米国産牛肉輸入再開 肉質による月齢判定に反論できるのか

農業情報研究所(WAPIC)

04.10.27

 日米局長級協議で20ヵ月以下の米国産牛の特定危険部位を除去した牛肉の輸入再開が合意されたことは既に伝えた。米側は、米国農務省(USDA)が記録に基づき20ヵ月以下と証明する牛の牛肉は、数週間以内に輸出が再開できると見ているようだ。ペン農務次官は、23日の会見で、 輸出再開の前に両国がリスク評価、食肉処理場検査、規制プロセスを完成しなければならず、多少の時間はかかるが、これは数週間の単位の問題だと述べている。日本側の見方とは随分開きがあるようだが、合意には、「両国はこれらの手続を実行、可能なかぎり速く牛肉貿易を再開するように努める」ことが含まれているのだから、このような解釈も当然あり得る(日本側は来年7月再開と理解しているという報道があるが、7月は見直しの時期であり、普通に解釈すれば、これはあり得ない。それまでに暫定基準で再開、7月にこれを見直すとしか読みようがない)。

 このような方法で月齢を確認できる牛はごく一部にとどまるが、協議では、肉質による月齢確認が45日以内に完了すべき研究で認められれば、このような方法で20ヵ月以下と認められた牛の牛肉の輸入も認めることに合意している。そうなれば、大部分の米国産輸出向け牛肉の輸入も早急に再開される可能性が出てくる。協議では、次のような合意がなされている。

 「米国農務省農業販売促進サービス(AMS)は、月齢が判明している去勢牛及び未経産牛(その出生時が1か月の範囲内で特定されるもの)のと畜後の生理学的成熟度の評価に関する特別研究を行う。研究の目的は、記録月齢が20か月を超える去勢牛及び未経産牛を日本への輸出のための証明プログラムから除外することを確保するような、成熟度格付けの最大値を決定することである。米国のと畜した肥育牛群の代表的なサンプルについての生理学的月齢に関するこうした調査分析によって、牛の月齢に係る信頼できる評価法を提供する。この研究は、日本の専門家との協議の上で、国際的に認知されたサンプリング方法及び統計学的手法によって設計され、かつデータが分析される。 この研究は45日以内に完了し、報告が提出される。」

 日本側では、この方法での月齢確認は「非科学的」と反発する声が大きいが、この研究結果次第では有効な反論ができなくなるかもしれない。研究結果の評価は専門家に委ねることになるのだろうが、消費者も、最低限、「成熟度格付け」とはどんなものか、これによる月齢判断についてどんな問題があるのか、予め知っておかねば判断のしようがない。マスコミは、この問題が「焦点」と騒ぐが、にもかかわらず、これに関する詳しい情報はほとんど伝えられていない。多少ややこしい話だが、ここでまとめておくことにする。

 成熟度と月齢

 成熟度格付けは、米国牛肉の品質格付けにかかわる。品質は、プライム・チョイス・セレクト・スタンダード・コマーシャル・ユーティリティー・カッター・キャナーの8等級に分けられる。格付けは、柔らかさ(tenderness)、ジューシー度(juiciness)、風味(flavor)で決まるが、これを左右するのが「成熟度(Maturity)」だ。これは、実月齢ではなく、「生理学的月齢」を表す。

 プライムは若い牛から生産され、霜降りが多い最高級肉だ。チョイスは高品質だが、霜降りがプライムより少ない。セレクトはかなり柔らかいが、霜降りが少なく、ジューシー度や風味が劣るとされる。コマーシャル以下の牛肉は、格付けを受けることがほとんどない。コマーシャルは等級なし、あるいは店のブランドで売られることが多く、それ以下の等級では小売されることは滅多になく、挽肉や加工品になる。乳牛にはプライムが与えられることはなく、繁殖能力に問題があって淘汰される若い乳牛にはセレクトとかスタンダードが与えられる。高齢の病牛や不具の牛の肉は最低等級(カッター・キャナー)になる。

 実月齢が分かれば、生理学的月齢の判別など不要だが、米国では大部分の牛でこれは知りようがない。そこで「成熟度」によって生理学的月齢を判断することになる。成熟度の指標として用いられるのは、骨の特徴、軟骨の骨化、ロース芯の色や質感(きめの細かさ)である。月齢が進むとともに、軟骨は骨化し、肉の赤さが消え、質感が粗くなるからだ。ただし、肉の色や質感は死後の別の要因の影響も受けるから、軟骨と骨の成熟度がとくに重視される。

 仙骨、腰椎、胸椎の間の軟骨の骨化の度合いが有力な指標になる。骨化は仙骨域で始まり、月齢に進むに連れて腰椎域で、最後に胸椎域で始まる。最も若い牛では、胸骨域の軟骨が最も柔らかく、骨化していない。実月齢では、胸骨域軟骨の骨化は30ヵ月で始まるとされる。軟骨の骨化の比率がゼロならば、成熟度はAで、リブは丸く、赤い。骨化が10%、35%、70%、90%の場合には、それぞれ成熟度はB、C、D、Eとされ、Eではリブは白色で平らになるという。

 成熟度と実月齢の関係は、A:9-30ヵ月、B:30-42ヵ月、C:42-72ヵ月、D:72-96ヵ月、E:96ヵ月以上言われている(Dan S. Hale, Kyla Goodson, and Jeff W. Savell,Beef Quality and Yield Grades)。これによれば、30ヵ月位以下の牛を見分けるのは可能だが、20ヵ月以下かどうかの見分けはつかないことになる。

 USDAの見方

 23日の記者会見で、生理学的月齢による月齢推定の誤差はどれほどかと問われたランバート博士は、生理学的成熟度と実際の出生日の関係に関する現在の問題と懸念を認め、だから、この関係と、20ヵ月以下の牛の枝肉だけが利用できる生理学的月齢のレベルを示す提案された研究を進めるのだと語った。

 しかし、ペン農務次官は、非常に若くて屠畜される米国の牛肉生産システムの特徴を強調して、次のように答えている。

 米国で毎年屠畜される3,500万頭の牛の81%は20ヵ月以下の牛だ。その他の19%は、乳牛群または肉牛群から淘汰される乳牛か非去勢雄牛だ。牛肉と牛肉製品向けに直接生産されるこの81%は、次の3段階で生産される。第一段階は、出生から典型的には6ヵ月のときに行われる乳離れまで、その後、典型的には成熟と増体重のために放牧される。これが4ヵ月間。従って、およそ10ヵ月で仕上げのために濃厚・高エネルギー飼料を与えられるフィードロットに入る。この期間は、典型的には4ヵ月から6ヵ月、16ヵ月から18ヵ月で屠畜に送られる。米国肉用牛の大部分は20ヵ月以下で屠畜されるのだから、格付けシステムは20ヵ月以上の牛が日本市場に輸出されないように保証するための「追加保証」として利用されるだけだ。

 議論の焦点は、成熟度で20ヵ月以下であると正確に見分けられるかどうかではなく、成熟度による判定で20ヵ月以上の牛が入ってくる確率なのだ。これは、「米国のと畜した肥育牛群の代表的なサンプルについての生理学的月齢に関する調査分析」により求められる。米国への反論の余地は小さいかもしれない。