農業情報研究所

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マウスの筋肉に異常プリオンが蓄積という研究、食用動物の早急な調査が必要

農業情報研究所(WAPIC)

2002.3.19

 マスコミ報道によると、マウス実験により、異常蛋白質ープリオンが筋肉組織、特に後四分体に蓄積することが明らかにされた。研究は、サンフランシスコ・カリフォルニア大学のスタンリイ・プルジナー実験室で5年前に開始されたもので、19日、Proceedings of the National Academy of Sciencesに発表される。研究者は、これはマウスだけでの発見であり、人間が食べる動物には適用されないと強調しているが、もしそれらの肉が異常蛋白質を宿すとすれば、明かに感染している家畜の緊急の検査を正当化すると警告している。マウスが異常蛋白質を注入されたとき、それは筋肉に広がったが、筋肉全体ではなく、後脚に高レベルで発見されたという。これは、異常プリオンが長い時間をかけて脳(中枢神経組織)に到達する未だ解明されていない経路を探る上で重要な意味をもつと思われる。しかし、専門的研究者ではない我々の関心は、筋肉を食べることで人間や動物がBSEに感染し、発病するリスクの問題に向かう。

 「筋肉」というのは人間が食べる食肉そのものである。これは、従来、BSE(牛海綿状脳症、狂牛病)等海綿状脳症の病源体関連物質とみられる異常プリオンのキャリアーではないと考えられてきた。90年代初め以来、WHOは、筋肉を感染性が検出されない部位に分類している。その後のいかなる実験もこの分類が間違いだとは確認していない。しかし、異常プリオンが筋肉にも蓄積するとすれば、それが感染性をもたないという従来の通説を覆す可能性も出てきたわけである。この研究の実験の対象は食用にならないマウスだけであったから、研究者たちが食用動物の筋肉の緊急の検査を要請したのは当然のことであろう。

 ただ、現在の簡易検査では感染を発見できないような潜伏初中期のBSE感染牛には、中枢神経組織よりも末梢神経組織・リンパ組織に多くの異常プリオンが蓄積しているという見方は従来もあった。従って、このような感線牛からくるリスクを軽減するために、ヨーロッパでは「腸全体」を特定危険部位に指定するという予防措置も講じてきた(北林寿信「狂牛病 日本のとるべき対策とは何か」『世界』2001年12月号、同「EU諸国はどう対応してきたか」『肉はこう食べよう 畜産はこう変えよう』コモンズ、2002年3月、第4章参照)。それにもかかわらず、筋肉の感染性という人間にとっての死活的問題について今日にいたるまで十分な研究がなされたようにみえない。フランス・リベラシオン紙によれば、今回の研究を受け、フランスの専門家は「筋肉に関して公表された研究業績は極めて少ない。結果はいつも陰性だったからだ」と言っている(LE PRION AIME LE STEAK DE SOURIS,Liberation,3.19 )。今回のプルジナー等の研究は、BSE牛の脳組織の中の異常プリオンを検出するために現在使われている簡易検査と同じ原理に基づく生化学的方法によっているから、フランス保健当局は、早速、BSE感染が確認されて食用利用から排除された牛の肉を検査すると発表した。最初の結果は数日中に出るという。

 今回の実験は震え病(スクレイピー)の羊から分離されたプリオンの株をマウスに注入するものであった。牛に関して同様の結果が生じると考えるのは早計である。震え病のプリオンは牛のプリオンよりも組織に侵入しやすいとも言われる。それでも、というより、だからこそ食用動物の筋肉の早急な検査が必要であろう。場合によっては、最終的結果を待つ前に、何らかの一層の予防措置を講ずるべきかもしれない(例えば、イギリスで行なわれている30ヵ月以上の牛すべての食用からの排除とか、感染の可能性が高い牛群を見つけ出し、廃棄するー日本ではBSEが確認される可能性がある廃用乳牛や死亡牛の検査がほとんど行なわれていないために、このような牛群を特定することは、当面は困難であるがーといった措置)。リスクが確認された場合の結果は余りに深刻で、取り返しができないからである。日本も早急に調査を始めるべきことはいうまでもない。 

 関連情報
   Research Leads to Call for Quick Testing of Mad-Cow-Infected Animals,The New York Times,3.19
   Vache folle  : les prions pathologiques pourraient être présents dans la viande,Le Monde Interactif,3.19
   La présence ou non de prions dans la viande soulève un tollé,Le Monde Interactif,3.19
    LE PRION AIME LE STEAK DE SOURIS,Liberation,3.19
   Could Mouse Muscle Hold Clue to Mad Cow Disease? ,HealthScout,3.18
   異常型プリオン 筋肉内にも蓄積 米大教授ら発表へ 日本経済新聞(夕) 3.19
   筋肉注射でプリオン蓄積 米グループマウス実験 朝日新聞(夕) 3.19

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