日本:的外れなBSE対策ー検査・廃用乳牛・イタリア肉骨粉

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農業情報研究所
(WAPIC)

2002.1.18

 年が改まっても、的外れのBSE対策は一向に改まる様子がない。その根本的原因は、食肉処理用に屠殺される牛すべてを検査するのだから、牛肉の安全性は確保されるという誤解にある。検査が安全保証の手段と誤認されたために、他の一切のリスク管理手段が軽視されるか、無用とまで思い込まれるに至っているのである。

 検査の意義とリスク管理

 実際には、現在の脳組織を対象とする簡易検査(ラピッド・テスト)は、発症間近な潜伏末期の感染牛を発見できるだけである。EUは、1999年、30ヶ月以上の牛に関する死後ラピッド・テストを導入したが、これらの検査は潜伏末期のBSE病源体の存在を発見できるだけであり、30ヶ月齢以上の牛についてのみ検査結果が信頼できるとして使用を承認されたものであった。イギリスの海綿状脳症諮問委員会(SEAC)も、2001年2月28日の会合において、脳組織を対象とする「現在の検査は病気の潜伏末期(多分、発症の3ヵ月前)のBSE感染は検出できるが、それ以前の潜伏期の感染牛は検出しないであろうと考える」と確認している。2001年1月のフランス食品安全機関(AFSSA)の意見書も、同様な理由で、これらの検査の結果が「シロ」であることは「感染なし」を意味しないから、検査の導入によって特定危険部位のコントロールなどの予防措置が緩められることがあってはならないし、このことは消費者に知らされねばならないと述べている。

 従って、ヨーロッパでは検査は安全保証の手段とはみなされない。検査は、BSEの発生率(発生状況)やリスクが高い動物グループを把握し、適切なリスク管理政策を実施するための手段と考えられているのである。人間や動物の消費から排除されるべき特定危険部位も、こうした基礎的データなしには適切に定義できない。

 わが国ではこのような意識が欠けているために、BSEが確認される可能性が高い死亡牛等(リスク牛)の検査が極めて部分的にしか行なわれていない(EUではすべてのリスク牛の検査を義務づけている)。また、BSEが確認された牛3頭がいずれも廃用乳牛であったことから、こうした牛が食肉処理から遠ざけられ、検査されることなく留め置かれている。要するに、検査の性能からして、最初からBSEが確認されるはずのない(低月齢の)牛だけが検査され、確認が可能な牛が検査されないままに放置されているのである。これでは、発生状況の的確な把握はできない。従って、適切なリスク管理も不可能なのである。

 廃用乳牛の買上げ・検査を

 従って、死亡牛等リスク牛すべての検査を早急に実施すべきであるし、検査から遠ざけられてしまった廃用乳牛は、国がすべて買い上げ、検査しなければならない。それは、これらの牛を更新できない生産者の困難を救済するための措置であると同時に、適切なBSE対策を講じるためにも不可欠な措置である。

 イタリア製肉骨粉の問題

 検査万能の意識は、感染ルート解明の意義の軽視にも反映しているようである(北海道での武部農水相の発言)。それは、感染ルート解明の体制の弱体につながり、信じられないような無知が横行している。 たとえば、イタリアから輸入された肉骨粉がBSE病源体を不活性化させるための加熱が十分でなかった可能性があることが問題になり、調査が続けられている。しかし、これは「不活性化」処理の問題なのかと疑う。

 イタリアでは、ドイツ等のかつてのBSE未発生国同様、国産牛の特定危険部位は、2000年10月からEUが義務化するまで、いかなるコントロールも受けていなかった。つまり、それは除去・廃棄されることなくレンダリングにまわされ、従って肉骨粉に加工されていた。日本が肉骨粉を輸入したデンマークについても、特定危険部位のコントロールは2000年3月まで存在しなかった。

 特定危険部位とは、もしBSEに感染しているとすれば、いかなる加熱処理によっても利用してはならない部位のことである。イタリアでは、検査の拡充の結果、2001年1月に初めてBSEが確認され、2001年末までに確認件数は48件に達した。以前からBSEは存在し、監視が不十分なために見逃されてきたにすぎないことはほとんど明白である。とすれば、イタリア産の肉骨粉が感染性をもったであろうことは否定できない。2000年まで1件しか確認されなかったデンマークのBSEも、検査が拡充された2001年には6件に増えた。イタリアほどではないとしても、その肉骨粉に感染性がないともいえない。

 17日の参院農水委員会では、農水省には感染ルート解明に取り組む専従職員が一人もいないことが明らかにされた。これでは、この混迷も仕方がないのかもしれない。

 しかし、このままでは消費者の信頼は戻らない。適切なリスク管理を欠いたままに安全を強調すればするほど消費者は疑心暗鬼になる。それでは生産者も、いつまでたっても救われない。

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