米国国家研究会議 米国農業研究は生産増強でなく、持続可能性改善に焦点を当てよ

農業情報研究所(WAPIC)

10.7.2

 全米科学アカデミーの国家研究会議(NRC)が6月29日、生産性引き上げと増産を助けることに重点をおいてきたアメリカの農業政策と農業研究は、生産コストを引き下げ、生産を増やすだけでなく、環境汚染を減らし、動物福祉や食品安全などの消費者の新たな関心に応え、農家が満足に生計を立てられるような農業―持続可能な農業―への移行を助けるために、もっと全体的な視角を持たねばならないと勧告する報告書を発表した。

 Report in Brief:http://dels.nas.edu/resources/static-assets/materials-based-on-reports/reports-in-brief/Systems-Ag-Report-Brief.pdf
 Full Repor:http://www.nap.edu/catalog.php?record_id=12832
 News Release:http://www8.nationalacademies.org/onpinews/newsitem.aspx?RecordID=12832

 報告によると、農業生産性は増加し 、アメリカ農民は1948年に比べて2.6倍もの食料を生産するようになった。しかし、このような増産を可能にした現在一般的な近代的農業システムは、水や大気の汚染のような意図しないネガティブな結果をもたらす。生産性は飛躍的に伸びたが、この生産性の計算では、農業地域における地下水位の劇的な低下、肥料や農薬による地表水の窒素・燐汚染、それによる酸欠水域の発生、温室効果ガスの排出―農業は窒素酸化物とメタンの米国最大の排出部門である―などの”外部コスト”は考慮されていない。

 それに加え、農民は家畜の扱いや食品安全をめぐる消費者の懸念のような他の問題にも直面、農民所得も、種子、燃料、化学肥料など購入資材の価格の上昇のために、生産コストの増加に見合った増加を阻まれている。アメリカの農場オペレーターの半分以上が、所得を補完し、健康保険や退職手当の取得のために農場外で働いている。 

 持続可能な農業を実現するためには、@人間の食料・繊維・飼料需要を満たし、バイオ燃料需要にも応え、A環境の質と資源基盤を強化 し、B農業の経済的持続性を維持し、C農民・農場労働者・社会全体の生活の質を改善するという4つの目標をバランスよく達成することが必要で、そのためには、  農民と連携した官民部門による長期的研究、教育、実験が必要になる。

 報告は、大豆畑の特定の雑草の防除とか、灌水を減らしながらトマトの収量を増やすといった生産性増強のための特定の問題への取り組みに重点を置くのではなく(現在の公的農業研究支出の3分の2がこうした研究に充てられている)、農業の持続可能性の改善を目指す総合的研究、たとえば耕起を減らす、被覆作物を植える、個々の農場の作物を多様化するなどの慣行の研究に焦点を当てることを勧告する。こうした慣行は、多くの農民が多かれ少なかれ実施しているが、その有効性や結果の一層の研究が必要という。

 農務省(USDA)や大学は、こうした研究のために協力を強めるべきだ。このような慣行の経済や社会的影響の研究を増やす必要がある。特に、農業の土地や河川流域への影響に焦点を当てた研究を立ち上げることが望ましい。消費者は作物・家畜の生産過程への関心を強めており、それは小売業者への圧力にもなっている。こうした消費者が作り出す新たな市場も、農民を多様な目標に応える農業システムに移行させる動機となるだろう。農務省は、現在の公共政策の影響に関する自身の研究への支出を増やすべきである。さらに、途上国、特にサブサハラ・アフリカを助けるための研究においても、生産に焦点を当てる研究よりも、同様な総合的アプローチを要請する。