米国FDA、BSE感染防止ルール強化を発表、なお抜け穴、実施も何時のことか

農業情報研究所(WAPIC)

04.7.10

 米国食品医薬局(FDA)が9日、農務省(USDA)と共に、既存のBSE(狂牛病)に関する消費者保護措置と牛の感染防止措置を強化すると発表した(*)。提案された消費者保護強化のルールは「暫定最終ルール」と呼ばれ、直ちに実施するが、同時に公衆の意見も求めるという。飼料規制の強化に関するルールは公衆の意見を問うものであり、実施は先のことになる。ニューヨーク・タイムズ紙(**)によると、専門家は今年中の実施はないと見ている。

 人間の感染防止措置の強化ー食品・化粧品への特定危険部位等の使用の禁止

 消費者保護の強化に関する暫定最終ルールは、肉をベースとする一定の製品や栄養補助食品などの人間食料と化粧品にBSE病源体を含む可能性のある牛由来物質の使用を禁止するものである。これらのリスクが高い物質には、特定危険部位(30ヵ月以上の牛の脳、頭蓋、眼、脊髄、脊椎に隣接する神経組織=背根神経節、すべての月齢の牛の扁桃や小腸の一部=回腸遠位部)が含まれ、歩行・起立困難な牛(ダウナーカウ、へたり牛)の組織、すべての牛の小腸全体、点検されずに人間の消費に当てられる牛の組織、機械的分離肉(肉を削ぎ取った後に骨に残存附着する少量の肉を骨ごと粉砕、篩い取られた肉)も含まれるという。

 なお、FDAは、これら製品の製造者や加工者に対し、禁止物資が製品に使われていないことを示す記録の保存も要求している。

 今年1月、USDAの食品安全検査局(FSIS)は、BSE感染が疑われるダウナーカウを、ハンバーガー、あるいはその他の廉価な肉などの食品として使うことを禁止した。1月末には、FDAが栄養補助食品や化粧品に危険度が高い牛の組織を使うことを禁止するルールを提案、公衆の意見を求めていた。

 牛の感染防止措置の強化ー飼料の交叉汚染防止ルール

 FDAは97年以来、大部分の哺乳動物蛋白質(注)を牛、その他の反芻動物の飼料に使うことを禁止してきた。だが、これが遵守されているかどうかの問題は別として、他の動物の飼料に使用が許されている動物蛋白質の牛の飼料への混入(交叉汚染)や、このような飼料を与えられた動物の副産物の牛の飼料への使用からくる牛のBSE感染の可能性は排除されていない。これら飼料からは、ごく微量でもBSEを引き起こす特定危険部位も排除されていないのだから、このような形での牛の感染の可能性は一層高いと考えられる。これは、昨年末の米国初のBSE発見を受けて行われた国際専門家調査や米国内消費者団体等が厳しく指摘してきたことだ。

 (注)血液と血液製品、ゼラチン(ゼラチン由来のアミノ酸及び第2リン酸カルシウムを含む)、調理され・人間の消費に供された検分され・加工された肉製品(残飯と使用済みセルローズ食品ケーシング)、乳製品(乳と乳蛋白質)、含まれる蛋白質が豚の蛋白質だけで構成される哺乳動物蛋白質を除く哺乳動物のすべての蛋白質。

 今回」のFDAの提案は、

 ・飼料の製造・流通・農場での交叉汚染のリスクを減らすために、ペットフードも含むすべての動物飼料から特定危険部位を除去する、

 ・交叉汚染防止のために、飼料製造・輸送の間に飼料と飼料成分を扱い、貯蔵する設備・施設の専用化を義務付ける、

 ・交叉汚染防止のために、反芻動物飼料へのすべての哺乳動物・家禽(鳥類)蛋白質の使用を禁止し、またダウナーカウや斃死牛のすべての動物飼料への利用を禁止する、

というものだ。

 つまり、特定危険部位(その範囲と現実の除去にはなお問題が残る)とダウナーカウ(それが確実に発見され・排除されるかどうか不確かだ)・斃死牛を除く大部分の牛(反芻動物)の組織は、相変わらず豚や鶏の飼料に使ってよいということだ。専用化による交叉汚染防止策は農場には適用されないようだ。また、獣脂については、蛋白質混入が0.5%未満ならば、なお許されるとしている。さらに、1月以来、食肉としての利用が禁止されたダウナーカウは、獣脂製造のためにレンダリング工場に送ることができるという(獣脂製造の副産物としての肉骨粉にはダウナーカウ由来の成分が含まれることになる)。

 その上、消費者団体や一部専門家の懸念をとりわけ掻き立ててきた牛の血液や養鶏場廃棄物(養鶏場から排出される寝藁・食べ残した餌・羽・糞)を牛の飼料として利用する慣行については、今回のルールは何も触れていない。1月のFDAの提案は、これらを禁止するとしていた。

 そして、安全を保証するにはなお不十分と思われるこのような新ルールも、本当に実施されることになるのかどうか、実施されるとしても何時からなのか、現段階では分からない。不十分なものとはいえ、新ルール実施となれば、牛肉産業、食品製造業者、レンダリング業者等、広範な産業の慣行は抜本的改変を迫られる。実施に至るまでには、なお多くの曲折があるだろう。

 米国牛肉の輸入再開交渉が煮詰まっているようであり、近々の妥結の観測も出ているが、その場合には、こうした問題の行方を見極める前の決着ということになる。それで安全は保証できるのだろうか。このような提案がなされたことは、これが実施されなければ、牛の感染防止策は万全ではないとFDA自身が認めたことを意味する。もちろん、現在の技術では、全頭検査も安全を保証するものでないことは、再三述べてきた。 

 *FDA News Release:USDA and HHS Strengthen Safeguards Against Bovine Spongiform Encephalopathy,7.9.
 **U.S. Moving to New Ban for Mad Cow, Officials Say,The New York Times,7.10.

 関連情報
 米国食品医薬局(FDA)、新BSE対策を発表―飼料規制強化,04.1.27