農業情報研究所


イギリス:有機農業は危機にーNFU調査

農業情報研究所(WAPIC)

02.7.30

 ナショナル・ファーマーズ・ユニオン(NFU)がイギリスの有機農業が危機的状況にあるという調査結果を発表した(NFUOverview of the organic survey)。イギリスの有機農場全体のほぼ半分に相当する2000の農場の最新の状況をメールで調査したもので、有機農業のために使用される土地は、昨年、30%増加したが、赤字生産者の数も1997年以来63%増加したという。赤字経営の有機生産者の比率は、1997年には19%であったが、現在は31%に増えた。1万£以上の利益を上げる生産者は、1979年には56%であったが、今年は38%にまで落ちている。

 このような利益水準の低下のなかで、有機農業をめぐる現在の問題点を問われた生産者は、輸入品の増加を最大の問題としている。現在、イギリスで販売される有機食品の75%が輸入品であり、この問題と有機生産物に対する報酬の低下が有機農業の将来への不安を高める重要な要因となっている。

 政府の有機農業に対する取り組みの姿勢や有機に向けられる社会(特にスーパーマーケット)の姿勢も批判されている。農民の最大の不満は、土地に関するコストのような基礎的コストがヨーロッパで最高であるにもかかわらず、転換のための最初の5年間しか補助がないことに向けられる。さらに、英国産有機食品であることを明示する表示の欠如、ディスカウントのために価格を引き下げ、外国からの購入に走るスーパーマーケット・チェーンの慣行にも不満が向けられる。調査対象者の70%は政府の姿勢は有機生産者の苦境に冷淡だとしている。

 調査は、生産者の販売方法、付加価値をつけるための加工についても質問している。販売方法については3分の1が卸売市場を利用しており、これに協同組合を通じての販売、小売業者への直接販売などが続く。4分の1の生産者が、屠殺・剥皮、ジュース製造、チーズ製造などの加工活動を行なっている。

 このような調査結果を受け、NFUは次のことを要求している。

 ・生産物に対する公正な価格。

 ・芽生えかけた有機部門が輸入品に押し潰されるのを止める緊急対策と明確な原産国表示。

 ・全体を包含する販売グループの創設などによる有機産品マーケッティングの支援や有機を選択するかどうか・どの部門を選ぶべきかに関する農民の決定を助ける一層のアドバイス。

 ・イギリスの生産者以上に援助を受け取っている他のヨーロッパ諸国の生産者と対抗できるように、環境計画の下での(転換援助に限られない)政府の継続援助。

 ・農民が部門の存続可能性を正確に評価できるように、政府は率先して、イギリス有機農業の一層拡張された公式統計を提供すること。

 イギリス最大の有機農業団体である土壌協会(Soil Association)は、有機農民が危機にあるとは言わないが、多くの有機農民が生産コストに見合った価格を受け取っていないというのは真実で、農業はグローバリゼーション、スーパーマーケットの価格戦争、安価な食料への執着のために危機状態にあると言う。しかし、イギリスの有機農民がヨーロッパで最低の支援しか受けていないのは、年来のNFUの敵対のためであり、NFUは有機農業のためのロビー活動に重点をおくことを拒否してきたからだと言う(Organic farming in Britain put at risk by cheap foreign imports,Independent,7.28)。 

 その他関連ニュース
 Cash crisis puts organic farming 'at risk',Independent,7.29
 Soil Association News:Soil Association response to NFU survey of organic farmers,02.7.25

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