エタノール生産拡大で米国コーン輸出が激減 輸出優先政策を見直せー米国の研究 

農業情報研究所(WAPIC)

06.12.14

 米国の農業貿易政策研究所(IATP)が、燃料用エタノール生産の拡大のために米国のトウモロコシ輸出が劇的に減少し、米国トウモロコシ産地の輸出に頼る農業経済に根本的変化をもたらすという報告書を発表した。報告は、新たな現実に取り組むために、輸出最優先の米国農業政策の根本的見直しを要請する。

 Staying Home: How Ethanol will Change U.S. Corn Exports,06.12.12
  http://www.agobservatory.org/library.cfm?refid=96658

  報告によると、米国のトウモロコシをベースとするエタノール生産は2001年と2005年の間に倍増し、今後数年の間にさらに倍増する可能性が高い。既に100以上のエタノール工場が稼動しており、年に50億ガロンのエタノールを生産している。さらに58の工場が建設中か拡張中で、生産能力は90億ガロンに高まると予想される。その上、150の工場建設計画があり、これらが建設されると、2008年の生産能力は現在の倍になる。そして、米国農務省(USDA)は、エタノール生産用のトウモロコシの大部分が輸出向けトウモロコシから調達されると述べている。

 その輸出への影響について、報告は、USDAの評価は、建設が計画されている工場を考慮に入れていないために過少評価になっていると批判する。報告の予測によると、アイオワ、ネブラスカを中心とする中西部コーン・ベルトからの2005年の輸出量(単位は百万ブッシェル)は2756百万ブッシェルだが、2008年には、計画中の工場の25%が建設されると1341百万ブッシェルに半減し、50%が建設されると749百万ブッシェル、75%が建設されると157百万ブッシェルに減り、さらに100%建設されると、逆に435百万ブッシェルを輸(移)入せねばならないことになる。

 これは中西部の農業経済に重大な影響を与えることになる。

 最も重大な影響は、トウモロコシが高価なものになるということだ。輸出産業も、いくつかの国内利用産業も、トウモロコシは安価なものという前提で築かれてきたが、この前提が崩れてしまう。

 国内に関しては、高価なトウモロコシは、米国産トウモロコシの半分を利用する畜産業に最も大きな影響を与える。タイソンフーズなどの主要家禽・家畜企業は既にトウモロコシ市場の需給逼迫に不平を言っているが、価格と供給のシフトで家畜産業は代替飼料作物を探さねばならなくなり、中西部の家畜生産を減らすことにさえなるかもしれない。ただし、高蛋白家畜飼料としてエタノール生産の副産物である留器穀物(この副産物は乾燥しなければ長持ちせず、長距離輸送に耐えられない。その乾燥製品=DDGSはアイルランド、スペイン、英国、メキシコ、カナダなどに輸出されてきたが、最近は中国、台湾、日本などのアジア諸国の注目も集めている)の利用の増加は、エタノール工場近辺での家畜生産の増大をもたらす可能性があり、家畜産業への全体的影響は未だはっきりしない。

 もっと確かなことは、国際的加工・家畜企業が米国産トウモロコシ調達をめぐって国内利用との競争に曝されることだ。中西部のトウモロコシ栽培面積が増加し、エタノール市場が冷え込んだとしても、今後数十年の間に輸出向けに利用できるトウモロコシが以前のレベルに戻ると想像するのは難しい。

 その米国農業政策にとっての含意も大きい。

 米国の農業・貿易・(農産物)輸送政策は国内市場拡大よりも低コストの輸出の拡大に向けられてきた。1970年代早期以来、輸出は中西部穀物・油料種子農民の将来の市場と考えられ、商品政策(国内補助金政策)、輸出信用、貿易協定すべてが国際市場のための低コスト作物の奨励に使われてきた。しかし、中西部のバルク商品輸出は1980年代以来増えておらず、国内エタノール市場の成長はこの趨勢を継続させることになりそうだ。

 農民の将来の機会はバルク商品の輸出ではなく、農業の一層の多角化と地方的システムにある。農地のエネルギー生産とバイオベース製品へのシフトが近い将来に反転することはありそうにない。エタノール原料となる作物は、それが何であっても、商品輸出よりも農民に一層多くの機会を与えるだろう。従って、農業・輸送・貿易政策も新たな現実に取り組むために変化せねばならない。

 一般的には、国内トウモロコシ消費の爆発的増加とその結果としての価格上昇は、特にエタノール工場を地方が所有するときには、中西部農村コミュニティーの経済を昂進させる。しかし、大企業がエタノール産業に参入するから、その利益を農民と農村コミュニティーに確保する政策が必要になる。また、エタノール工場の数と規模が膨れ上がり続けるときには、エネルギー作物生産とエタノール工場操業による環境破壊を抑える政策が不可欠になる。既に土壌保全のための休耕地を作物栽培地に戻したり、トウモロコシを連作したり、エタノール工場の燃料を石炭に替えたりする計画があるが、これは深刻な環境上の懸念を生んでいる。また、エタノール工場が大量の水を消費することへの懸念もある。最近は地域外部者によるエタノール工場所有が増えており、これも利益が農民と農村コミュニティーから吸い上げられてしまう懸念を生んでいる。

 来年は、これらの問題に取り組むための三つの重要な連邦法が審議される。次期農業法、水資源開発法、そして7月に期限切れになる大統領に議会と相談なしの貿易協定交渉権限を与える貿易促進権限法だ。

 報告を書いたIATPのマーク・ミューラー氏は次のように言う。

 「過去数十年、米国の農業政策は輸出を増やすために少数の商品の過剰生産に駆り立ててきた。我々は新たな時代に入りつつある。そこでは国内市場がますます重要な牽引者となる。新たな状況を考えれば、輸出市場のためのミシシッピ川の輸送インフラ拡張に大金を使うのは、納税者に対して無責任だ。代わりに、政策策定者は、更新可能な燃料・エネルギーのための機会の創出と多様化、健全な土壌を作り、水質を改善する農業慣行と作付システムの促進、新たな機会からの農民と農村コミュニティーの利益の確保に焦点を当てるべきだ」。

 IATP Press Release:U.S. Corn Exports to Drop Dramatically Due to Ethanol Growth,06.12.12

 報告が言うように、影響は米国内だけにはとどまらない。飼料を大量の米国産トウモロコシに頼る日本の畜産業への影響も甚大だ。まさに「代替飼料作物を探さねばならなくなり、・・・家畜生産を減らすことにさえなるかもしれない」。