2007年米国農業法 補助金改革実現の見込みは立たず

農業情報研究所(WAPIC)

06.9.22

 米国議会における2007年農業法に関するヒアリングが始まり、焦点である農業補助金をめぐる議論が本格化してきた。ジョハンズ農務長官は、90%以上の補助金をたった5つの作物(トウモロコシ、大豆、小麦、米、ワタ)の大規模生産者が受け取り、60%の生産者が何の補助金も受け取らない現行制度は余りに不公平で、これらの補助金は世界商品の価格を大きく引き下げているという国際的批判にも耐えられないと、早くからそのオーバーホールを約束してきた。これはブッシュ大統領の農政予算大幅削減の目標にも沿うものだ。長官は来年1月にもこの抜本的改革案を提案するつもりでいる。

 しかし、議会と農業界の補助金削減・改革に対する抵抗は依然として根強く、こんな提案はとても実現しそうにない。

 オーストラリア・ケアンズで開かれている主要農産物輸出国で構成するケアンズ・グループ会合に向け、オーストラリアはドーハ・ラウンド再開のためにと、農業交渉に関する妥協案を提案した。EUや日本に対しては、平均関税引き下げ率を有力途上国グループ・G20が提案している54%に5%上乗せすることを認めるように要求する一方、米国に対しては国内農業補助金の50億ドルの追加削減を求めるというものだ。

 特別ゲストとして迎えられたシュワブ米通商代表は、これは交渉可能な提案で、EUや日本が市場アクセスでさらに譲歩するならば、米国も農業補助金を今までの米提案以上に削減する用意があると言明した。しかし、農業州の有力上院議員は、早速、現在の提案以上の補助金削減は農民を”餓死”させる (starve)ばかりでなく(*)、有効な交渉手段でもないなどと代表非難を始めた。

 U.S. pressured to cut farm subsidies,AP via Yahoo! news,9.21
 U.S. offers subsidy cuts to kick-start WTO talks,Reuters via Yahoo! news,9.21
 Senators assail USTR Schwab on farm subsidies,Reuters via Yahoo! news,9.21
 US Senators Say Bush Trade Offer Would Kill Farm Programs,Cattle Network,9.21

 そんななか、全米コーン生産者協会(NCGA)は、作物補助金政策のオーバーホールの提案を冷静に受け止め、商品価格の変動ではなく、農民所得に基づく補助金を基本とするアイオワ州立大学が考案した計画を推奨しているという。

 この補助金は、作物価格が低下したときにではなく、干ばつやその他の問題で農業所得が低下したときに支払われる。この計画では、大部分の補助金がWTOルールの下での削減義務を逃れることができる。NCGA会長は、下院委員会で、他の商品についても同調を求めていると証言したという。

 ところが、全米ファームビューロー連盟のボブ・ストールマン会長は、下院農業委員会で、このアイデアは広範囲な研究を要する、議会が少なくとも1年は現在のプログラムを延長することを望むと証言した。アメリカン大豆協会(ASA)は、このアイデアを研究はしているが、支持はしていない。

 来年ASAの会長となることが予定されているアイオワのジョン・ホフマン氏は、このグループの第一の選択は既存プログラムの維持であり、補助率の増加だと言う。米・綿花生産者グループも既存プログラムの維持を望んでいる (以上、Subsidy overhaul gets cool reception,Des Moines Register.9.21)。

 ホフマン氏は20日の下院農業委員会で、2002年農業法の下での補助プログラムの基本構造を支持するが、助成レベルの調整が必要だ、米国の油料種子生産者は、国内と世界の飼料・植物油の需要増大に応える必要がある、2002年農業法での助成レベルでは油料種子栽培意欲が減退することもあり得ると証言した (ASA calls for increase in support levels in 2007 Farm Bill ,worldgrain.com,9.21)。

 誰が米国農業補助金の削減や政策変更を期待できるだろうか。ケアンズ会合で、EUのトロヤンWTO大使は、ドーハ・ラウンド交渉を再開しようとするなら、米国の有効な補助金削減が先決だと述べた (EU refuses to budge on tariffs,The Australian,9.22)。しかし、そんなことはとても実現しそうにない。

 *補助金撤廃、市場開放、バイテク種子の導入などの「改革」で毎年数万もの農民が自殺に追い込まれているインドの惨状でも思い浮かべているのだろうか(On India’s Despairing Farms, a Plague of Suicide,The New York Times,9.18)。米国が補助金削減でそんなことになるなどとは誰も思わない。