる収量の見直しが認められた(98−01年の収量の93.5%)。この支払いを受けるために、農業者は指定された土地を耕作するか、「保全的使用」に当てねばならない。ただし、野生イネ、果実、野菜(豆類は除く)、永年作物など、一定の作物は禁止される。

 各商品の直接支払い、ローン・レート、目標価格は次の通りである。

  直接支払い

ローン・レート

目標価格

 

2002-03

2002-03

2004-07

2002-03

2004-07

コーン(ブッシェル)

$0.28

$1.98

1.95

$2.60

$2.63

ソルガム(同)

0.35

1.98

1.95

2.54

2.57

大麦(同)

0.24

1.88

1.85

2.21

2.24

オート(同)

0.024

1.35

1.33

1.40

1.44

小麦(同)

0.52

2.80

2.75

3.86

3.92

大豆(同)

0.44

5.00

5.00

5.80

5.80

油料種子(ポンド)

0.0080

0.0960

0.0930

0.0980

0.1010

棉(ポンド)

0.0667

0.5200

0.5200

0.7240

0.7240

コメ(100ポンド)

2.35

6.50

6.50

10.50

10.50

(4)その他の諸部門

 酪農:酪農農民は価格に関連する新たな補助金を受け取る。これは、$16.94/CWTの目標価格とクラスT牛乳(引用乳)のボストンでの市場価格との差額の45%を補填するものである。この支払いは、1生産者の年々の生産240万ポンド(およそ乳牛140頭の小生産者)までについて行なわれる。脱脂粉乳またはチーズの買入れ介入を通しての既存の市場価格支持プログラムは継続される。

 なお、国内生産についてのみ徴集され、国際取引されない生鮮ミルクのような製品のプロモーションに使われてきた国内牛乳賦課金は、今後輸入乳製品からも同率で徴集されることになる。

 砂糖:輸入に対する高レベルの保護とローン・レートを利用する公的購入プログラムを通しての生産者支持は概ね従前通りにととまる。

 ピーナツ:現在の主要な支持手段である割当制度は、割当所有者への補償を伴い、廃止される。代わりに、直接的な景況対抗支払いシステムが導入される。

 ウール・モヘア・蜂蜜・ヒヨコマメとヒラマメ(レンズマメ):従来は支持がなかったが、新たにローン・レートとローン不足払いシステムを通して支持レベルが保証される。

 リンゴ/果実・野菜:00年の低い市場価格の補償としてリンゴ生産者に1億ドルの補助金。様々なプログラムを通して、果実・野菜の買入れと販売のための2億ドルの追加基金。

3.環境保全

 「保全(conservation)」のタイトルの下で、多くのプログラムが導入され、また既存プログラムが拡張される。総計171億ドル。主なプログラムは次の通りである。

・保全保証プログラム(conservation security program、新規):農場管理慣行(Steward practice、詳細未定)の維持または改善に6年間で20億ドル。

・草地保存プログラム(grassland reserve orogram、新規):草地で営農する家畜生産者への支払いに6間で2億5000万ドル)。

・環境改善プログラム(EQIP、Environment Quality Incentive program):土地の環境改善投資をする農民への支払いを現在の年2億ドルから13億ドルに(6年間で90億ドル)。

・その他:長期的に休耕する保全留保プログラム(CRP、15億1700万ドル)、湿地保存プログラム(WRP、15億ドル)、農地保護プログラム(FRP、10億ドル)等の拡張または継続。

4.原産国表示ルール

 肉・果実・野菜・魚・ピーナツに原産国表示ルールを導入する。当初2年間は自主的、04年9月から義務化。米国内で生まれ・育てられ・屠殺され・加工された肉だけが米国原産と表示できる。これは、肥育のために毎年カナダやメキシコから輸入される多数の牛の肉の表示をめぐり、早くもカナダの懸念を生み出している。ベナマン農務長官は「北米産」の表示をほのめかしたが議会の強硬な抗議を受けて撤回している。 

5.貿易措置

(1)輸出促進

 外国市場の創出・拡大・維持を助けるためのプログラムの資金が増やされた。マーケット・アクセス・プロモーション・プログラムは現在の9,000万ドルかた2億ドルへ、外国市場開発プログラムは2億700万ドルから3,450万ドルへ。既存の輸出信用及び輸出補助プログラムは継続。さらに、特別作物技術支援(TASC)、バイオテクノロジー・農業貿易プログラムが導入される。

 TASCは米国の特別作物輸出を「禁止するか、脅かす」障壁(保健上の、あるいは技術的障壁?)を克服するための輸出支援プログラムである。バイオテクノロジー・農業貿易プログラムは、米国の農産商品の輸出に対する規制的非関税障壁の除去・改善を目的とする。

(2)食料援助

 「進歩のための食料」、「平和のための食料」などのプログラムの下になされる食料供与のために利用できる資金の増額。政府は、過剰処理手段としての援助使用の段階的廃止ー代替手段の使用?ーを補償するためと説明している。従来、米国の食料援助は輸出拡大のための一手段と見られてきた。その他、いくつかの変更がある。

 なお、EUは、これらの措置が農産物国際貿易に及ぼし得る影響について暫定的評価を発表している(European Commission,Questions & Answers US Farm Bill,5.15)。

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