米加産牛肉輸出プログラム遵守状況査察結果発表 国民への説明責任を果たしたのか

農業情報研究所(WAPIC)

05.12.27

 厚生労働省・農林水産省が26日、米国・カナダ産牛肉・牛内臓に関する輸出プログラム遵守状況の査察結果を発表した。ここでは、12月13日から24日までに行われた米国に対する査察の結果のみを見ることにするが、結論は、査察した「各パッカーとも輸出プログラムの実施に必要な手順が文書で定められており、当該文書に従った作業が実施されていた」というものだ。

 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/12/h1226-2.html

 しかし、これは当たり前のことだ。査察団受け入れが予め決まっていながら敢えて違反行為を犯すパッカーがあるはずがない。これらパッカーは周到に準備してきたはずだ。常時の監視か、抜き打ちの査察の結果でなければ、各パッカーが常時輸出プログラムを遵守しているとは誰も信用できない。 それを拒否する施設からの輸入は禁じるだけだ。このような査察自体が意味をなさない。子供の使いにもならない。

 百歩譲って、これらのパッカーでは、いつでも査察時と同様な作業が行われていると仮定しよう。しかし、日本に輸出する他のパッカーはどうなのか。これはまったく分からない。査察場所は、コロラド、カンザス、テキサス、ネブラスカ、カリフォルニアの「11施設及び関連施設」と言うが、今までに日本向け輸出を認められた供給者は37に上る ()。

 USDA/AMS:Official Listing of Eligible Suppliers to the EV Program for Japan
 http://www.ams.usda.gov/lsg/arc/evjapanlisting.htm

 米国は、これらすべての施設から輸出してくるだろう。米国食肉輸出連盟(USMEF)は、2006年の日本向け輸出数量を10万トンと見込んでいる。これは当然ながら、日本向け輸出を認められたすべての施設からの輸出を見込んだものだろう。

 http://www.usmef.org/TradeLibrary/News05_1222a.asp

 厚生労働省・農林水産省は、当面11施設からの輸入だけを認め、他の施設からの輸入許可は今後の査察に待つというのだろうか。それはありえない 。既に輸入・販売が始まっている。マスコミ報道によれば、焼肉店「でん」(ゼンショク運営)は16日から米国産牛肉(ロース、カルビ、ハラミ、バラ)の販売を再開した。北海道を地盤とするスーパー・カウボーイは26日から札幌市内の4店舗で、四国が地盤のマルナカも26日から3日間、空輸のサーロインと肩ローススライスを四国4軒130店で販売するという。これらの牛肉は一体どこから来たのか。仮に査察対象となった施設からであるとしても(発表はこれらの施設名も明らかにしていないから、確かめようがないが)、査察結果が示される前に輸入されたことは明らかだ。国民は、既に、輸出プログラムの遵守状況不明な施設からの牛肉を食べさせられることになっている。 何のための査察なのか。それは現実の輸入許可とは何の関係もない。

 査察団は、最も重要な飼料規制の遵守状況についても調べたようだ。しかし、「今回の査察において、米国の飼料規制から逸脱した事例は認められなかった」と言うだけだ。どこで、何を、どう査察したのか、具体的説明はまったくない。これでは説明にならない。

 要するに、査察団には、国民が抱く疑問にまともに答えようとする姿勢がまったく見えないということだ。米加産牛肉・内臓の輸入再開につながった食品安全委員会の答申は、厚労・農水両大臣に対し、「国民に対して、米国及びカナダにおける牛肉及び牛の内臓の生産管理の状況や輸出プログラムの遵守状況の検証結果について、十分に説明を行うべきと考えます」と述べたが、両省 はこの義務を果たしていない。だが、国民はこれを質し、一層の説明を求める手立てを与えられていない。

 http://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hy-tuuchi-usabeef17.pdf

 それは食品安全委員会の任務だろう。その答申は、「米国及びカナダからの牛肉及び牛の内臓の輸入を再開する場合には、輸出プログラムの遵守の確保のために万全を期すとともに、遵守状況の検証結果について適宜報告を行うようにお願いします」とも述べていた。食品安全委員会は、検証結果の「検証」に責任を持つということだろう。それは、今回の検証結果に満足するのだろうか。

 (注)会社単位で見ても17社(American Foods Group、American Foods Group、Cargill Meat Solutions、Creekstone Farms Premium Beef、Greater Omaha Packing Company、Harris Ranch Beef Company、Masami Foods、Moyer Packing Company、National Beef Packing Company、Nebraska Beef、New City Packing Company、PM Beef Group、Premium Protein Products、Smithfield Beef Group、Swift Beef Company、Tyson Fresh Meats、Washington Beef)。なお、日本の食品安全委員会が見込んだ輸入可能数量の推計では、米国内大手パッカーは6社(33工場)で約82%をと畜、小パッカー(1.000-1,500頭処理/日)は、cowやbullを主に加工しているので、日本向けの牛肉を加工するとは考えにくい、としていた。
 http://www.fsc.go.jp/senmon/prion/p-dai30/prion30-siryou4.pdf