ピッシングしていると畜場はいくつ?厚労省・農水省のデータは評価に耐えるのか

農業情報研究所(WAPIC)

04.12.9

 日本のBSE対策見直しに関する食品安全委員会プリオン専門調査会の検討が始まっている。既に3回の会合が開かれた。3回目の12月6日の会合については議事録が未公表であるが、2回目までの議事録を見るかぎり、極めて真摯な議論が行われており心強い。とりわけ、安全対策の基本であり、リスク評価のための不可欠な要素である肉骨粉禁止と特定危険部位(SRM)除去の実効性に関して、これほど真剣に議論されたことはなかったように思われる。全頭検査をやめるという諮問を受けたからであろう。検査に限界があり、全頭検査をしても見逃される感染牛はあるのだから、これらの実効性は以前から徹底的に検証されねばならなかったはずのものだ。しかし、ともかく、その徹底的検証が始まったのは喜ばねばならない。

 そういうわけで、この会合は注意して見守っているのだが、12月6日の3回目の会合に提出された厚労省の資料にどうにも合点がいかない数字を見つけた。と場におけるピッシングに関する数字で、11月16日の2回目の会合では、ピッシングをしているのは161施設中49施設と説明されたが、6日の会合に提出された資料では、160施設中115施設(10月末現在)となっている。いったいどうなっているのか。このようなデータは、リスク評価に直接影響する。この会合に提出された吉川座長の試算における除去されないSRMから来るリスクの評価には、49施設という数字が使われている。新しい数字を使えば、結果はまるで違ってくる。

 厚労省、農水省は、専門調査会に措置の実効性検証に必要な、しかも見やすく整理されたデータの提出を要求されて大忙しのようだ。我々国民も、両省が実効性確保のために何をしてきたのか、分かりやすくなった。

 だが、こんなことが起きるのでは、何も信頼できなくなる。飼料規制の実効性の判断のために提出された農水省のデータは、とても正確な判断に耐えるものではなさそうだ。法令遵守状況の監視や飼料検査の不徹底により、必要にして十分なデータが出せないのだから当然だ。とりわけ、大量に使われる輸入飼料・飼料原料の交差汚染の可能性の判断はほとんど不可能だろう。SRM除去の実効性も、専門委員が真相をとらえるのは難しい。頼るのは厚労省の調査資料だけだが、それ自体がこの有様では、信頼に足るリスク評価などできるはずがない。

 専門調査会は、できないものはできないとはっきり言い、不確かなデータに基づくいいかげんな結論は出さないで欲しい。どんなに不確かで、強引な推測に基づくものであっても、一旦出された数字は一人歩きを始める。

 訂正及び追記(12月10日):常々情報を頂いている方から、ピッシングを行っている施設の数についてご指摘を頂いた。上の記事で「11月16日の2回目の会合では、ピッシングをしているのは161施設中49施設と説明された」としたのは、この会合の議事録で「牛を処理すると畜場161 施設中、ピッシング中の施設が49・・・ 」と書かれていたためであるが、これは「牛を処理すると畜場161 施設中、ピッシング中止の施設が49 」の間違いだろうということである。前後関係からすると、確かにそのようだ。従って、12月6日の会合時に示されたピッシング中止施設45(160-115)と大きくは違わない。ただし、中止を「指導」しているというのに、中止施設が減っている(ピッシングをしている施設が増えている)のは理解できない。指導に逆らい、と畜場のやり方が実際に変わったのか(中止していたのに再開したのか)、それともアンケート用紙のどこに○をつけるかが気まぐれで変わったのか。どっちにしても、リスク評価の材料にするには不確実性が残る。

 ピッシングに限らず、と畜施設内部の直接的な実態把握は厚労省にもできないのだから、SRM除去の実効性の評価はもともと不確実性が伴うことを前提とせねばならない。ただ、ピッシングからくるリスクの不確実性は、EUのようにピッシングを禁止すればなくなる。同様に、背割りからくるリスクの不確実性も、EUのように背割り前の脊髄除去が確実にできる施設のみに操業を許すなら、大きく減らすことができる。しかし、厚労省はどちらもするつもりがない。最大の不確実要因は飼料規制の実効性の不透明のために生じるBSE感染頭数の推定の困難だが、それだけに、その大きな誤差をカバーする検査やSRM除去によるリスク軽減の度合の確かさが重要になる。現状でのリスク評価、少なくとも定量的評価は信頼に足るものにはならないだろうという全体的結論は変わらない。