USDAは「アグリビジネス産業省」、デタラメな米国BSE対策の根源 新レポート

農業情報研究所(WAPIC)

04.7.26

 7月23日、米国農務省(USDA)の規制政策は、以前産業で働いていた人物を政策決定にかかわる多くの重要ポストに送り込んだ巨大アグリビジネスにより「ハイジャック」されているという新たな報告が発表された。「USDA会社:アグリビジネスはいかにしてUSDA規制政策をハイジャックしたか」(USDA Inc.: How Agribusiness has hijacked regulatory policy at the US Department of Agriculture.)と題するこの報告書は、巨大農産食品企業の影響力増大を懸念する家族農民や公益団体のネットワークである「アグリビジネス説明責任イニシアティブ」(the Agribusiness Accountability Initiative (AAI))が委嘱した研究の結果を報告するものである。

 それは、USDAはかつて、土地を耕す人口の大部分を助ける役割を認めたリンカーン大統領により、「人民の省」と呼ばれたが、140年を経た今、別ものに作り変えられた、現在では、食品安全や公正市場競争などの問題に関する政策が、今や食品生産・加工・流通を支配する巨大企業の利益に奉仕するために形作られる故に、実際には「アグリビジネス産業省」になっている、我々は、これをUSDA会社と呼ぶと言う。

 報告によれば、USDAの改変は長い間に起きてきたものだが、今や劇的段階に達した。巨大アグリビジネスは、ブッシュ政府内での政治的影響力の増大のお陰で、大規模食品加工企業や取引団体のために働き、圧力をかけ、研究を実行した経歴をもつ任命者で省を束ねることができるようになった。高レベルの任命者の中には、家族農民、労働者、消費者、環境団体と結び付いた者は一人としていない。[注:米国の官僚、とりわけ高官は、日本と異なり、政権交代があるごとに、政府の意向に沿う者に置き換えられる。]

 このことは、トップ官僚の経歴を見れば明らかだ。ベナマン長官自身、現在はモンサントに吸収されたバイテク企業・カルジーンの理事だった。彼女が遺伝子組み換え(GM)作物の熱心な唱導者であり、自ら途上国への売り込みに狂奔していることは周知のとおりだ。長官主席補佐のデイル・ムーアは、タイソンやカーギルなどの巨大ミートパッカーの利益を擁護し、そのために活動する全米肉牛生産者牛肉協会(NCBA)の法務担当理事だった。副補佐のフロイド・ゲイブラーは、酪農産業の全米チーズ協会理事だった。議会関係補佐のメアリー・ウォーターは、最大規模の食品加工企業であるコンアグラ食品の上級理事で、法律顧問だった。

 この報告は、いくつかの事例研究で、このような人事によって規制政策が巨大企業のためにいかに捻じ曲げられているかを示している。徹底されないBSE対策、牛肉産業の反競争的慣行に対抗するルールの厳格な執行の拒否、大腸菌やリステリアなどの健康リスクが増加するなかでの屠畜場監査の緩和、GM作物に対する消費者の抵抗による輸出減退のなかでの農業バイテクの相変わらずの推進、工場農業の深刻な健康影響の証拠が増大しているなかでの濃厚飼料給餌の助成などだ。

 これらのなかで、米国牛肉輸入の早期再開が取り沙汰される今、とりわけ日本人の注意を引くのは、BSE対策の事例だろう。この政策決定にかかわる重要ポストには、先に上げたムーア主席補佐、メアリー・ウォーター議会関係補佐のほか、次のような前産業関係者が就いている。

 ・販売・規制プログラム副補佐のチャールズ・ランバート博士。彼は、NCBAの様々なポストで15年以上過ごした。

 ・報道部長のアリサ・ハリソン。彼女はNCBAの広報関係常務理事だった。

 ・農場・外国農業局のJ・B・ペン副局長。彼は食肉産業や他のアグリビジネス部門と緊密に協力するコンサルタント企業であるスパークス・カンパニーズの副会長だった。彼は、米国牛肉輸入再開にかかわる日本との協議にも直接かかわっている。

 ・スコット・チャーボ主席情報官。コンアグラ食品の100%子会社、mPower3 INC.の前会長。ベナマン長官は、彼をBSEなどの問題の処理に役立つ国家家畜識別プログラム創設の責任者に指名したが、かれはこのプロジェクトを大して重要と見ていないように見える。「彼は、いかなる家畜識別プログラムも、それだけでは家畜病侵入を防止し、食品安全を確保し、あるいはリコールを防止しないだろうことに注意するのが重要だ」と言っている。[注:当たり前のことだ。だが、僅かな例外も許さない義務的識別システムはすべての安全対策の前提だ。例えば、たった一頭のBSE感染牛の身元が知れず、あるいは行方がわからないだけでも、安全対策への信頼は瓦解する。]

 報告書は、信じられないような安全対策の現状を指摘、こんなことがまかり通るのは、このような人々が政策決定のための重要ポストを占めているからだとしか考えられないと言う。例えば、次のようなことだ。

 ・最初のBSE発見後、USDAはダウナーカウ(へたり牛)の食用利用禁止、特定危険部位の利用の禁止などの措置を打ち出した。だが、脳・脊髄などの中枢神経組織と特定危険部位は30ヵ月以上の牛に限定されている。ダウナーカウについては、大部分のアメリカ人は、こんな牛がハンバーガーに使われているなどと考えてもいなかった。だが、牛肉加工産業は、これを禁止しようとする議会の努力を10年以上にわたって阻止するのに成功してきた。

 ・最初のBSE発見後の国民の不安の高まりにもかかわらず、産業はすべての牛の検査、原産国表示、家畜飼料への動物副産物の利用の禁止などの新ルール制定は「過剰規制」と主張しており、USDAも、この主張を最大限に尊重しつづけている。

 ・5月には、テキサスの屠畜場で発見された神経症の証拠を示す牛が検査されなかった事実が発覚した。この牛は食肉生産からは排除されたが、家畜飼料を作るためにレンダリング工場に送られた。これは廻り廻って人間の食料に戻ってくる恐れがあるが、USDAは、強化されたという検査プログラムをこの牛がどのようにしてすり抜けたのか説明できなかった。

 等々。

 米国では、このように公衆の安全を軽視し、専ら産業の利益を優先する当局への批判が高まっている。逆に日本では、米国牛肉輸入再開に向けたキャンペーンがボルテージを高めるばかりである。