中間サイズの異常プリオン凝集体で最も高いプリオン病感染性ー米国研究者

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.9

 米国ミネソタ・ロッキーマウンテン研究所の研究チームが、最も感染性が高い異常プリオン蛋白質凝集塊は中位の長さをもつもので、それよりも長いものや短いものでは感染性も、正常プリオン蛋白質を異常形 に変える力も弱いという新たな研究結果を発表した(*)。これは、狂牛病(BSE)の人間版とされる変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)や、アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性病の治療にヒントを与えるが、治療への実際の応用は慎重を要するという。

 アルツハイマー、パーキンソンやBSE、vCJD等の伝達性海綿状脳症(TSEs)は、しばしば大きなアミロイド微小繊維を伴う異常蛋白質の脳内への蓄積で特徴づけられる。しかし、このような微小繊維やより小さな繊維状重合体が病気の主因なのかどうかは分かっていない。TSEsにおける異常な蓄積物は異常プリオン蛋白質に富む。異常プリオン蛋白質は、それが接触する正常プリオン蛋白質を異常形に変えることで増殖、異常プリオン蛋白質の鎖を形作る。長いものは脳内でひも状をなすが、短いものは一層感染を広げる能力をもつかもしれない。

 研究者たちは、感染性・異常形への転換能力(転換性)と、異常プルオン蛋白質の様々な凝集体のサイズの関係を評価するために、ハムスターから採取したこれらを分解、サイズによって分留した。こうしてサイズが分かっている”ひも”を別のハムスターに注入し、それぞれの感染性と転換性を調べた。その結果は、プリオン分子14-28に相当する質量をもつ非繊維状粒子がTSEsの最も効率的な病気誘発要因であることを示唆しているという。

 21分子のものを注入されたハムスターはほぼ90日後に病気で死んだ。300分子のものを含む溶液を注入されたハムスターは、溶液濃度を70倍に上げた場合にのみ90日後に死んだ。プリオン分子5以下のものでは、通常のハムスターの寿命である2年間生きていた。

 このことは、異常プリオン蛋白質の凝集体の分解で異常プリオン蛋白質の形成や拡散を防ぐ治療法がありありうることを示唆している。しかし、研究を率いたSilveira氏は、異常プリオン蛋白質のクラスターを「十分に小さなものに分解できれば、その病原性を取り去ることができるかもしれない。問題は、中間のサイズを通過することなく、これらの小さなサイズのクラスターを得ることだ」と言う。これは、アルツハイマーやパーキンソンの治療法も示唆するが、それはこれら分子の連鎖を一層病原性の高い中間の長さに分けることになるかもしれず、これに対しても慎重という(**)。

 *Jay R. Silveira et al.,The most infectious prion protein particles,Nature 437, 257-261
    abstract:http://www.nature.com/cgi-taf/Dynapage.taf?file=/nature/journal/v437/n7056/abs/nature03989.html
 **Roxanne Khamsi,Smaller prion clusters are catching,news@nature,9.7
     http://www.nature.com/news/2005/050905/full/050905-9.html