農業情報研究所

ハイライ


日本:検査で安全は保証されるのか

01.10.22

 厚生労働省は18日から食肉処理場に入るすべての牛の検査に入った。この検査で「陰性」と出れば牛肉の安全性にお墨付が出たも同然とする風潮が無批判に広まり、マスコミも疑念をもたないようである。専ら、サンドイッチ・エライザ法という検査方法の「過敏性」により擬陽性のケースが増え、「風評被害」が広がることに関心が集中しているようである。

 しかし、今までに何度か指摘してきたように、現在の検査には、病原体が脳内に一定程度以上に集積したあとにのみ病気が検出できるという限界がある。感染していても病原体は発病の数カ月前まで脳内に集積せず、むしろリンパ節やその他の周辺(中枢以外の)神経節に集積しているといわれる。現在、大量の検査が可能な簡易検査では、どんな「過敏」な検査であっても、これを確認する方法はない。

 従って、牛肉の安全性はこれらの部位までも含めた危険部位の完全な除去なしには保証されない。EUの危険部位のりストには、12ヵ月以上の牛・羊・山羊の脳髄と眼球を含む頭蓋・扁桃腺・脊髄、2ヶ月以上の牛の腸全体、すべて羊と山羊の脾臓が含まれ、リスクが高いイギリスとポルトガルの牛に関しては、6ヵ月以上の牛の頭全体(脳しょう、眼球、三叉神経節、扁桃腺を含む。ただし、舌は除く)、胸腺、腸(十二指腸から回腸まで)、脊髄、30ヵ月以上の牛の脊柱(脊髄神経節を含む)が含まれる。さらに、今年2月には、骨に近い部位を使用するTボーン・ステーキ、機械的回収肉(MRM、高圧で骨から削ぎ取った肉で、安価なバーガー、ソーセージ、細切れ肉などに使用)も禁止している。EUはが30ヵ月以上の牛の検査を開始しており、今年7月から、おそらくは検出限界を下回るであろう24ヵ月以上の一部の牛にも検査を拡張した(1991年以来、フランスでは400を越える狂牛病が検査により確認されているが、48ヵ月以下では1件も確認されていない)。それにもかかわらず、上記の危険部位の除去を義務づけているのは、先の理由により、現在の検査の結果の「陰性」は「感染なし」を意味しないからである。

 わが国でも危険部位の除去は義務づけられた。しかし、危険部位には脳・眼・脊髄が含まれるだけである。今月7日、日本獣医学界は「牛海綿状脳症(狂牛病)はなぜ日本で発生したか」と題する緊急公開シンポジウムを岩手大学で開いたが、その際、品川森一帯広畜産大学教授が危険部位として「脳、脊髄、胸腺、脾臓」をあげると、山内一也東大名誉教授はすかさず「胸腺、脾臓ではほとんど感染しない」と補足したという(日本経済新聞、01.10.8)。

 専門家の間で意見が割れるのだから、行政が安全を「保証」できるはずはない。この点に関する意見の対立が解消されるまで、検査により安全性にお墨付を出すことはやめるべきである。さもないと、「全頭」検査は危険性への警戒心を緩めることで、かえって危険性の度合いを高めることになる。

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