EU:科学運営委員会(SSC)が羊と山羊のBSEリスクに関する意見を発表

農業情報研究所(WAPIC)

2001.10.26

 今年8月2日、英国食品規格局(FSA)は、新たな研究により、1990年代初期の英国の羊のなかに狂牛病(BSE)が存在したことが確認されるか、その可能性が否定できなくなる場合があり得ると発表した(FSA UPDATE ON THE RISK OF BSE IN SHEEP)。従来も羊のBSEはあり得るとされ、それ故に、EUも、BSEに感染する可能性が高い特定危険部位に羊・山羊の脾臓(牛の場合と異なり、感染初期に特にここに病原体が多量に見られる)を加えてきた。しかし、FSAの発表により、羊のBSEは「あり得る」から「多分ある」に変わった。これを受け、欧州委員会は、SSCに対し、9月、羊のBSEリスクと消費者の安全確保に関する諮問を行ったが、それへの回答となる意見書(Opinion on the safety of small ruminant products should BSE in small ruminants become pribable/confirmed)が1019日に採択され、24日公表された。従来、スクレイピー(羊の海綿状脳症で人には伝達されないとみなされてきた)と思われていたものの中にBSEがまぎれていたとすれば、BSE対策は大きく見直されねばならないだろう。わが国でもスクレイピーは数多く発生しているいるだけに、これは対岸の問題として軽視することはできない。意見書の内容の詳細は、後に紹介するつもりであるが、とりあえず要旨のみ紹介しておく。

 ・今まで、農場レベルでは小反芻動物(羊・山羊)の中にBSEが存在するという証拠はない。しかし、過去において羊がBSE病原体に汚染された可能性のある肉骨粉を与えられたことから、これらの動物の中にBSEが存在する可能性は否定できない。

 ・BSEであれ、スクレイピーであれ、動物が伝達性海綿脳症(TSEs)に感染しているかどうかを検出するために、羊・山羊に関する簡易検査を有効にし、導入するための緊急対策が取られねばならない。これにより、現実のTSE発生率と地理的広がりに関する基本的データの収集が可能になる。簡易検査は、脳組織ではなく、感染初期に高い感染性を示す脾臓組織を対象に行うべきである。BSEとスクレイピーを見分けることのできる検査の開発も急がねばならない。

 ・検査は、TSEに対する一定のタイプの羊の遺伝的抵抗性が確認できるように、検査される動物の遺伝子型と関連づけられるべきである。当面、一定のスクレイピー抵抗遺伝子型羊がTSEsのキャリアではないとは保証できない(WAPIC注:英国では、こうしたタイプの羊だけを販売するから安全と触れ込むスーパーもある)。検査のこのような関連づけにより、この点を確認するための科学的基礎が与えられる。TSEフリーの群の認証は、動物の同定と追跡のシステムの改善と相俟って、これら動物からくる危険を減らし、長期的にみた消費者保護を強化するための最善の政策となるであろう。しかし、TSE抵抗性動物の育種計画のEUレベルでの導入の前に、TSE抵抗性に関する現在の不確実性の問題が解決されねばならない。

 ・羊と山羊の中にBSEが「多分ある」となるならば、食物連鎖から排除されねばならない特定危険部位に関する以前の意見は見直す必要がある。羊と山羊の乳と乳製品に感染性はないとする以前の意見を変更する必要はないが、感染が疑われる動物の乳は、予防的に、食物連鎖から排除されるべきである。

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