BSE対策、飼料規制は「牛肉の安全性を確保する措置ではない」 農水消費・安全局長

農業情報研究所(WAPIC)

05.2.25

 他にも書きたいことが山ほどあるのでこんなことにかかわっていたくないのだが、余りに聞き捨てならない話しを聞いてしまったので筆をとらざるをえなくなった。2月24日の衆院農水委の質疑、民主党の山田正彦議員が、「内外同一というなら、なぜ米国に対し輸入再開条件で肉骨粉の飼料規制を求めないのか」と聞いたのに対し、中川消費・安全局長は、「飼料規制は牛から牛へのBSEの伝播を防止する上で重要だが、牛肉の安全性を確保する措置ではない」と答えたそうである(日本農業新聞、2.25、2面、「衆院農水委一問一答」)。

 これが本当だとすればとんでもないことだ。牛の感染を防ぐことは牛肉の安全を確保するための基本中の基本だ。全頭検査導入で「今後はと畜場において、BSEに感染していないことが証明された安全な牛以外、と畜場から食用としても飼料原料としても出回ることはありません」(農林水産大臣談話(01年10月18日))という神話に踊らされてきた国民の意識も、行政自らが検査の限界を大声で叫ぶようになったお陰で、漸くこのBSE対策の本道に立ち戻りつつある。国内対策見直しを審議中の食品安全委員会プリオン専門調査会も、日本の飼料規制の実効性を懸命に検証しようとしている。輸入再開の前提である米国のBSEリスクの評価でも、これが焦点の一つになるはずだ。しかし、リスク管理の大元の認識がこれでは、そんなことはみな無意味になってしまう。牛の感染リスクは「牛肉の安全性」とは無関係というのだから。

 世界保健機関(WHO)はBSE病原体への暴露を減らすための第一の勧告として、「すべての国は、反芻動物飼料における反芻動物組織の使用を禁止しなければならず、またBSE病原体を含む可能性のある組織をすべての動物または人間の食料チェーンから排除せねばならない。BSE根絶は1999年12月に開かれたWHOの協議の間に勧告された」と述べる(http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs113/en/)。中川局長の認識は、動物と人間の安全にかかわるこの最も基本的な国際的認識ともかけ離れている。未だに動物飼料に特定危険部位(SRM)を使うことを許しながら、反芻動物蛋白質を反芻動物に与えることを禁じるフィードバンは有効に機能している、フィードバンの実行に多少の漏れがあったとしても、人間食料からはSRMを排除しているから牛肉は安全だと主張する米国の考えと変わるところはない。人間さえ安全なら動物の少々の感染は構わないというこの傲慢な態度は、必ず動物からの人間への復讐を招くだろう。

 SRM除去や飼料規制の実効性の確保をしおらしく諮問した行政、少しは変わったのかと期待していたが、実際には少しも変わっていないことがはっきりした。行政が変わらないかぎり、消費者は自ら安全を守るしかない。

 しかし、嘆くことはない。半世紀余り(65年)の筆者の生涯のなかでも、こんなに牛肉を食べるようになったのは(といっても週に一回にもならないが)半分ほどを過ぎてからだ。牛肉など滅多なことでは食べなかった、子供の頃はまったく食べなかった、それでも何の問題もなく、心配もなかったほんのちょっと昔に帰るだけだ。BSEとイイカゲンな行政のお陰で、そんな健全な時代に戻れるかもしれない。牛生産者には困ったことかもしれないが、健康な牛を育てる喜びも戻るかもしれない。

 念のために、議事録が未だないから、引用した局長発言を自分で確認したわけではない。もし、何らかの(ニュアンスも含め)間違いがあれば、この記事は取り消すことにする。