大規模国際農業投資の原則づくり 一歩も前進せず 「責任ある農業投資」円卓会議ワシントン会合

農業情報研究所(WAPIC)

10.5.6

  先月25日、米日政府とアフリカ連合の主催、世界銀行、国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、国連貿易開発会議(UNCTAD)の共催で開かれた「責任ある農業投資(RAI)に関するラウンドテーブル」のワシントン会合が不調に終わったようだ。

 「RAIとは、大規模な国際農業投資によって生じ得る負の影響を緩和しつつ、投資の増大によって投資受入国の農業開発を進め、受入国政府、現地の人々、投資家の3者の利益を調和し、最大化することを目指すアプローチ」ということだそうである(外務省 責任ある農業投資に関するラウンドテーブル(概要) 平成22年4月27日)。これに関するラウンドテーブル(円卓会議)の初回会合(日本政府主催)は昨年9月23日にニューヨークで開かれ、「「責任ある国際農業投資」の考え方への支持が確認されるとともに、行動原則及び国際的枠組みの構築に向けて全ての関係者が協働していくこと等が合意された。また、世銀が提案した原則が、今後の共同作業のベースとなるものとして承認された」ということであった(外務省 責任ある国際農業投資の促進に関する高級実務者会合(概要と評価) 09年9月30日公表)。

 今回の会合の共同議長として、日本の平松審議官は、「概要以下のとおり発言」したという。

 1)「NY会合の議長サマリーで、半年後に進捗状況をレビューすることを約束したが、これが今回このようなかたちで実現したことを喜ばしく思う。RAIの至上目的は途上国への農業投資の促進である。大規模な農地取得に伴う問題に適切に対処し、投資をより強力に促進していくにあたっての条件を整えることは喫緊の課題。」

 2)「本件には、グローバルな共同対応が必要。幅広い関係者が参加する国際的枠組みがなければ意味のある対応はできず、平等な競争条件も確保されない。共催4機関が現地調査・分析に基づきRAI原則案や知識交換プラットフォームを共同で作り上げたことを評価。第一ステップとして原則を共有し、これを実地に移すために関係者が各々の立場から取り組むべき。本日の会合により更に広範な関係者が我々の共同取組に加わることを期待」。

 ところが、会合の成果は惨憺たるものだったようだ。会合には、 G8・中国・韓国・インドネシア・バングラデシュ・豪州・南アフリカ・エチオピア・タンザニア・スーダン・リベリア・モザンビーク・レソト・ガイアナ・メキシコ・ペルー・カタール・スイス・オランダの諸政府、共催4機関・WFP・EU・アフリカ開発銀行・アジア開発銀行の国際機関、マーズ社・オラム社・プロビデント・グループ(投資銀行)の民間セクター、国際土地連合・ゲイツ財団の市民団体が参加した。「共同取組に加わる」ことが期待される「広範な関係者」を集めることでは一定の成果があった。

 しかし、議長総括によれば、「原則を共有」とか、「これを実地に移すため」の取り組みに関しては、いかなる具体的進展もなかった。この問題を一貫して追求してきた非政府組織・Grainによれば、昨年12月に予定されていたが延び延びとなり、この会合でこそ発表されると期待された原則策定の基礎となる大規模農地投資の影響に関する世銀の研究すら、またも公表されることがなかった。

 議長総括はの結論は次のとおりだ。

 「参加者は多様な当事者による責任ある農業投資の奨励を継続するための開放的で包括的な対話の重要性に関して合意した。参加者は、共通に受け入れられるワンセットの自主的なRAI原則の有用性を議論する一方で、その実施に関連した複雑なチャレンジも認めた」。

 従って、世銀、UNCTAD、FAO、IFADなどを含むすべての関係者がこの問題に関する研究を続け、進捗状況は世界食料安全保障委員会、APEC、世界経済フォーラムなどの多角的フォーラムでレビューする。

 「次のステップに進むために、参加者は大規模投資、特に国家後援または支援の投資が経済成長と雇用、地方コミュニティ、農民、農業生産、食料安全保障にどう影響するかをアセスするために、一層の情報を集め、吸収する必要性を認めた。参加者は、よりよい農業投資の提案を分析し、投資原則を適用しながら農業投資に取り組む適切な手段を開発するために、国際機関が途上国への支援を継続することは有益であると信じた」。

 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/food_security/pdfs/besshi2.pdf

 これでは国際農業投資の重要性が強調されるばかりで、原則づくりは振り出しから一歩も進んでいない。主催者、共催者、誰も胸を張れない。こんな結果になったのも、大規模国際農業投資は、基本的には途上国の貧困削減と食料安全保障に有益という 、原則づくりの基本思想が間違っているからではないのか。

 Grainが推定するところでは、諸国政府からも企業からも情報を得られなかった世銀がメディアやGrain(farmlandgrab.org)のウエブサイトを基に行った世銀の研究は、80ヵ国に389のプロジェクト(37%は食料生産、35%はバイオ燃料)があり、うち22%か既に実施中と認めている。この研究の最も重要な発見はこれらプロジェクトの地方コミュニティへの影響で、ワシントン会合で共有された圧倒的結論は、これらプロジェクトは地方コミュニティに何の利益ももたらしていない、環境影響評価はまれにしか実施されておらず、人々は相談も補償もなく土地を追われているというものだった。世銀は、投資家は「土地ガバナンスが弱い」地域をわざとターゲットにしている、とまで言っている、という。

 http://www.grain.org/articles/?id=64

  世銀やその他の国際機関が原則づくりにうつつを抜かしている間に、現実は取り返しがつかないほどに進んでしまった。いまや、国際機関が取りつく島もない。国際機関は、最低限、貧しい国の農地の大規模取得プロジェクトへの融資や技術支援を直ちに停止すべきである。