農水省、OIE/BSEコード改正案へのコメント提出 具体性欠くリスクステータス決定の「厳格な要件」

農業情報研究所(WAPIC)

05.5.12

 10日、農水省がOIE/BSEコード改正案に対するコメントをOIEに提出した(http://www.maff.go.jp/www/press/cont2/20050511press_1.html)。

 輸出国(地域)のBSEリスク・ステータスと無関係に貿易が許される物品(無条件物品)に脱骨骨格筋肉(骨なし肉)と血液・血液製品を加えるという改正案には反対するという。と殺・食肉処理過程で異常プリオン蛋白質に汚染される可能性がある、感染牛は完全に処分すべきという規定を他の部分に含むBSEコード改正案そのものや同様のWHO勧告(96年)と整合性を欠く、これら組織の感染性に関してなされた試験は限られており、リスク管理措置の変更につながるような新たな知見はない、などの理由を上げている。さらに、わが国で発見された感染牛の特定危険部位(SRM)以外の組織(10例目の緊急と殺牛の大腿、腰の末梢神経、11例目農場死亡牛の座骨神経、頚骨等の末梢神経組織、副腎)に微量の異常プリオン蛋白質が検出されたという新事実への留意を求めている。

 これは評価できる。ただし、そう言う以上、米国のBSEリスクの厳正な評価を省いて米国産牛肉の輸入を許すような行為は厳に慎んでもらいたいものだ()。

 リスクステータスの3分類への簡素化については受け入れ、「物品特異的なリスク低減措置を実施しなくても無視できるリスク」(第一カテゴリー)については、「BSEが存在しないことを高い水準で証明できる場合」、「物品特異的なリスク低減措置を実施すれば無視できるリスク」(第二カテゴリー)については、「BSEが現に存在しているか、存在しないことを高い水準では証明できない場合」とするべきだとし、輸出に当たり特別の条件が課されない第一カテゴリーの要件については、「真に厳格なものにすべきと考える」と言う。

 しかし、「真に厳格な要件」とは具体的に何なのか、それには言及がない。どうしたらこの要件を確保できるのか示さなければ、これは言葉遊びになってしまう。リスクステータス決定の基準となるリスク評価について、考慮すべきとされるサーベイランスは「個別の条件が統計的に意味ある方法で確立される必要がある」と言う。しかし、この「条件」についても、具体的には言及していない。サーベイランス基準の見直しについては、「現段階においては、科学的、統計学的にさらに明らかにされるべき点があり、この提案を採択するには時期尚早」、「我が国としては、今後その経験とこれまで蓄積してきたデータを提供することにより、サーベイランス基準の改善に貢献したいと考えている」と言うだけだ。これが空文に終わらないように期待したい。

 サーベイランスの問題を含め、現行のリスク評価基準にはいくつかの問題がある。例えばEUが指摘する例の一部は次のようなものだ。

 侵入リスクの評価については、現行基準では、「牛に給餌された可能性がある人間消費用の反芻動物起原の輸入製品」が一つの考慮要因になっているけれども、もし国内にTSEが存在するならば、これは「輸入」製品だけでなく、「国内」製品も含める必要がある。

 フィードバンは、現行基準では反芻動物蛋白質→反芻動物の禁止だが、反芻動物蛋白質と哺乳動物蛋白質の区別は不可能だから、哺乳動物蛋白質→反芻動物の禁止と改めるべきだ。

 リスクステータスの決定に当たり、現行コードは、「サーベイランスと監視のシステムの枠内で採取された脳及びその他の組織の承認された試験所での検査」を考慮するとしているが、この検査の対象を飼料・飼料成分にも拡張すべきだ(フィードバンの有効性を確認するためには飼料検査が不可欠だが、その必要性を否定してフィードバンは有効と言い逃れているいる米国のような国もある)。

 具体性を欠く抽象的なコメントだけで、「真に厳格な要件」を確保できるのだろうか。

 なお、SRMの見直しについては、「感染性を有していることが示されている組織を含む場合にのみ」SRMと指定すべきとする一方、SRM除去月齢については科学的根拠が限られているために緩和に慎重であるべきだと原則を述べる。そして、腸全体をSRMとする現行基準を回腸遠位部のみに改めるという改正案を支持する一方、第二カテゴリーの国について中枢神経の除去月齢を30ヵ月齢とすることに反対、12ヵ月以上とすべきだとしている。

 不思議な話しだ。「感染性を有していることが示されている組織を含む場合にのみ」SRMと指定すべきというならば、30ヵ月齢以上としても支障はないはずだ。今までの試験では、30ヵ月以下の牛の中枢神経の感染性は「示されて」いない。逆に腸のどの部分に感染性があるのかないのか、やはり今までの試験では完全には「示されて」いない。中枢神経の除去月齢を12ヵ月以上と「慎重」を期すなら、腸についても「慎重」を期してよいはずだ。

 (注)日本食糧新聞(5月12日11:02)によると、厚労省と農水省は12日、米国産牛肉の輸入再開について、食品安全委員会に@日本側の同じ定義のSRMの除去A20ヵ月齢以下の牛肉、内臓B成熟度による月齢証明などで米国農務省(USDA)が認証する仕組みに則した牛肉と内臓について国産のリスクと同じかどうかで諮問することを自民党の動植物検疫及び消費安全に関する小委員に説明、了承を得たという。若い牛のものならば、感染牛の骨なし肉どころか内臓(腸や舌?)までも絶対的に安全と思っているらしい。そうでなければ、リスク評価なしの米国産のリスクがリスク評価を経た「国産のリスクと同じ」とする根拠はない。