食肉処理は米国で一番危険な労働ー人権団体リポート

農業情報研究所

05.2.4

 牛肉・豚肉・鶏肉企業は危険な労働条件を助長し、労働傷害補償を阻止し、組合を作ろうとする労働者を監視し、移民労働者を搾取している、このような米国精肉産業の意図的人権侵害を告発するリポートが発表された。世界中の人々の人権保護に没頭する非政府独立組織である「人権ウォッチ(Human Rights Watch)」が先月発表した「血と汗と恐怖ー米国食肉・鶏肉工場における労働者の権利」と題するこのリポートは、傷害発生率が全国平均の2倍にもなり、労働者を不断の恐怖と危険にさらし続ける米国屠畜場の悲惨な労働環境を暴く。それは、米国精肉産業労働者の悲惨な実態が、アプトン・シンクレアが「ジャングル」(*)で描いた一世紀前と何も変わっていないことを示す。また、昨年7月に来日したタイソン社労組員の訴えとも完全に符号する。

 このリポートは、労働者の保健と安全、労働災害補償への権利、結社の自由、米国精肉産業労働者の基幹的部分を構成する移民労働者の地位に焦点を当てた二年間にわたる調査の結果を報告するものだ。それは、世界最大の食肉・鶏肉企業であるのタイソン・フーズ(アーカンソー)、世界最大の豚肉生産者であるスミスフィールド・フーズ(バージニア)の労働者や幹部職員とのインタビューに基づく。ネブラスカ・ビーフの施設の労働者ともインタビューしたが、その職員は参加を拒んだ。

 報告によると、労働者の惨状の根源は、スーパーやファスト・フード店が求める安価で大量の肉を提供しながら最大の利益を求めるために、流れ作業による食肉処理のために動物を運ぶスピードが安全を無視した速さになることだ。そのために、屠体を切りわけ、内臓を抜く労働者の事故率は全国平均の2倍になる。「動物の屠殺と切り分け本来的に危険な仕事ではないが、企業の営業上の選択によって危険が高まる」、「食肉処理はアメリカで最も危険な工場労働となった」。リポートは、政府に対し、ラインのスピードを「リーズナブルなレベル」に落とし、仕事場の保健・安全や傷害補償のためのルールを制定するように勧告する。

 安くて大量の肉が何時でもどこでも手に入る時代、米国には、肉が天から降ってくるとでも思っているご婦人もいるらしい(**)。だが、安くて大量の肉が自由に手に入るのは、労働者のこのような悲惨な労働があるからだ。それだけではない。その原料を生産する家畜・鶏飼育場も巨大規模の工場と化し、その地理的集中は近隣コミュニティーに大気汚染などによる重大な健康被害をもたらしている(米国環境保護庁は最近、汚染「工場」が訴追を免れることを可能にする規制緩和策を発表した。家畜工場による環境汚染はますます野放しになる→EPA Announces Air Quality Compliance Agreement for Animal Feeding Operations,05.1.21)。家畜工場周辺の広大な地域コミュニティーが犠牲となっていることにも目を向けねばなたない。

 米国牛肉の早期輸入再開を唱える人々は、米国畜産・精肉業のこんな実態を知っているのだろうか。

 *1906年、前田広一郎訳、春陽堂、1932。なお、ドナルド・スタル、マイケル・ブロードウェイ著、中谷和夫訳・山内一也監『だから、アメリカの牛肉は危ない!北米精肉産業 恐怖の実態』 川出書房新社、2004も参照のこと。

 **ピーター・ローベンハイム著、石井訳 『私の牛がハンバーガーになるまで』 日本教文社 2004。