高感度・精度のBSE血液検査法開発に希望ー米国研究チーム

農業情報研究所(WAPIC)

05.8.30

 米国テキサス大学のClaudio Soto教授を中心とする研究チームが血液中の異常プリオン蛋白質を検出する方法を開発した。異常プリオン蛋白質の存否は、狂牛病(BSE)やその人間版である変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)などのいわゆる”プリオン病”への感染の有無の指標となる。今までのところ、、死後の脳検査が診断を確定する唯一の方法であった。感染動物・人の血液中に異常プリオン蛋白質が存在するとしても非常に低濃度で、信頼できる検出方法はなかった。開発された方法が信頼できる方法と確認されれば、一見して健康な動物や人の生前血液検査で病気の有無が確認できることになる。

 そうなれば、感染が発見できないために多大な犠牲を生んできた予防的措置(大量の擬似患畜のと殺廃棄処分、特定危険部位の廃棄、その他の動物副産物の利用制限など)が無用になるかもしれない。発見されなかった感染動物が食料チェーンに入るのを防ぐことで、人間の感染リスクも大きく減らすことができよう(稀な病気とタカをくくっていた牛飼養者が真剣 に感染防止に取り組む効果もあるかもしれない。死亡したからと内密に埋め立てるわけにもいかなくなる)。輸血や臓器移植によるvCJD感染のリスクも減る。さらに、潜伏期間の長いvCJDの将来の発生規模の予測にも役立つだろう。

 BSE対策の根本的な見直しにつながりうる検査方法の開発は、28日、Nature Medicine誌のオンライン版で発表された(abstract:http://www.nature.com/nm/journal/vaop/ncurrent/abs/nm1286.html)。

 研究チームが開発したPMCAと呼ばれる新技術は、脳内で異常プリオン蛋白質が正常プリオン蛋白質を異常型に変える分子過程を速めるものという。血液中に存在する異常プリオン蛋白質を音波エネルギーに曝すことで、その量を検出可能なレベルにまで急速に増やす。実験に使われたサンプルに含まれる異常プリオン蛋白質は48時間で1000万倍にも増えて検出可能なレベルに達したという。

 この方法で、既に発症した18匹の感染ハムスターの血液を検査した。そのうちの16匹の血液に異常プリオン蛋白質が検出された。感度は90%近いことになる。他方、非感染ハムスター12匹の検査では、異常プリオン蛋白質はまったく検出されなかった。すなわち、精度は100%、偽陽性ゼロということだ。

 ただし、この結果が直ちに自然感染した動物や人間にも一般化できるかどうかは分からない。今後、自然感染した動物や人間についても検査してみる必要があるという。また、未だ症候を示さない動物についての検査も必要だ。

 APの報道によると、ケース・ウエスタン・リザーブ大学のRobert B. Petersen神経病理学教授は、過去のスクレイピーの羊の研究では、6ヵ月の羊の血液に異常プリオン蛋白質が発見されたが、より高齢の羊からは発見されなかった、これは病気の自然な進行が異常プリオン蛋白質の一時的存在にかかわる可能性を示唆してると言う(New Process May Lead to Mad Cow Diagnosis,AP via Yahoo!news,,8.28)。また、ネイチャー・ニュースによると、同教授は、ハムスターの脳に異常プリオン蛋白質を注入する際にできた突き刺し傷がその血流への拡散を助けた可能性があり、この異常な状態が検査の感度を人工的に高めたかもしれないと言っている(Blood test detects deadly prions,news@nature,8.28)。とすると、他の研究者によっては同じ結果を再現できなかったこれまでの同類の検査法を超えられない可能性も残る。

 また、少なくとも健康な人間の血液検査には倫理的問題もある。治療法がないvCJDに感染していることがわかった人をどう扱うかが大問題だ。検査を将来のvCJD発生の予測のために使われるだけならば、問題は少ないだろう(匿名にできる)。しかし、感染者の献血を防ぐために使われるとすれば、この問題は避けて通れない。この目的に使うためには、並行して治療法が確立されねばならないだろう。牛の生前検査には牛飼養者の抵抗もあるかもしれない。

 しかし、ネイチャー・ニュースは、「ともあれ、検査はどれほどの隠れたキャリアー(保菌者)が英国に住んでいるかの問題に答えることを助ける可能性がある。この問題の解決は将来の病気発生の予測を助け、また製薬企業に治療に投資する理由を与えるかもしれない」と結ぶ。