プルシナー等研究チーム、感染性人造プリオン創出と発表

農業情報研究所(WAPIC)

04.7.31

 牛の海綿状脳症(BSE)、羊のスクレイピー、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)等の致死的な伝達性海綿状脳症(TSEs)の病源体はプリオン(蛋白質)だという説を掲げてノーベル賞を受賞したプルシナー教授を含むカリフォルニア大学の研究チームが、マウスにこれらに類似の症候を引き起こす人造蛋白質を創り出したと発表した(*)。これにより、これらの病気の病源体が異常プリオン蛋白質であるという、これまで決して確証がなかった「プリオン説」が最終的に立証されたという。だが、これまで何回となく行われた実験で、試験管内で造り出した異常プリオン蛋白質を接種して発病させるのに成功した例は一つもなかった。俄かには信じ難い発表のように思われる。他の研究者すべてが確証が未だないとためらうなか、ノーベル賞欲しさで先走ったこの教授の主導する研究には、常に胡散臭さが付き纏う。

 これらの病気に罹ったヒトや動物の脳などの組織には、必ずこの異常プリオン蛋白質が発見される。だが、これは他の原因で病気にかかった結果生成されるにすぎないものかもしれず、病源体と言うためには、これを接種した動物が病気になることを確認しなければならない。ところが、これに成功した研究はまったくない。従って、この蛋白質だけで病気を引き起こすことができるのかどうか、論争が続いてきた。多くの研究者は、正常なプリオン蛋白質を異常プリオン蛋白質に変えるように命じるために、病源体はDNAあるいはRNAのような遺伝物質を含まねばならないとも考えてきた。

 このような議論に決着をつけるために、研究チームは、彼らがDNAとかRNAを含み得ないと考えるプリオン蛋白質を作り、それだけでBSEに似た病気を引き起こすことができるかどうかを調べた。彼らはバクテリアを利用して健康に見えるプリオン蛋白質を生み出し、それを精製した。これらを病気の脳に見られる不健康なプリオン蛋白質に変型させてマウスの脳に注入した。マウスは1年から2年でBSEに似た症状を発症した。死後の分析で、脳が空洞と異常プリオン蛋白質で一杯になっていることが分かった。さらにこの脳を健康なマウスに注入すると、これらのマウスも病気になったという。

 しかし、それならば、いままでの実験は何故成功しなかったのか。これだけでは合点がいかぬ。案の定、研究者の間に疑問の声もあるようだ。

 ニューヨーク・タイムズ紙によると(**)、連邦ロッキー山研究所の永存性ウィルス病試験所主任のBruce Chesebro博士は、実験はプリオンがマウスに何かを引き起こしたことは示すが、プリオンが感染を引き越しているのか、それとも潜在する感染過程を暴露しているだけなのか、なお不明確と言っている。また、プルシナー博士の批判者として知られるイェール大学医学スクールのLaura Manuekidis博士は、実験で異型にされたプリオンの株は、プルシナー博士の実験所でよく使われるマウスのプリオンに似ているようで、これは何か別のものが感染を引き起こした可能性があることを意味すると言う。博士は、多分、「不適切に洗浄された器具」からくるデータの汚染があると考えている。

 この研究も、「プリオン説」が確証されたと言うには不十分なようだ。小生はこれまで、異常プリオン蛋白質を決して「病源体」とは言わず、「病原体関連物質」と呼んできたが、しばらくはこれを改めるつもりはない。

 *Giuseppe Legname et al.,Synthetic Mammalian Prions,Science 305: 673-676 (Reports). 
 **Study Lends Support to Mad Cow Theory,The New York Times,7.30.