フランス:BSE確認後の屠殺・廃棄政策変更へ
ー2002年1月以後生まれの牛は廃棄対象外にー

農業情報研究所(WAPIC)

2002.1.10

 牛海綿状脳症(BSE)対策における未解決の問題の一つに、BSEが確認された場合に屠殺・廃棄処分にするべき牛(動物)の範囲の問題がある。

 フランスでは、1990年から94年まで、BSEが確認された牛は屠殺・焼却処分され、この牛と同一の群れに属する牛については特定危険部位のみが焼却され、その肉は販売に出されていた(ただし、経営者は、農水省の同意があれば、これらの牛すべてを廃棄し、補償を受けることも可能であった)。しかし、1994年からは、BSE感染牛だけでなく、同一牛群の牛すべてを焼却処分するように改められた。1997年以後は、BSEが確認された牛をもつ経営で生まれた後に他の牛群に移動した牛も追跡して処分、さらに母子感染の可能性を考慮して、BSEが確認された母牛から生まれた子牛も処分してきた。イギリスを除くEU諸国もほぼ同様な措置を取っている。

EUの専門家は、このような厳しい処分では、疑わしいケースを農家が通報しない恐れがあると危惧してきた。フランスの少数派農民組合である農民同盟も、かねて、簡易検査による大量の検査が可能になったのだから、廃棄処分の対象はBSEが確認された牛に限り、同一牛群の他の牛は検査してシロならば助けるべきだと主張してきた。同一牛群の牛すべてへの「補償」は金の無駄使いであり、その分をより精密な検査の開発に向けるべきだというのである。

フランス農水省は、現在の検査は不完全なものであり、感染牛すべてを発見できるわけではない(脳に大量の病源体が蓄積するようになる発病間近な感染牛を発見できるだけである)から、消費者保護の観点から現行の方法を維持しなければならないとしてきたが、昨年12月、今年1月からの家畜飼料への肉骨粉使用全面禁止を考慮し、20021月以後に生まれた牛は屠殺・廃棄の対象から外すという規則改正案の是非を食品安全機関(AFSSA)に諮問した。これに対するAFSSAの意見が19日に発表された(Avis de l'Afssa sur un projet d'arrêté ministériel visant à modifier l'arrêté du 3 décembre 1990 relatif à la police sanitaire de l'ESB)。

 AFSSAは、検査によるBSEの検出限界に関する従来の意見を維持しているが、肉骨粉飼料禁止の有効性は認め、「BSEにかかった母牛の子を除く200111日以後に生まれた牛を屠殺措置から外す」という選別屠殺に賛意を表明した。グラバニ農水相は、1月末までには必要な手続を終え、この実施を決定するという意向を表明した。しかし、農民同盟は、この極めて限定的な措置は、牛肉の構造的過剰のなかで行使された「経済事業者」の圧力に屈したもので、「政治的勇気」を欠くものと批判している(L'avis de l'AFSSA sur l'abattage du troupeau en cas d'ESB n'est qu'un pis aller, la Confédération paysanne réiétère sa demande d'un abattage séléctif cohérent)。農民同盟によれば、検査により安全性は確保されるのだから、この決定は「馬鹿げている」。しかし、現在の検査が潜伏期の感染を発見できないことは確かであり、この主張にも無理がある。潜伏期の感染を発見できるような検査の開発が先決と思われる。同時に、今回の屠殺・廃棄政策の改変は極めて限定的ではあっても、フランスの牛の平均年齢は2−3歳であるから、3年も経てば多くの牛は屠殺・廃棄の対象外となることにも注意しなければならない。このような措置の緩和のためにも、確たるBSE根絶(潜在感染牛の完全な排除)政策が不可欠ということである。

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