EU、新たな地理的BSEリスク評価 ブラジルがリスク国に 英国でブラジル牛肉即輸入禁止の要求

農業情報研究所(WAPIC)

05.8.24

 欧州食品安全機関(EFSA)が新たなBSE地理的リスク(GBR)評価の結果を発表した。新たな評価の対象国は、ウルグアイ、パラグアイ、アルゼンチン、ブラジル、チリ、ニュージーランド、パナマの7ヵ国である。

 衝撃的なのは、以前の評価では国内飼育牛に狂牛病はありそうもない(リスクレベルT)とされていたチリが、”国内飼育牛がBSE病原体に感染していることはありそうだが、確認されていない”リスクレベルV、ブラジルが”国内飼育牛がBSE病原体に感染していることはありそうにないが、排除はできない”リスクレベルUと評価されたことである。これにより、両国とも、EUに牛肉・牛肉製品を輸出するに際しては、それが特定危険部位を含まず、肉骨粉を与えられたことのない牛由来のものであることを証明せねばならないことになる。

 チリとブラジルの評価の概要は次のとおり。

 チリ(http://www.efsa.eu.int/science/tse_assessments/gbr_assessments/1072/biohaz_sr_ej39_gbr_chile_en1.pdf

 1980年から2000年までの国内BSE拡散防止システムは「非常に不安定」だったが、外部からの侵入のリスクは1995年までは無視できる。1990年から2000年の間には外部からの侵入のリスクは高く、2001年には国内システムは「不安定」なシステムに改善され、2001年から2003年までの外部からの侵入のリスクは無視できる。

 国内飼育牛が90年代後期に輸入肉骨粉に曝され、チリでの加工過程に入ったリスクはありそうと見られる。

 結論的には、現在のリスクレベルはVで、現在の不安定な国内システムのために、少しでも外部からの侵入があり、あるいは国内飼育牛の感染があれば、BSEリスクの増加につながりうる。2001年に実施されたレンダリング産業の改善と2004年の飼育システムの改善は、システムの安定性を改善、感染性リサイクルのリスクも減らすだろう。

 ブラジル(http://www.efsa.eu.int/science/tse_assessments/gbr_assessments/1073/biohaz_sr_ej38_gbr_brazil_en1.pdf)。、

 1980年から2000年までの国内BSE拡散防止システムは「非常に不安定」だったが、外部からの侵入のリスクは1990年までは無視できる。しかし、この外部からの侵入リスクは1991年から1995年の間には低レベルであるが存在し、1996年から2000年にかけては再び無視できるようになった。2001年には、国内システムは「不安定」なシステムに改善された。

 結論的には、外部からの侵入リスクのレベルを前提にすると、1990年までは国内での感染はありそうもない。しかし、1991年以降、主として1991-95年にBSEリスク国から輸入された牛によって感染が広がった可能性は排除できない。

 リスクレベルはUで、ブラジルのシステムの安定性が低くとどまるかぎり、外部からの重大な挑戦がBSEリスクの増加につながりうる。

 大量の牛肉を輸入するヨーロッパでは、ブラジル牛肉輸入の即時禁止を求める声が上がった(thisiscornwall.co,8.22;http://www.thisiscornwall.co.uk/displayNode.jsp?nodeId=144694&command=displayContent&sourceNode=144660&contentPK=13052945)。

 ヨーロッパ牛肉農民は、ブラジルの安価な牛肉の大量輸入に音を上げている。アイルランドでは、ブラジル牛肉の調達に走るスーパーを牛肉農民が占拠する騒ぎまで起きている。今回の評価結果発表で 、スーパーもブラジル牛肉の輸入を手控えることになるかもしれない。

 しかし、アマゾンを破壊してまで牛肉生産を増やしてきたブラジル農民には死活問題だ。イギリスのスーパーチェーン・テスコは、外国から牛肉を調達するときには、常に国内同等の生産・動物福祉基準を確保し、すべての生鮮肉は明瞭に表示されているという。ブラジル肉輸出協会は、国の牧畜産業は牛 個体にバーコードを与えるハイテクトレーサビリティーシステムを設置中という。

 しかし、ここまでBSEリスクが広がっているならば、人々はあまりに拡大してしまった牛肉産業そのものの縮小を考えるのが先決ではないだろうか。問題は健康リスクだけではない。それはアマゾンを破壊し、ますます深刻化する世界の水不足のなかで、牛肉1kgを生産するのに20トンもの水を使っている。これは地球環境の問題でもある。

 なお、これまでにEUが完了したGBRの評価結果を下の表にまとめておく。3月までの評価結果は既に掲げたが(欧州食品安全庁、新たに3ヵ国のBSE地理的リスク評価を公表,05.3.29)、それを6月に出た新たな評価(スワジランド、ナミビア、ボツワナ:いずれも旧評価のTからUにリスクレベルは高まった)と今回発表された評価で改訂したものである。BSEリスク国はますます広がりつつある。 

GBR 

国名

T

(新評価)オーストラリア、アルゼンチン、バヌアツ、カレドニア、アイスランド、ニュージーランド、パナマ、パラグアイ、シンガポール、ウルグアイ

U

(新評価)ブラジル、ボツワナ、コス・タリカ、ナミビア、ニカラグア、エル・サルバドル、ノルウェー、スワジランド、スウェーデン
(旧評価)コロンビア、インド、ケニヤ、モーリシャス、ナイジェリア、パキスタン

V

(新評価)アンドラ、オーストリア、ベラルーシ、ブルガリア、カナダ、チリ、クロアチア、キプロス、エストニア、フィンランド、旧ユーゴスラビア・マケドニア共和国、ギリシャ、イスラエル、ラトビア、リトアニア、マルタ、メキシコ、サン・マリノ、スロベニア、南アフリカ、トルコ、米国
(旧評価)アルバニア、ベルギー、チェコ、デンマーク、フランス、ドイツ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、日本(評価中断)、ルクセンブルグ、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スペイン 、スイス

W

(旧評価)ポルトガル、イギリス

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