米国に広がる移動と畜場 草育ちの家畜の地産地消に貢献

農業情報研究所(WAPIC)

10.6.22

  ワシントン・ポスト紙によると、トラクタとトレーラーを連結した”スローターモービル”(移動と畜施設)がアメリカ中で人気を博し、食料の地産地消の発展に貢献している。

 中小規模農家の減少と足並みをそろえ、連邦が検査すると畜場の数は大きく減ってきた。現在では、たった4つの企業が米国の牛の80%をと畜する。たとえば、その名を聞けばすぐにカウボーイの姿が目に浮かぶワイオミングでも、連邦か州が検査すると畜場はたった一つしかない。牛飼いが牛を肉に変えようと思えば、穀物で肥育され・抗生剤を与えられた牛を一日に3000頭も処理する、はるか遠方の巨大食肉加工施設まで牛を運ばねばならない。

 ところが、スローターモービルは農場までやってくる。リアドアを開け、と畜者と検査官が待つ中に家畜を入れる。仕事が終わると、次の農場に移動する。

 これは、大規模アグリビジネスの促進で長い間批判されてきた米農務省(USDA)の最も目に見える変化の象徴の一つではないかという。オバマ政府の下、議会を通過した2008年農業法は、中小農場に注意を向け、有機・持続可能な農業を奨励し、食肉の地産地消の促進に投資している。スローターモービルの承認は、そうした努力の一環をなしている。

 この変化は、動物福祉、環境影響、食肉の質と安全性への懸念から燃え上がった工場的農場に対する反発とも呼応する。家畜の飼料と処遇を保証できる農民により地方の牧場で育てられた草飼育の牛・豚・羊を望む消費者が増えている。USDAは、このような食品の市場は、2002年の40億ドルから2012年には70億ドルにまで急拡大すると推定している。

 しかし、この市場にはボトルネックがある。小規模農民のために働くことのできると畜場がないことだ。大規模と畜場は、農民が前もって、ときには18ヵ月も前に予約するように要求する。しかし、天候やその他の変動要因が家畜の成長に影響を与える牧場で家畜を飼う農民にはそれが難しい。例外的に認められた移動と畜が、このような困難を克服する突破口になりつつあるということだ。それは、地方で生産された食料を地方の生産者から買いたいという消費者の欲求を満たすことにもなる。

 ただし、それでも、なお多大な障害がある。スローターモービルはと畜場と同じ衛生基準を満たさねばならず、これには高いコストがかかる。と畜廃棄物の処理方法も難題だ。その購入と運転のために農民は協同組合を作らねばならない。と畜が終わっても、肉を販売するまでには、切り分けとラッピングのためのパッキング施設にと体を運ばねばならない。スローターモービルを使うコミュニティベースのシステム再建は、なお前途多難という。

 As demand grows for locally raised meat, farmers turn to mobile slaughterhousesThe Washington Post,6.20
 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/06/18/AR2010061803509.html?wpisrc=nl_headline