OIE/BSEルール改正に関する意見交換会 消費者団体に深い疑念

農業情報研究所(WAPIC)

05.4.19

 18日、厚生労働省と農林水産省が「OIE(国際獣疫事務局)におけるBSEルールの改正に関する意見交換会」を開いた。主催者は、1)BSEリスク・ステータスと無関係に無条件で輸入を許す物品の拡大、2)BSEリスク・ステータスの5分類から3分類への簡素化、3)特定危険部位(SRM)の範囲の見直し、4)サーベイランス基準の改正の4点に絞って、消費者団体、食品関連事業者(団体)、生産者(団体)などの代表者の意見を求めた。何人かの専門家も議論を支援するための発言を行なった。傍聴席で聞いた主要な論議は次のようなものであった(すべてではない)。

 1)は、無条件で輸入を許す物品に脱骨骨格筋肉(スタンニング、ピッシングなし)、血液・血液製品(同)を追加するというものだ。消費者団体代表は、これら組織の感染性は確認されていないもののの、今後確認される可能性があると指摘、こぞって反対した。一部専門家も、感染性に関する既存の研究は極めて少数の牛についてのもので、一層の研究の必要があることを認めた。しかし、一専門家は、この問題はEUでは既に解決済みだと言い、これを受けた食品関連業界代表はEU基準も拒むようでは日本は孤立する、SRM除去を徹底すれば牛肉は安全と勢いづいた。

 現行EU基準はOIE基準に従い、骨なし肉といえども無条件輸入は認めていないが、この無条件輸入を認めるというのは欧州委員会の立場でもある(⇒Draft written comments of the Community on the report of the meeting of the Bureau of the OIE Terrestrial Animal Health Standards Commission held in Paris, 28 June to 2 July 2004)。5月の総会では、消費者団体や一部専門家の意見は通らないかもしれない。

 2)については、消費者団体の意見も割れた。規制緩和につながるから反対、リスク不明国に一定の輸入条件を要求できるようになるのはよいが輸入条件には問題があるなど。しかし、リスク・ステータスを決定するためのリスク評価やサーベイランスのあり方への疑問の声が相次いだ。EUは分類簡素化を強く支持しているが、やはりリスク評価やサーベイランスのあり方に厳しい注文をつけている。

 3)については、現行規定では、中・高リスク国のSRMを全月齢の牛の扁桃・腸全体、12ヵ月齢以上の牛の脳・眼・脊髄・頭蓋・脊柱、最小リスク国のSRMを30ヵ月齢以上の牛の脳・眼・脊髄・頭蓋・脊柱としている。改正案では、カテゴリー2の国(物品特定的リスク低減措置を実施すれば無視できるBSEリスクの国)のSRMは全月齢の牛の扁桃・回腸遠位部と30ヵ月齢以上の牛の脳・眼・脊髄・頭蓋・脊柱に、リスク不明国については全月齢の牛の扁桃・回腸遠位部と12ヵ月齢以上の牛の脳・眼・脊髄・頭蓋・脊柱になる

 カテゴリー2に含まれる従来の中・高リスク国にとっては、全月齢の牛の腸全体→回腸遠位部、30ヵ月齢以上の牛の脳・眼・脊髄・頭蓋・脊柱→12ヵ月齢以上の牛の脳・眼・脊髄・頭蓋・脊柱への「規制緩和」となる。消費者団体からは反対の声が上がった。食品関連業界は歓迎した。一消費者団体代表からは、SRMに関する規制緩和は、ごく僅かな汚染物質でも感染が起きると分かっている牛の感染を増やすことになるという批判の声も出た。 

 EUは、現在の知見の下では、現行規定を維持しなければならないと主張している。

 4)については、現行基準は、原則としては「BSE様症状牛」を対象とし(不足する場合には死亡牛や通常と殺牛で補充)、30ヵ月齢以上の牛の総頭数に応じて定められる頭数以上の牛を検査するというものだ。改正案では、BSE様症状牛、「歩行困難牛」・緊急と殺牛、死亡牛、通常と殺牛のうちの3つの牛群を対象とし、それぞれの牛群について月齢に応じたポイントを割り振り、24ヵ月以上の牛の総頭数に応じて最低限の合計ポイント数が定められる。

 通常と殺牛のサーベイランスには1頭当たり0.0(9歳以上)から0.2(4-7歳)のポイントしか与えられず、死亡牛には0.1(9歳以上)から0.9(4-7歳)、歩行困難牛・緊急と殺牛には0.2(9歳以上)から1.6(4-7歳)、そして症状牛には45(9歳以上)から750(4-7歳)のポイントが与えられる。症状牛のサーベイランスでは頭数が少なくても大きなポイントが稼げるが、通常と殺牛をいくら検査しても必要なポイントに届かない。

 農水省の説明者は、日本には「症状牛」の例はなく、少数の死亡牛と通常と殺牛の検査しかないから、ポイント数を満たすのは難しいと説明した。17例目のケース(国内17頭目のBSE確認、感染源解明が急務,05.4.8)は「症状牛」としてもよいと思われるが、これもどうせ検査で確定するから、獣医がそのように診断した牛ではないと言う。

 消費者団体はこれに疑問を呈した。個体識別システムがないために月齢が確定できない国もあるという疑問も出た(農水省は、その場合には最低ポイントを当てはめるのではないかと答えた)。一専門家は、「症状牛」の定義をしっかりしないと、「症状牛」の恣意的判定でいたずらにポイントが増えてしまうと懸念を表明した。別の専門家は、安全のための「スクリーニング検査」が「サーベイランス」を兼ねると、通常と殺牛の検査の重要性を指摘した。だが、別の専門家は、EUの通常と殺牛(30ヵ月)の検査は「サーベイランス」以上の位置付けはないと反論した。確かにEUは、検査の第一義を「サーベイランス」としているが、副次的安全措置と位置付けていることは忘れられているようだ。

 筆者は誰も問題にしないので、傍聴席から、「歩行困難牛」(へたり牛、ダウナーカウ)の定義を厳密にする必要があるのではないかと発言した。EUは、「死亡したか、人間消費用の通常と殺以外の理由でと殺された30ヵ月齢以上の牛が検査されるべきである」という立場を取っている。転んで怪我をしたために「援助なしで立ち上がれないか、歩けない」牛を大量に検査して基準は満たしているという米国流のサンプリングがまかり通るのは回避する必要がある。

 最後に、OIE基準は、動物衛生だけでなく、公衆衛生を重視した基準でなければならないという一消費者代表の意見があったことを付け加えておく。一専門家は、OIEは誰も引き受けない仕事を押し付けられた(そんな余裕はない)とはねつけていた。

 消費者は貿易優先のOIEの立場を批判、業界は一層の規制緩和を求めて対立するというのが会合の一般的構図であった。論題を逸脱、SRMさえ除去すれば牛肉は安全と全頭検査批判をぶち上げる一業界代表の発言には、会場からの失笑も聞こえた。