EUとフランスの牛識別システムと牛肉表示制度
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農業情報研究所(WAPIC)
02.2.8
1.EUの牛識別・追跡システムと牛肉表示制度
多くのEU諸国は、以前から牛の識別・追跡システムをもっていた。ただし、一部の登録漏れや移動記録の欠如、容易に外れる耳タグ(個々の牛の識別を可能にするための番号を記した付け札)、全国データベースの欠如など欠陥をかかえる国も多かった。しかし、BSE(牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病)に対する消費者の不安が高まると、EUは、1997年、「牛の識別と登録及び牛肉・牛肉製品の表示に関するシステムを確立する」理事会規則(No.820/97)を制定して各国に改善を義務づけた。現行制度は、2000年7月17日の「牛の識別・登録及び牛肉・牛肉製品の表示のためのシステムを設立し、理事会規則(EC)No.820/97を廃止する欧州議会・理事会規則」(No.1760/2000)に定められている。以下はその骨格である。
(1)牛の識別・登録システム
a)すべてのEU構成国は牛の識別・登録システムを設立しなければならない。
b)この識別・登録システムは次の要素を含まねばならない。
−牛を個別に識別するための耳タグ、
−コンピュータを使ったデータベース、
−牛のパスポート、
−各ホールディング(牛が飼われ、保管され、扱われるすべての施設・建物・屋外農場)が保管する個別登録簿。
EU構成国と欧州委員会(EUの行政府)は、構成国により承認された消費者団体も含むすべての関係者にこれらのデータへのアクセスを保証する手段を講じなければならない。
c)すべての牛は、関係当局により承認され、両耳に着けられる耳タグにより識別されねばならない(耕作用またはスポーツ・イベント用の牛については、同等の保証が可能な別の識別システムを講じる)。
これら耳タグには、牛が生まれたホールディングとともに、個別の牛の識別を可能にする識別コードを記さねばならない。
耳タグは、牛の出生日から30日以内(具体的にはこの範囲内で構成国が定める)に、またいかなる場合にも生まれた牛がそのホールディングを去る前に着けられねばならない。
耳タグは、関係当局が決定する方法でホールディングに配分・配布され、着けられる。
将来、欧州議会と理事会は、電子識別の導入の可能性について決定する。
d)関係当局はコンピュータを使ったデータベースを立ち上げねばならない。
e)関係当局は出生の届け出後14日以内にパスポートを交付する。牛が移動する場合、このパスポートを携えねばならない。
f)牛の保有者(輸送中や市場での一時的保有者も含む)は、
−更新された(最新の)登録簿を保管し、
−ホールディングへのまたはホールディングからの移動、ホールディングでの出生と死亡のすべてを、3−7日以内に関係当局に報告しなければならず、
−各牛の移動について直ちにパスポートを補足しなければならず、
−関係当局の要請により、原産地や識別に関するすべての情報を提供しなければならない。
(2)牛肉・牛肉製品の表示システム
a)強制表示システムは、枝肉・四分体・肉片の識別と個別の牛の関係を確証するものでなければならない。
ラベルは次のことを示すものでなければならない。
−牛と肉の関係を確証する参照番号またはコード、
−牛が屠殺された屠殺場の承認番号または屠殺場があるEU構成国名または第三国名、
−枝肉の切り分けを行なう切り分け工場の承認番号または切り分け工場があるEU構成国名または第三国名。
ただし、2001年12月31日までは、可能な国ではその他の追加情報を記すこともできる。
2002年1月1日からは、牛肉取引事業者・団体は、ラベルに、牛の出生国名・肥育が行なわれた国すべての国名、屠殺が行なわれた国の国名を記さねばならない。ただし、出生・飼育・屠殺が同一国の場合には原産国名を記すだけでよい。
b)EU構成国は、当該牛肉の生産・販売が行なわれる国の関係当局により特定される上記以外の項目の自主的表示を許される。
