有機農業が温室効果ガス削減に多大な貢献 家畜草飼育も大きな役割 英国土壌協会の新研究

 農業情報研究所(WAPIC)

09.11.30

 英国が世界に誇る有機農業団体・土壌協会(Soil Association)が11月26日に発表した新たな研究によると、英国農地のすべてが有機農地に転換されると、少なくとも毎年320万トンの炭素が土壌に吸収隔離される。これは、道路輸送でおよそ100万台の車が排出する炭素の量に等しい。

 土壌協会は、気候変動を抑えられなければ増大する世界人口は養えないが、この研究は、農業が持続可能なやり方で食料を生産しながら温室効果ガス排出を削減できることを示すと主張する。

 Report:Soil Carbon and Organic Farming
  http://www.soilassociation.org/LinkClick.aspx?fileticket=bT6u5Mzwgvk%3d&tabid=574
  Soil Carbon – the missing link in COP 15(News),09.11.26
  http://www.soilassociation.org/News/NewsItem/tabid/91/smid/463/ArticleID/213/reftab/57/Default.aspx

  この研究が発見した主要な事実は次のとおり。

 ・北欧における平均的な有機農地の土壌炭素のレベルは、非有機農地に比べて28%高い(研究されたヨーロッパ、北米、オーストララシアのすべての国については、20%)。これは、少なくとも今後20年間、英国で有機農業に転換される耕地1ヘクタールあたりの土壌炭素隔離量が年560kgほどになることを意味する。

 ・これに基づいて推定すると、英国中で有機農業が採用されれば、英国農業の温室効果ガス(GHG)の23%がオフセット(相殺)されることになる。

 ・世界全体の農業が最善のやり方の有機農業に転換されると、少なくととも今後20年間の各年、世界のGHG総排出量の11%ほどがオフセットされる可能性がある。

 ・牛と羊を草で育てることも、農業からのGHG排出削減に大きな役割を演じる。大部分の英国有機農業が利用する放牧用草地は重要な炭素貯留源となっている。英国では、永年草地の耕作地への転換のために、毎年160万トン(英国農業のGHG排出の12%)の炭素が大気中に放出されている。従って、一部の人が唱導するようにメタン排出削減のために赤肉から穀物による白肉にシフトすることは、メタン排出を土壌からの炭素排出や大豆飼料増産のための熱帯ハビタットの破壊に置き換えるだけのことになるだろう。 


 とはいえ、有機農業への転換が土地生産性(単位面積あたり収量)を減少させることになれば、必要な食料を生産するために耕地の外延的拡大を引き起こし、それが農業・農地からのGHG排出を増加させてしまう恐れもある。有機農業への転換の促進とともに、その土地生産性維持・向上の努力も不可欠となるだろう。但し、有機畜産も大きな役割を演じるであろう穀物肥育から草飼育への転換(とそれを支える食生活・習慣の改善)は、全体としての穀物消費の削減にもつながるだろう。

 それはともあれ、先進国、途上国、競って有機農業を推進するなか、わが国だけが世界の潮流に背を向けている。議員有志の努力で漸く実現した有機農業支援事業(モデル事業)予算も、事業仕分けで全廃の判定がくだる始末だ。それでも、2020年25%削減 の御旗は降ろさない?