異常プリオンはフェリチンに乗って腸壁を突破、体内に入る―米国の新研究

農業情報研究所(WAPIC)

04.12.16

 米国ケースウエスタンリザーブ大学の研究が、消化管に取り込まれた異常プリオン蛋白質が別の蛋白質・フェリチンの背に乗って腸壁を通過、血液に入ることを明らかにした。15日付のネイチャー・ニュースが伝えている(Prions piggyback into body,news@nature.com,12.15)。この研究は” Journal of Neuroscience”誌に発表される。

 BSEの大部分は感染動物の組織を含む飼料を食べることで、また人の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)はBSEに汚染された動物組織を食べることで伝播するとされているが、消化酵素で分解されない異常プリオン蛋白質がどのように消化管壁を突破して体内に入り込むのか、これはBSEやvCJDに関してはっきり分かっていないことの一つである。従来、M細胞と言われる免疫活性細胞、あるいは口や歯肉も含む消化管壁の傷などがこのルートではないかとされてきた。

 ニーナ・シンが率いるこの研究チームは、自然発生的クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)に感染した人間の組織の(人間による)消化過程を、これらが口から小腸までの消火官の中で遭遇する人間の消化液で処理することによりシミュレートした。その結果、異常プリオン蛋白質は、鉄を貯蔵し、血中の鉄分が不足してくると貯蔵鉄を血液中に送る役割を演じる蛋白質・フェリチンに乗って血液に入ることをつきとめたという。研究チームは、必ずしもすべてではないけれども、汚染肉中の大部分の異常プリオン蛋白質はこのようにして人体に入ると見ている。

 この研究は、異常プリオン蛋白質が種の壁をどう飛び越えるかについての説明を助けることになりそうだ。フェリチンは広範な動物に共通の蛋白質であり、異常プリオン蛋白質がこれにくっついて移動するのなら、種から種への移動は簡単だ。種の壁など、実はないのかもしれない。

 また、フェリチンが異常プリオン蛋白質を運ぶのを阻止することで、感染予防の決め手が与えられるかもしれない。しかし、シンは、そのためには異常プリオン蛋白質に暴露されたときに処置せねばならず、発病するのはずっと後のことだから、感染予防に利用するのは難しいと言う。

 大変興味をそそる研究だが、BSE、vCJDの感染予防にはつながりそうもない。別ルートでの体内侵入の可能性もある。これまで同様、感染動物・動物組織の食料・飼料チェーンからの排除に様々な手を尽くすしかなさそうだ。感染防止の単純な決め手はない。