2.フランスの牛の識別・追跡・表示システム
(1)牛の識別システム
フランスは1978年以来の識別システムを1995年に改善し(1995年3月9日のデクレNo.95-276)、上記のEU規則が定めるのと同様なシステムを設置した。具体的には次のようになっている。
子牛が生まれると、それから48時間以内に生産者はその子牛の出生国コード(フランスの場合ならばFR)と出生県の番号から始まる10桁の識別番号を記した二つの耳タグを着ける。この番号は、この牛に生涯ついてまわる。
次に、生産者は、子牛の出生から7日以内に、県畜産事務所(EDE)にこの牛の出生(出生日、性別、10桁の番号、その両親の身元証明書、品種)と識別番号を届け出なければならない。
EDEは、牛の全国データファイルと連結された県データファイルを管理する。ここで生産者が伝えた情報が有効なものになり、この牛の身元証明書となるパスポートが交付される。このパスポートには牛の名前、原産国、耳タグの出生国コードと識別番号、性別、品種、出生日、両親の識別番号と品種が記される。このパスポートの裏面にも両親の識別番号と品種、名前が記される。これにより、牛の移動も識別される。このパスポートは、屠殺まで、生涯ついてまわる。
屠殺後、各屠体には屠殺場番号が付けられる。これが牛の識別番号に取って代わるが、これら二つの番号は屠殺場に保存されるデータベースで照合できる。
このシステムにより、牛の誕生から消費に至るまで直ちに追跡できるようになっている(2001年11月のEUの監査により、市場を通しての移動が登録されない欠陥が指摘されているが、現在は是正されつつある)。
2000年秋のBSEパニックのきっかけになったカルフール事件のときにも、10月10日、屠殺場で検査官により異常な牛が発見された後、この牛の出荷農場から10月4日に11頭が屠殺に出されていることが直ちに判明、肉の出荷先の店舗も20日(「異常な牛」がBSEと確認された日)には突き止められて、既に販売された部分を除く商品が回収された。
(2)牛肉表示システム
牛肉表示システムは、1997年、関係業界の自主的協定によりスタートした。これは行政当局により協定参加者以外にも拡張適用され、フランスで生まれ・育てられ・屠殺された牛について、事実上の義務的制度となった。
表示項目は次のとおりである。
−原産国:フランスで生まれ、育てられ、屠殺されたことを示す。
−種のタイプ:肉用牛、乳用牛(乳肉兼用の場合は乳用牛とする)
−カテゴリー:未経産牛、若雄牛、雄牛、経産雌牛、非去勢牛
ここで、若雄牛は6ヵ月から24ヵ月までの月齢の雄牛、雄牛は24ヵ月から40ヵ月までの月齢の雄牛、非去勢牛とは繁殖用雄牛をいう。
これは、BSEのリスクを意識したものである。BSEには雄牛も雌牛もかかる。しかし、実際には、フランスでBSE感染が確認されたのは(現在までに500頭以上)、すべて雌牛である。これらの雌牛は、廃用乳牛か自分の子に哺乳するための雌牛であり、動物蛋白飼料禁止以前には感染源に曝された可能性が高く、しかもBSEの潜伏期間と一致する5歳を越えて屠殺される。他方、肉用種には動物蛋白飼料はほとんど与えられないし(BSEが確認された牛の92%は乳牛)、雄牛のほとんどは4歳までには屠殺されるからBSEに感染していたとしても潜伏期間内である(フランスでのBSE確認牛の最低年齢は3.6歳―それも1頭だけーで、その他はすべて4.1歳以上である)。
ところで、先のEU規則により、原産国表示はフランス国産牛以外についても2002年1月から義務化されたが、その他の表示項目は義務化できなくなった。これらは、旧来の品質表示制度(赤ラベル、適合認証、有機農業、原産地呼称)で管理されることになる。この場合、牛肉がフランスで生まれ・育てられ・屠殺され、また法律に従った条件で飼育されてきた牛に由来するものであることを消費者に知らせるVBF(フランス牛肉)のロゴが付される。なお、VBF基準書は、1999年以来、牛の原産地域・品種・牛肉熟成期間の表示も可能にしている。