ニューヨーク最貧困地域 飢餓と肥満は栄養不良というコインの両面 同一家庭、同一人に同居

農業情報研究所(WAPIC)

10.3.16

 米国の最近の調査が、国の”ハンガー”(飢餓、空腹)に関連した最も厳しい問題がニューヨーク市のサウス・ブロンクス―国の肥満の中心地―にあることを発見した。ここでは、飢餓と肥満が隣り合って存在するのではない、同じ家庭内、そして同一の個人においてさえ飢餓と肥満が同居している。ニューヨーク市飢餓撲滅団体の常務理事は、「飢餓と肥満は、しばしば同じ栄養不良コインの 両面をなす。飢餓はたしかに、ほとんど専ら貧困の象徴だが、格別の肥満も貧困の一つの象徴である」と言う。

 これを伝える最近のニューヨーク・タイムス紙によると、コロンビア大学の疫学研究者は、ブロンクスの肥満率はニューヨーク市で最高、マンハッタン住民より85%も高いと推定する。しかし、ブロンクスは同時に厳しい”ハンガー”問題にも直面している。食品研究行動センターが今年1月に発表した調査によると、サウス ・ブロンクスを包み込む第16下院議員選挙区の住民の37%近くが、過去12ヵ月の間に食料を買う金がなかったことがあると言っている。この比率は国のどの選挙区よりも高く、2009年第4四半期の全国平均(18.5%)の2倍にもなる。

 こいした研究は、従来の”ハンガー”の見方を変える。研究者は、これを”飢え”ではなく、”食料不安”(food insecure、食料安全保障の欠如)と呼ぶ(農務省は2006年、その報告で”ハンガー”という言葉を使うのをやめた)。これは基本食料を手に入れられないこと、ピザショップ、ドーナツ店、何でもフライにするレストランしかなく、新鮮な食品にありつけないことを意味する。

 貧困地域では、何もかもそろった妥当な価格のスーパーは滅多になく、季節の果実や野菜よりも加工食品を扱う店が多い。市政府の2008年の研究によると、ブロンクスの12のコミュニティのうちの9つではスーパーはほとんどなく、不健康だが安い食料への依存を余儀なくさせている。

 ただし、専門家は、ブロンクスのハンガーと肥満の問題は生鮮食品の欠如と結びついているだけではない、それは貧困と結びつき、貧困で増幅されているのだと指摘する。 ブロンクスは、肥満率、糖尿病、食料雑貨店の欠如、貧困率、失業、飢餓、これらすべてにおいて際立っており、これらすべてが相互に関連しているのだという。 

 The Obesity-Hunger Paradox,The New York Times,3.14
 http://www.nytimes.com/2010/03/14/nyregion/14hunger.html?ref=health

 ともあれ、飢餓と言うと、食べ物がなにもなく、ガリガリに痩せた餓死寸前の状態が思い浮かぶが、飽食時代の先進国の飢餓はすべてそうとも言いきれないようだ。貧すれば(あるいは貧しなくても)、安くて手軽な高カロリー、高脂肪のファストフードで腹を満たす場合が増える。日本では、その方がバランスの取れた健康的な食事よりも旨いと言う人もいるかもしれない。もう少しバランスの取れた食事をなどと提言すると、貧乏人は麦を食えというのか、と怒られかねない。まあ、天下太平である。